別室へと移動になった私達は、そこで、続きの授業を受けることになった。
対・悪魔薬学の授業は、薬草の名前など、覚えなければならないことが沢山ありそうだった。
ある程度時間が立ち、ようやく授業の終を迎えると、雪男くんは教材を持って教室を出ていった。
私はそれを追うように、荷物を持って駆け出した。
勢いよく扉を開け、教室を飛び出し彼を探せば、少し向こうに歩いているのが見えた。

「ゆ…奥村先生!」

大きめの声で、彼を呼べばすぐにこちらに振り返って、「はい」と返事を返す彼に私はたったと駆け寄ると、彼は少し目を丸くして、私の顔をまじまじと見つめる。
すこしの間、その驚きの色を浮かべた表情を、眺めていれば、彼の方から口を開いた。

「どうしましたか?結崎さん」

少し他人行儀なその返答は、きっと、教師の顔なのだろう。

「えっと、奥村…雪男くんだよね?」
「ええ、そうですよ。」
「えっと、覚えてる…かな?私のこと。」

先生としての顔を崩さずに答える雪男くんに、少し不安になりつつも、そう問いかける。
すると、それを聞いて、優しく笑いかける雪男くん。

「覚えてますよ。結崎伊織さん。久しぶりですね。」

そう答えた雪男くんに、ぱぁっと顔を綻ばせれば、雪男くんも、ニコリと笑いかけてくれる。
それが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

「ほ、本当に!覚えててくれてるの!!わぁ!ありがとう!」
「いえ、僕こそ、覚えててくれていて嬉しいですよ。」
「雪男くんが先生だなんて、びっくりしたよ!久しぶりだね。」
「そうですね。あれは、小学2年の時だったのでもう7年ぶりですか。」
「うん!うん!また雪男くんに会えて私とっても嬉しいよ!」

えへへと、笑いかければ目を少し見開いて驚いたような顔をする。
そして、少し遅れて、フィッ、っとそっぽを向かれてしまった。

「ゆ、雪男くん?」

そっぽ向かれてしまった事を不思議に思い、名前を呼べばはっとしたように、こちらを向いた。

「い、いえ、なんでもありません。僕も嬉しいですよ。結崎さん、すぐに転校してしまいましたし…。」
「…そうだね。でも、燐も雪男くんも私のこと覚えててくれてるなんて本当に嬉しいな。」

そういって、笑えば雪男くんは今までで1番優しげな笑顔で私を見た。

「それは、きっと結崎さんだったからですよ。」
「私だったから?」
「ええ、結崎さんはとても優しくて強い方でしたから。とても印象に残ってますよ。」
「そんな、大袈裟だよ。」

照れ笑いながら言えば、雪男くんも笑ってくれた。

「結崎さん、良ければ少し待っててくれませんか?」
「え?」
「僕も今日はもう帰りますので、その…良ければ、一緒に帰りませんか?」
「……っ!うん!いいよ!待ってる!」

その嬉しいお誘いに私は嬉嬉としてOKをだした。
その返事を聞けば、足早に駆けてゆく雪男くんの後ろ姿を眺め、あぁ、大きな背中だなぁ…。と思った。

少し待てば、急いだような雪男くんがやって来て、お待たせしましたと声をかけた。
それには私は気にしないでと答えれば、2人で歩き出した。

他愛もない話をしながら、私達は寮へと向かう。
その中でわかったことは、雪男くんは特進科で、入学式では新入生代表だった事だ。私にその記憶が無いのは、多分寝てたからだと思う。
女子寮まで送ってもらうと、雪男くんはそのまま帰っていくようだ。

「…あれ?ゆ、雪男くん男子寮そっちじゃないよ!」
「あぁ、いいんです。それでは、おやすみなさい。」
「え!?あ、うん…おやすみなさい」

明らかに、進む方向が、違うことを教えても笑って行ってしまった。
その理由を知るのはもう少し後になるのだが、今はただ首を傾げるのみであった。



prevnext

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -