大嫌い、大好き、大好き(前)



我慢をしてきたつもりも、気持ちを押し殺してきたつもりも無かった。けれどきっとどこかで限界がきていたのだ。
きっかけは些細なこと、だけど一度綻びた歪みは、きちんと修復しなければどんどん広がっていくものなのだと、なまえはいやに冷静な頭で理解していた。
目の前で驚いたように切れ長の目を見開いて、何かを言いたそうに唇を開いたリヴァイの言葉を遮る。今は何も聞きたくなかった。

「…お互い冷静になる時間が必要ですね。私、暫く家を出ます」

「は…?オイ、なまえ、何言って…」

「このままじゃ良くないですし、私もこれ以上嫌な女になりたくありません。とりあえず此処を出ます」

「っ…なまえっ!」

淡々と告げて扉へ向かったなまえの腕を慌てて掴んだリヴァイの手を思いきり振り解く。酷く傷ついたような彼の顔が視界に入ったが、全てを振り切るようになまえは足早に部屋を出た。リヴァイが戻ってくる間に数日分の荷造りは終えていた。本当は顔を見る前に出て行きたかったが仕方がない。
秋に入ったばかりの夜風は煮え滾った頭にちょうど良くて、リヴァイが追ってこないことに傷ついている自分勝手な女心を嘲笑しながら、なまえは大きく溜息を吐いた。



話は一カ月前に遡る。
ピンポーン、と軽快に鳴ったインタフォーンに、なまえは読んでいた雑誌から顔を上げた。土曜日の真っ昼間、リヴァイはいつも通りの休日出勤だ。
点滅するランプがオートロックの入口を解錠するものではなく、すぐそこの玄関先を示していることに疑問を抱きつつ俄かに緊張してしまう。
宅配業者が勝手に入ってきたのかと恐る恐るモニターを覗けば、なまえと同世代くらいの女性が立っているのが見えて思わずホッと息を吐いた。誰かは知らないが女性というだけで安心して、軽い気持ちで応答ボタンを押す。

「はい?」

『え?あ、すみません、リヴァイ・アッカーマンさんに』

「今不在でして…」

『じゃあどなたでも結構です。仕事関係でお渡ししたいものがありまして』

なまえの応答に一瞬驚いたように目を見張った彼女だが、すぐに穏やかな笑顔になってモニターを見詰めている。郵便や宅配ではなく、仕事関係だという。断るべきか迷ったなまえだが、自宅までわざわざくるような仕事関係の相手を無碍には出来ないと考え直し、扉を開けた。
途端に、ガッと扉に手をやって大きく開け放った女の顔は先ほどとは真逆の嘲りの笑みを浮かべていて、なまえは漸く自分の浅はかさを悟った。

「リヴァイ、いないの?」

「…失礼ですがどなたでしょう?」

「あなた、リヴァイの今の恋人?」

「…どなたですか」

「私、リヴァイの元恋人なの」

顔を合わせた時から予感はしていたものの、女の勝ち誇ったような表情に咄嗟に顔が強張ってしまう。
スラリとした身体付きから匂いたつような色香を放ちながら、女がなまえをじっと見下ろした。

「リヴァイがいないならあなたでいいわ。私の化粧水とか化粧道具を取りにきたの。あの人、メール一つで別れ話をしたきりうんともすんとも連絡が無くて。高いものなのよ、それを受け取ったら帰るわ」

「…すみませんが家主がいないので分かりません。お引き取り頂けますか」

「はぁ…めんどくさい女ね。じゃあリヴァイに伝えて。一式返してって。連絡先、まだ知ってると思うし」

「分かりました。では」

「あら、この絵画、まだここに飾ってるのね」

淡々と答えたなまえが扉の向こうに踵を返そうとした瞬間、女の弾んだ声音が耳朶を打つ。思わず振り向くと、玄関先に飾ってある絵画をしげしげと見つめる女の姿が目に入った。

「これ、私がリヴァイにプレゼントしたものなの。へぇ、元カノからのプレゼントをまだ飾ってるなんて、よっぽど気に入ったのね」

「そうですね、とても素敵な絵ですもんね」

にっこりと笑って答えたなまえを面白くなさそうに見た女だが、直ぐに笑みを浮かべて眼を細める。そして「じゃあリヴァイによろしくね」と手をヒラヒラと振って去っていくその後ろ姿には、余裕が満ち溢れていた。



そしてその日の夜。
悶々とした半日を過ごしたなまえだが、リヴァイにはきちんと話さなければと腹を括っていた。
リヴァイに過去何人か付き合っていた女性がいたことも知っているし、彼女たちがこの家を知っていたとしてもおかしいことはない。だが、元恋人の私物が残っているのは流石にどうにも耐え難かった。

「リヴァイさん、お帰りなさい」

「あぁ、遅くなって悪かったな」

夕飯には大分遅い時間だが、若干疲れを滲ませて帰ってきたリヴァイが優しくなまえの髪を梳く。
なまえの出張先に遊びに来てくれて以降、リヴァイは多忙な日々が続いていた。そんな中で嫌な話をしなければならない申し訳なさはあるが、また彼女が来訪してくるかもしれないと思うとなんとか早く解決したい。

「リヴァイさん…」

「ん、なんだ。この豆腐ハンバーグ、美味ぇな」

「あ、ありがとうございます。じゃなくて、あの、実は…」

眼を細めて満足そうになまえが作った食事を咀嚼するリヴァイ。その様子に絆されそうになったなまえだが、意を決しておもむろに口を開いた。

「今日、リヴァイさんの元恋人と名乗る人が来ました」

「ぐっ…ゴホッ…な、は…?」

「なんでも置いていった化粧水とかを返して欲しいようで。連絡が欲しいと言っていました」

「オイ、待て待て待て。何の話だ…つーか待て…順序立てて話してくれ」

啜った味噌汁を吐き出しそうになったリヴァイの珍しく焦った様子を見ながら、なまえは淡々と話を進めた。最初から説明するなまえの話を聞いていたリヴァイの眉間の皺がどんどん深くなっていき、話が終わる頃にはくっきりと皺が刻まれていた。

「…言いたいことは山ほどあるが。まず仕事先の奴がアポ無しで俺が不在の時に来ることはねぇ」

「それは…私が浅はかでした。すみません」

「いや、なまえが謝ることじゃねぇが…。いくらセキュリティーがあるとはいえ、物騒な世の中なんだ。知らねぇ奴は出なくていい」

「はい」

「それから…なんだ。元恋人って奴だが…その、悪かったな」

「いえ…」

気まずそうに頬を掻くリヴァイを冷静に見つめるなまえの様子に、リヴァイの方が焦ってくる。怒ったり悲しんだりする様子も見せないなまえに不安な気持ちが溢れ出してきそうで、リヴァイは思わず咳払いをした。

「誤解がねぇように話しておきたいんだが…いいか?」

「はい、もちろんです」

「そいつは俺が過去に関わりがあった女に違いはねぇ。だが、俺は今まで付き合ってきた女を家に泊めたことはねぇよ」

「え…?でも…」

「化粧品やらなんやらを置いていたってのは、そいつの嘘だ。大体二年以上前の話なんだ、仮に置いてあったとしても普通残ってるとは思わねぇだろ」

「はぁ…」

きっぱりと告げたリヴァイの話に、なまえはポカンとしながらただ頷くことしか出来なかった。言われてみれば、同棲してからも女物の化粧水や化粧品を見たことは無かったし、リヴァイが隠している様子も無ければそんなメリットも無い。
ぱちくりと目を瞬かせるなまえを安心させる為に、リヴァイは立ち上がってそっとその手を取った。

「変なことに巻き込んで悪かったな」

「え、じゃあ…なんでここに来たんですかね?」

「…気を悪くしないで欲しいんだが」

ギュッと手を握ったなまえに促されるように、リヴァイがポツリポツリと言葉を紡いでいく。
彼女からこの一カ月ほど復縁を迫る連絡が来ていたこと、その気は無いことと恋人がいることを一度返信したが諦めず、電話やメールが続いていたこと、面倒だとは思いながら仕事が忙しくて放置していたこと。
申し訳なさそうになまえの様子を伺いながら話すリヴァイがどこか幼子のように見えて、思わず小さな笑みが浮かんでしまった。

「…笑ってんじゃねぇよ」

「ごめんなさい。だってリヴァイさんがあまりにも不安そうだから…」

「そりゃお前な…」

気まずそうに視線を彷徨わせるリヴァイに、漸くいつもの笑みを浮かべたなまえがもたれ掛かった。すぐさまその身体を抱き締めたリヴァイの心臓の音がいつもより早い気がして、なまえは益々笑みを深くする。

「さすがにびっくりしましたけど、別にリヴァイさんの浮気を疑ってた訳じゃないですから大丈夫ですよ」

「…話聞いて、寿命が縮まったぞ」

「それはこっちの台詞ですよ。まさか人生でこんな場面に出くわす羽目になるとは思いませんでした」

「あいつには今後一切この家に近づくなと伝えておく。近づいたら警察を呼ぶともな」

「そこまでは…」

「お前の身に何かあったら後悔してもしきれねぇ。それを伝えるために一度だけ連絡するが…それ以降は着拒とメール拒否をするから、それまで待ってくれるか」

「もちろんです。ありがとうございます」

頷いたなまえをホッとした表情でもう一度抱き締めたリヴァイの温かさに身を委ねる。チラリと脳裏を過った一抹の不安、玄関先の絵画のことは忘れることにして、なまえはそっと目を閉じた。



リヴァイが浮気をするとは思っていない。
そうリヴァイ自身に告げた気持ちに間違いはない。なまえのことを大切にしてくれることも、多忙な中時間を作るために同棲を提案してくれたことも、リヴァイなりの愛情表現をしてくれていることもちゃんと分かっている。
分かってはいるが、だからといってやっていいことと悪いことがあるだろうとなまえは目の前の光景を目に焼きつけながらぼんやりと考えていた。

「リヴァイ、この後時間あるんでしょ?」

「あるわけねぇだろ」

「もうそんなこと言って」

クスクス笑う女の笑い声が耳障りで、なまえは緩く首を振る。前を歩く二人はなまえの姿に気がついていないだろうが、まるで恋人同士のように寄り添う二人に沸々と腹の底から怒りが込み上げてきた。
今夜も遅くなるというリヴァイのメールを受け取った後、明日の朝食を作る材料が無いことを思い出したなまえは財布だけを持って家を出た。お風呂も済ませていたのでスッピンだし服装もラフなワンピースだが、マスクと帽子でなんとか隠して冷たくなる夜風に目を細める。

(リヴァイさんと一緒になったりしないかな)

そう考えながらスーパーのすぐ隣にある自由通路をふと見たなまえは、そこにリヴァイの姿を見つけてパッと顔を輝かせた。遅くなると言っていたが、いつもよりは大分早い時間だ。明るくなった気持ちのまま、なまえに気付かず背を向けてしまったリヴァイに声を掛けようと口を開いたその瞬間。

「リヴァイ。お待たせ」

「…遅ぇよ」

見覚えのあるシルエットがリヴァイへと駆け寄って、思わずなまえは足を止める。間違いなく元恋人と名乗った女で、些か呆然としたまま咄嗟に柱の影へと身を隠した。柱一つを隔てた向こう側には二人の姿があって、ここからでも十分会話は聞こえるはずだ。

「要件を早く言え」

「もう…そんなに急かさないでよ。久しぶりなんだからどこか入らない?」

「ふざけんな。そのつもりはねぇ」

「じゃあ少し歩きましょ。話は歩きながらするわ」

リヴァイから望んで彼女と会っているわけではないようで、そこは安堵の息を吐く。だが遅くなると嘘をついてまで彼女と会っていることにモヤモヤが止まらない。
ここで正々堂々と姿を見せられればいいが、スッピンで身の着のままの自分が、綺麗に着飾って背筋を伸ばしている彼女の前に立てば、リヴァイに比較されてしまいそうで足が進まない。渋々歩き出したリヴァイの背中を眺めていたなまえだが、一瞬の逡巡のうちにそっと足を進めてその背中を追いかけ始めた。

「…こうやってまた二人で歩けると思わなかった」

「あのな、メールでも伝えたが俺には…」

「ね、あのソファーってまだあるの?」

「は?」

「ほら、あの革張りのブラウンのソファー。あそこで盛り上がったこと、あったわよね」

「…覚えてねぇな」

人の数はそう多くない。
見つかっても仕方がない距離だが、幸か不幸か二人が振り向くことはなく、なまえの耳には会話が入ってくる。その会話に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、思わず立ち止まりそうになった。
艶やかな彼女の声音の真意は明らかで、それに答えるリヴァイの苦い声を聞けばそれが本当なのだと推察出来た。
なまえ以外を家に泊めたことは無いと言ったあの言葉は嘘だったのか。リヴァイとなまえが寄り添って、たわいもない話をするあのソファーでリヴァイは彼女を抱いたというのか。

「あとほら、玄関先の絵画、まだ飾ってくれてたのね」

「…あ?あぁ、あれはお前から貰ったやつだったか」

「ひどい!リヴァイがあの画家が好きだっていうから、誕生日にプレゼントしたんじゃない。私が飾ったの忘れちゃったの?」

「…そうだったな」

自分は何をしているのか、となまえは不意に冷静になった。こんな風にコソコソと二人の後を付け、会話を盗み聞きしてショックを受けている。
自分が卑しい人間になった気がして頭が急速に冷えていった。これ以上ここにいても仕方がないと踵を返そうとしたなまえの耳に、女の声が飛び込んできた。

「ね、私今日誕生日なの」

「そうか」

「リヴァイの誕生日は祝ったのに、私の誕生日に何も無いのはおかしくない?あの絵画だって高かったのよ」

「もう別れてんだから関係ねぇだろ。アレが欲しいならくれてやる」

「そういうことじゃないの。ね、プレゼント買ってよ」

「は?ふざけんな。なんで俺が…」

「ふーん…じゃあ…」

声を潜めた女の言葉の続きは聞こえなかった。
それでもリヴァイが「…何が欲しいんだ」と苦々しげに答えた声だけが聞こえて、なまえはそのまま走り出す。人にぶつかるのも気にせず、そのままマンションまで走ったなまえは部屋に飛び込むなり玄関先にズルズルと座り込んだ。

「…リヴァイさんの馬鹿」

あのまま二人は誕生日プレゼントを買いに行くのだろうか。蹲って膝を抱えたまま込み上げてきそうになる涙を必死に堪えた。
どれくらいそうしていたのか、のろのろと顔を上げたなまえの目に、彼女が買ったという絵画が入ってきて思わず唇を噛む。そして衝動のまま旅行用のバッグを取り出し、無心で必要なものを詰めていく。明日は土曜日だしどこかしらホテルを取ればいいと、沸騰しそうな頭で考えていると不意に玄関の扉が開く音がした。

「なまえ?いるのか?」

鍵も掛けず、インターフォンにも答えないなまえを心配するような訝しげなリヴァイの声がした。大方詰め終わったバッグを半ば呆然と見下ろして、なまえは立ち竦んでしまう。

「なまえ、ここか。…オイ、どうした?」

薄暗い部屋で突っ立っているなまえに驚いたのか、リヴァイが慌てて近づいてくる気配がした。
と、不意にくるっと振り返ってリヴァイを真っ直ぐに見つめるなまえの表情が能面のようで、リヴァイは咄嗟に足を止める。

「なまえ…どうし…」

「リヴァイさん、私に何か隠してることありませんか」

「な、に…何もねぇよ」

「そうですか。じゃあ今まで誰とどこに?」

「なまえ、お前本当にどうした。何があった」

「あの元カノさんに何をプレゼントしてあげたんですか?」

リヴァイが息を呑む。
ゆっくりと瞬きをしたなまえがほんの少しだけ笑みを浮かべて、ベッドの上の荷物を持ち上げた。

「なまえ…」

「ごめんなさい。たまたま二人でいるのを見掛けて…後をつけちゃいました」

「…誤解だ」

「分かってます。前にも言いましたけど、リヴァイさんが浮気してるとも、あの人とどうこうなるとも思ってません」

「じゃあなんで…なんでそんなに怒ってるんだ」

リヴァイの掠れた声に、確かに自分は何に怒っているのかと頭の隅で自問自答を繰り返す。浮気を疑っている訳でも無く、心変わりを憂いている訳でもないのに、どうして自分はこの部屋から出て行こうとしているのか。

「…あぁそっか」

そして唐突に理解した。
なまえに全てを隠し、自己完結させようとしているリヴァイに怒っているのだと。

「なまえ…?」

「あの玄関先の絵画って、元カノさんから貰ったものなんですね」

「…悪い。本当に忘れてたんだ。他意はねぇ」

「あと…ごめんなさい。ソファーでって言うのも、聞こえちゃいました」

「っ、違うんだ。いや、そうじゃねぇ…」

「リヴァイさん、他の女性を泊めたことないって言ってましたよね」

「…泊めたことがねぇのは本当だ。あいつも泊めずに帰してる」

「そうですか…」

「なぁなまえ、悪かった。お前に黙ってあいつに会ったことも…色々訳があるんだが、黙っていたことは事実だ。それに絵画も…ソファーも全部捨てよう。そうだ、次の休みに新しいものを…」

「っ、そういう問題じゃありませんっ…!」

リヴァイが必死に言い募る言葉を途中で遮った。
悲鳴まじりのその声に、リヴァイがハッと目を見開いて口を噤む。ワナワナと震えそうになる唇を何とか堪えて、なまえは募った思いを爆発させた。

「どんな形であれ、隠し事されたのが嫌です…!彼女に誕生日プレゼント、買ってあげたんですか!?なんで?なんでそういうことするんですかっ…!?」

「なまえ、違うんだ!俺は…」

「リヴァイさんの過去は変えられないですよ!元カノがプレゼントしたものだろうと使ったものだろうと、確かに嫌ですけどそれは仕方ないですっ…。けど、それよりもっ…リヴァイさんは何でも勝手に自己完結して、私の気持ちなんて考えてないじゃないですか!」

「何言って…何の話だ?」

「どうせリヴァイさんのことだから自分ひとりで解決しようとして、元カノさんの呼び出しに応じたんですよね?誕生日プレゼントでも買えば、もう付き纏わないとでも言われました?」

「…なまえ」

「じゃあ私が同じことしていいんですね?私が元カレと黙って会って、一度だけだからデートしようって言われたからって二人でデートしてきていいんですよね?」

「っ、良いわけねぇだろ…!」

「じゃあなんでリヴァイさんはやるんですか!?」

泣き声が混じったなまえの震える言葉が、リヴァイの胸を鋭く貫く。こんな風に悲痛な想いをぶつけてくることも、泣くまいとグッと唇を噛んで必死にリヴァイを睨みつけるなまえの姿は初めてで、リヴァイは二の句も継げない。

「リヴァイさん…元カノさんとどうやって別れたんです…?」

「…どうやってって」

「メール一本で終わらせられたって言ってました。本当なんですか?」

「…あぁ」

「リヴァイさんは女を舐めてます」

悔しそうに顔を歪めたなまえが吐き捨てた言葉に、リヴァイの頭にもカッと血が昇る。なまえのことを思って黙って済ませるつもりだったことが、何故こんなことになっているのか。混乱と怒りが、リヴァイの口から言ってはならなかった言葉をスルリと吐き出させた。

「…だから女はめんどくせぇんだ」

「リヴァイさん…」

ハッと気がついた時には遅かった。
慌てて顔を上げたリヴァイの目に映ったのは、悲しそうに目尻を下げてギュッと唇を噛んだなまえの姿だった。その瞳に決意の色を見て取って、リヴァイの胸がスッと冷えていく。

「ちげぇ…今のはお前にじゃなくて…」

「リヴァイさんの本心なんですよね、それが」

「なまえ、悪かった…」

「…私と別れたくなったら、メール一本で済ませますか?面倒だから?」

「なまえと別れたいと思うわけねぇだろ!」

「じゃあ私が別れたくなったら、メール一本で終わらせていいんですね?」

「何…何言ってんだ…」

「リヴァイさんがしてきたのはそういうことです。リヴァイさんのこと、大好きですけどそういうところは大っ嫌いです」

きっぱり言い切ったなまえが再度荷物を持ち上げて大きく息を吸った。そして。

「…お互い冷静になる時間が必要ですね。私、暫く家を出ます」

そう言って静かに出て行ったなまえを追いかけようと思うのに、根が生えたように足を動かすことが出来ない。もしまた振り解かれたら立ち直れる気がしない。

「…馬鹿か、俺は」

ぐしゃりと前髪を潰したリヴァイの呟きは床に落ちて溶けた。


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