きみの温もりの隣に立っている



広々した部屋が余計に広く感じて、なまえは無意識に肩を落とした。
リヴァイが十日間の海外出張に行ってから今日で五日目、同棲してから初めてのリヴァイの長期出張に寂しさが募るまでそう時間は掛からなかった。

(リヴァイさんがこの前の私の出張の時、わざわざ来てくれた理由が分かる気がする…)

同棲する前はどんなに長い間会えなくてもなんとか耐えられていたのに、どうしてここまで心細く感じるのだろうか。
項垂れたまま視線だけをぐるりとリビングにやったなまえは、当たり前のことだがいたるところにリヴァイの痕跡を見つけて益々しょんぼりとしてしまう。別々に暮らしていた時とは違い、彼の温度や面影が常に近くに感じられるようで、それが寂しさを増長させているらしいと漸く思い至る。

「…掃除しよ」

リヴァイから私室の掃除を頼まれている。せっかく天気が良い日なのだから、洗濯物と一緒に布団も干してしまおうと自分を奮い立たせて立ち上がった。



「チッ…相変わらずこの国の味付けはクソ濃いな…」

「ほう…お前が食事にケチつけるとは珍しいな」

異国の地で不機嫌そうに眉を寄せながら溜息を吐くリヴァイに揶揄うように答えたのは、この出張に同行しているエルヴィンだった。取引先の本社があるこの陽気な国には何度も来ているが、そもそも食事に頓着しないリヴァイが感想を述べる方が珍しいと思わず口角をあげる。
どうせリヴァイの頭にあるのはなまえの作った手料理なのだろうとあたりをつけるが、この男がそれを素直に認めるはずがない。

「まだ五日目だろう。もうホームシックか」

「気持ち悪ィこと抜かすな。こんな食事を毎日取ってるからあの豚どもも身体だけがブクブクと肥えていくんだろうが」

辛辣な物言いに苦笑したエルヴィンは、両隣でカチカチに固まっている部下に視線をやった。エルヴィンの部署からはアルミン、リヴァイの部署からはエレンが今回の案件を担うということで、リヴァイたちに遅れて昨日から合流していた。

「リヴァイ、アルミンが怯えているだろう。食事は楽しくしようじゃないか」

「い、いえっ…僕はそのっ…」

「…それを言うならエレンもだろうが。てめぇに馴れてねぇんだ、こんな上司に付き合わなきゃいけねぇコイツの身にもなってやれ」

「じ、次長っ、オレは大丈夫ですから…!」

リヴァイの乱暴な言葉や態度には慣れているエレンも、エルヴィンの胡散臭い笑みや貫禄には度肝を抜かれているらしい。対してアルミンも噂通りのリヴァイの様子に縮み上がりながらも、今日の取引先とのやり取りを思い出して高揚感を覚えていた。

「あの、リヴァイ次長、今日の商談…とても勉強になりました」

「あ?あぁ…どうせ金勘定しか頭にねぇ豚野郎どもだ。向こうが有利だと思ってても、こっちがエサぶら下げてやれば目の色を変えて食いついてきやがるからな」

「はい…まさかライバル会社にアポを取ってるとは…全く思い付きませんでした」

「あれはエルヴィンの案だ。相変わらず下手な博打を打ちやがる。アルミン、お前は真似すんじゃねぇぞ。お前の持ってきた案は堅実で悪くなかった」

「あ、ありがとうございますっ…!」

「ひどいなリヴァイ。アルミンには私も期待しているんだ。酸いも甘いも知っておくべきだと思ってな」

「リヴァイ次長っ、オレも頑張りました!」

「てめぇはアルミンの慎重さを少しは見倣え。馬鹿みてぇに突っ込んでいってんじゃねぇよ」

「くっ…すみません…」

居た堪れなそうに肩を竦めたエレンを軽く小突いたリヴァイは、ポテトを口の中に放り投げて思い切り顔を顰める。あまりの塩っぱさにグラスのシャンパンを一気に呷った。空になったグラスにすぐさまおかわりを注いだエレンを見て、アルミンが苦笑する。
取引先の初めから小馬鹿にしたような物言いにエレンが苛々していたのには気がついていたが、エルヴィンとリヴァイが素知らぬ顔をしていたのでソワソワしながらも見守るしか無かった。そして話が膠着状態に陥って中々進まなくなった時、取引先がニヤニヤ笑いながら態とらしく眉を寄せて言い放ったのだ。

「まぁそちらさんがそこまで言うなら考えてみるけどね。こんなちっぽけな取引の為に部下まで引き連れてくるなんて、御社もギリギリなのかい?」

「ハハッ…ま、こっちとしては損をしなければいい話だからね。この若いボウヤたちの勉強の為にも協力しようじゃないか」

「だがもし取引が成立すれば、このボウヤたちが担当になるんだろう?それはちょっと不安だな」

お国柄の冗談だったのか、エルヴィンとリヴァイの淡々とした態度を腹に据えかねたのか、英語で告げられる嫌味にアルミンはグッと唇を噛んだ。が、エレンは限界だったらしい。ガタン、と勢いよく立ち上がったエレンの顔は真っ赤に染まっており、今にでも詰め寄りそうな雰囲気を漂わせていてアルミンは慌ててしまう。

「オイっ、アンタらなぁっ…!」

「…そうか。ではこの話は無かったことにしてもらおう」

「えっ…?」

エレンが口を開くと同時に、リヴァイが真っ直ぐに取引相手を見ながら静かに告げた。急な方向転換に慌てたのは向こうで、忙しなく瞬きをしながら思わず腰を上げた。

「な、なにを…」

「御社にとってはちっぽけな取引のようだし、こちらの担当者に不安があるというのなら健全な取引は出来ないだろう。大変残念だが話は白紙に…」

「い、いや、待ってくれっ…!それではそちらも困るだろう!」

「いや、せっかくこんな辺境の地まで来たんだ。新しい取引先も開拓しようと思っていてな。ちょうど明日、ある会社とこの製品の話をしようとアポも取れている」

そう言ってリヴァイが告げた会社名は、取引先のライバル社と目されている会社だった。信じられないというように目を見開いた彼らは、パクパクと口を開閉させながら何とかリヴァイを思い留まらせようと説得に掛かっている。先ほどまでとは逆転した彼らの姿を、アルミンとエレンは呆然と見ることしか出来なかった。

「…まぁリヴァイ。こちらもここまで言ってくれているんだ。せっかくの縁だ、ここら辺で手を打ったらどうだろう」

「…了解だ、エルヴィン」

ホッと胸を撫で下ろしたのは取引先の彼らで、アルミンたちは当初よりも大分安価な契約で取引を締結することが出来たのだった。
詐欺師のようなやり取りを目の当たりにしたアルミンとエレンは、上司たちの有能さと恐ろしさに震えながら祝杯をあげたのだった。

「しかし…こんなにすぐに取引が締結されるとは思いませんでした」

「こんなクソみてぇな話に時間なんて掛けてられるか」

「でもリヴァイ次長、出張はあと五日ありますよね…?」

「エレン、てめぇ…稟議書読んでねぇだろ。このあと回る新規の数社の取引先の方が重要だ。あの豚どもに割く時間が惜しい」

「リヴァイ…いくらスムーズに取引先をまわっても早く帰れることはないからな」

「…黙ってろ」

不機嫌そうに舌打ちをしたリヴァイを不思議そうに見るアルミンとエレン。会社に重要な仕事でも残してきたのだろうかと、眉間に皺を寄せるリヴァイの心情を慮った。

「あぁ、リヴァイはね、大事な恋人が心配で仕方ないのさ」

「オイ、余計なことを話すんじゃねぇ」

「あっ、あの可愛い彼女さんですか!」

「エレン、てめぇはその脳味噌からアイツの記憶を削除しろ。今すぐだ」

「そ、そんな無茶な…」

ガンっとエレンの椅子を蹴ったリヴァイの無茶振りに顔を引き攣らせるエレン。予想外のエルヴィンの言葉に驚いたアルミンは、その横顔を凝視してしまう。

「あ、え、と…リヴァイ次長ってお付き合いされてる人、いらっしゃったんですね」

「…悪ィか」

「い、いえっ!その、それを知ったら泣く女性社員がたくさんいるだろうなーと…」

「は?んな阿呆な奴らがいるか」

「ハ、ハハハ…」

呆れたように言ってから再びグラスを空にするリヴァイと即座に注ぐエレン、そして面白そうににこにこ笑っているエルヴィンを視界に、アルミンも引き攣った笑いを浮かべるしか出来なかった。

「リヴァイ、この国の名産は宝石だろう。せっかくだからなまえさんに土産を買っていけばいいじゃないか」

「…そんな時間ねぇだろうが」

「お前が今日取引を締結してくれたおかげで、明日一日は余裕がある。エレンとアルミンも初めての海外出張なんだ。たまには外国で羽を伸ばしても良いだろう」

「え、エルヴィン部長、じゃあ明日は…!」

「君の想像通りだ、エレン。来たばかりの君たちには悪いが、明日は一日フリーにしようじゃないか」

「…オイ。海外が初めてのコイツらを放っておいていいのか」

「アルミンがいれば問題ないだろう。とはいえ、ホテルを出る時と帰って来た時には私に連絡をくれ。あといつでも携帯は繋がるようにしておくこと。いいね?」

「「はいっ!」」

嬉しそうに目を輝かせながら明日の予定を話し合うエレンとアルミンを温かい目で見守り、エルヴィンは次いで難しい顔をするリヴァイを見遣った。
普段ならエルヴィンのこうした気まぐれを咎める彼も、今回ばかりはこの提案に心が揺らいでいるらしい。

「…お前はどうするんだ」

「こっちにいる友人と会う予定になっている。数年ぶりだから楽しみでね」

「チッ…織り込み済みかよ」

視線を彷徨わせたリヴァイも漸く納得したらしい。話はついたとばかりに立ち上がったエルヴィンが、伝票を手に取って踵を返した。

「では明日はフリーだ。ここは私が払おう。リヴァイ、彼らを頼むよ」

「…了解した」

「あっ、エルヴィン部長、お疲れさまです!」

「ご馳走さまです!」

立ち上がって頭を下げたエレンとアルミンに軽く手を振ったエルヴィンの背中が見えなくなる。紅潮した頬のまま言葉を交わす二人を、頬杖をつきながら眺めてリヴァイは口を開いた。

「…オイ、ガキども。早く食っちまえ。置いていくぞ」

慌てた二人分の返事と食事を掻き込む音を聞きながら、リヴァイはぼんやりと恋人の姿を思い浮かべた。
この前のなまえの長期出張が珍しいことで、何時もならリヴァイの方が出張で留守にすることが多い。今回は久しぶりの海外出張だが、それを告げた時のなまえの反応はあっさりとしたものだった。

「あ、分かりました。今度はどれくらいですか?」

「…十日だ」

「リヴァイさんの海外出張にしては短いですねぇ」

「…お前な。もう少し違う反応があるだろ」

いかにも慣れています、というように笑いながら受け入れるなまえに複雑な心境になるのはリヴァイの身勝手な思いからだ。あんなになまえの出張を嫌がった自分に比べ、なまえのこのさっぱりとした反応はなんだ。
きょとんと首を傾げたなまえの髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。「わっ、リヴァイさん!」と焦ったように頭に手をやるなまえが不服そうに尖らせた唇に、軽くキスを落とした。

「…留守の間、俺の部屋の掃除も頼んでいいか」

「もちろんです」

途端に機嫌を直したなまえが甘えるように擦り寄ってくるのをしっかり抱えてやる。
二人で見繕って新調したソファーの上でじゃれるなまえからは、ふんわりと石鹸となまえ自身の香りが漂っていた。その甘い香りにリヴァイの欲が刺激されるが、まだ週の真ん中だと自制心をフル活動させた。

「…あ、」

「なんだ。どうした」

そのままリヴァイの腕の中でテレビを観ていたなまえが、ふと気が付いたように声を上げた。くるりと振り返ったなまえの瞳が物言いたげに揺れているのを見て、リヴァイは目を瞬いた。

「…なまえ?」

「リヴァイさん…出張って女の人も一緒ですか…?」

一瞬の逡巡のうち、リヴァイと目を合わせたなまえが不安そうに告げた疑問に、リヴァイは切れ長の目を僅かに見開く。その質問の真意に思い至れば緩む頬を抑えきれなかった。

「心配する必要はねぇよ。むさ苦しい野郎だけだ」

「っ、そっか…」

「エルヴィンとエレン…は知ってたな?あとはエルヴィンの部下でアルミンって奴だな」

「…変なこと聞いてごめんなさい」

キュッと唇を窄めたなまえが恥ずかしそうにはにかんだ。意地悪そうに口角を上げたリヴァイがその目を覗き込む。

「なに心配してんだ」

「…分かってるくせに」

「俺はエスパーじゃねぇからな。何を考えたのか、ちゃんと言え」

「…出張とはいえ、女性と二人だったらやだなーって思ったんです」

「…そうか」

「もうっ、リヴァイさん、絶対分かって言ってるでしょ!?」

「なまえよ…俺がお前以外の女とどうにかなると思ってんのか」

「そんなの分からないじゃないですか…。リヴァイさんモテそうだし、特に海外なんて開放的になって一晩だけでいいから…ってなるかもしれないし」

「ほう…なまえは俺がそれに応える男だと思ってるわけだな」

「…思ってないですよ?思ってないけど、私以外の人がリヴァイさんに触れたら嫌だなって思っただけです。だから…女性が一緒じゃなくて良かったです」

仕事なのにごめんなさい、と申し訳なさ半分、そもそも無駄な心配だったと恥ずかしさ半分で謝ったなまえの照れた笑顔と告げた言葉に、リヴァイの理性がプツンと切れた。無言でそっとソファーに押し倒したリヴァイをなまえが驚いたように見上げている。

「リヴァイさん…?」

「お前は本当に…簡単に俺を煽りやがる」

「え、え、あの…」

焦った様子でなまえが伸ばした手を優しく握って、リヴァイはそのまま赤く潤う唇に噛み付いたのだった。



無心で掃除をしていたらすっかり日が暮れてしまっていた。ソファーの下を掃除している時には先日リヴァイに激しく抱かれた記憶が蘇ってしまい、気恥ずかしさの反面ますます侘しくなる。
その時ふとリヴァイの私室で見た光景が目に浮かんで、無意識のうちにギュッと服の裾を握った。

(…ちょっとだけならいいかな)

先ほど掃除の時に見つけた、リヴァイが部屋着と使用しているスウェットを引っ張り出して、ドキドキと高鳴る胸を堪えたままシャワーを浴びた。
しっかりと身体を拭いてから纏ったそのスウェットからは微かにリヴァイの香りがしてきて、なまえは頬を綻ばせた。

「リヴァイさん、やっぱり大きいんだなぁ…」

リヴァイが小柄とはいえ、男性用のスウェットはなまえには大きく袖口も裾も折らなければ着られない。
洗濯をしてあってもリヴァイの香りがちゃんと染み込んでいるようで、まるでリヴァイに抱き締められているようだとふやけた思考になってしまった。リヴァイには絶対に知られたくないが、帰ってくるまではこれを着て寝ようとなまえは一人微笑むのだった。


その頃のリヴァイは、疲れた身体をベッドに横たわらせて携帯を弄んでいた。
一日フリーだった今日、なまえへの土産を探して街中の店を渡り歩いてしまった。そのおかげで良い物が手に入ったが、慣れない買い物に心身ともに疲れ切っている。

「…電話、してみるか」

夕食はアルミンとエレンを連れ出す予定だが、それにはまだ時間がある。時差があるので向こうは夜の十時頃だろうと当たりをつけて、なまえの名を履歴から呼び出した。今日一日なまえのことを考えながら彼女に合う土産を探していたからか無性に顔が見たくなって、らしくもなくテレビ電話を起動した。
メッセージアプリでやり取りはしていたが、出張に来てから電話は初めてだ。なまえはテレビ電話に驚くだろうか、と少しワクワクした気持ちで応答を待てば、数コールの後驚いたなまえの顔が映し出された。

『リヴァイさんっ!?』

「よう」

『え、これ、電話…え、テレビ電話ですかっ…!?』

「何言ってんだ。お互い顔が見えてるだろうが」

余程慌てているのか、恐らくよく確認もしないまま出たのだろう。すっぴんなのに、とか、お風呂上がりで、だとか言いながら落ち着かないように前髪を触っているなまえの姿に、疲れた身体が癒されていくのを感じた。

「ふっ…慌てすぎだ」

『だ、だって…』

「変わりはねぇか」

『はいっ…寂しいですけど、あと五日ですもんね…』

眉根を下げて笑ったなまえの笑顔が寂しげで、リヴァイは疼く胸を持て余す。寂しいのはお互いさまだと内心告げるが、表面上は冷静になまえを宥めた。

「んな顔すんな。あぁ、今日お前に似合いそうな土産を買ったぞ」

『わっ、なんだろう…楽しみです』

「大したモンじゃねぇ。あまり期待すんな」

『リヴァイさんが選んでくれたものなら何でも嬉しいんです』

本当に嬉しそうに笑うなまえにむず痒さを感じていると、「ちょっと待っててくださいね」となまえが画面越しに離れていく。紅茶を淹れている途中だったらしく、こちらに戻ってくるなまえの全身を見てリヴァイは大きく息を呑んだ。

「オイ、なまえ、それ…」

『え、どれです……か……っ!』

最初は顔だけだったので気がつかなかったが、なまえが離れたことでその全身をしっかりと見ることが出来た。見覚えのあるスウェット姿に、まさかという思いとともに思わず口元を押さえる。
リヴァイが気がついたことを見て取ったのか、首を傾げていたなまえがハッとした表情になってみるみるうちに頬を染める。

『あ、あの、りば、リヴァイさん…ちがっ…』

「…なんつー可愛いことしやがるんだお前は」

『リヴァイさんっ…あの、リヴァイさん…?』

呟いたリヴァイの言葉は聞こえなかったらしい。
口元だけでは飽き足らず、目元を片手で覆ってしまったリヴァイに焦った声でなまえが呼び掛ける。呆れられたか、気持ち悪いと思われたかと、血の気が引く思いでオロオロと視線を彷徨わせることしか出来ない。

「なまえ…それ、俺の部屋着だろ」

『ご、ごめんなさい…!』

掠れたリヴァイの声音をどう思ったのか、益々焦った様子のなまえが必死で頭を下げて謝っている。テレビ電話に驚いて、自分の格好をすっかり失念したまま出てしまった自身を恨むしかない。

『あの、新しいやつ買ってきますので…!その、これはちゃんと処分しま…』

「ふざけんな。俺が帰るまでそれを着てろ」

『へ…?』

「絶対に捨てんじゃねぇぞ。毎日それ着て待ってろ」

『え、あの…怒ってないんですか?気持ち悪いとか…』

「…思うわけねぇだろ」

むしろ逆だ、と唸るように告げたリヴァイにホッと胸を撫で下ろす。知られてしまった恥ずかしさには耐えられそうにないが、ひとまず呆れられては無さそうで安堵した。

『…ほんとにごめんなさい。ちょっと寂しくて、思わず…』

「…その手があったか」

思わず呟くが、自分がなまえの部屋着やらを出張先に持ってくるような変態行為はさすがに出来ないと冷静になって、頭を振る。もしエルヴィンに知られた日には二度と彼の顔を見られなくなるだろう。

「…まぁ、なんだ。そんなんで寂しさが紛れるならいくらでも着てろ。そして絶対捨てんじゃねぇぞ」

『は、はい…』

「あと少しで帰るから。いい子で待ってられるな?」

『…はい。リヴァイさんがいいって言ってくれたので、毎日これ着て寝ますね』

あ、ちゃんと洗濯はします!と懸命に主張するなまえに、目尻を和らげて喉奥で笑った。テレビ電話をして良かったと心底思う。予想外のなまえの行動と可愛さに心臓が鷲掴みにされたが、寂しがっているのがリヴァイだけでは無いと分かって胸の奥が温まる気がした。

「…また電話していいか」

『もちろんです!ふふっ…これ着てリヴァイさんの顔見ながらお話出来ると、リヴァイさんに本当に抱き締められてるみたいで嬉しいです』

「…は」

なんだこの素直で可愛い生き物は。
完全に語彙力すら失ったリヴァイが長ーく息を吐きながら今度は両手で顔を覆ってしまったのを見て、慌てたなまえが画面越しに必死にリヴァイの名を呼び続けるのだった。


そして帰国後。
リヴァイの帰宅を大いに喜んだなまえにきっと似合うだろうと購入したネックレスを渡すのもそこそこに、彼女を抱き上げたリヴァイが寝室に籠ったのは言うまでもない。


-fin

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