窓から差し込む、明るい光に目を覚ます。
あれから、2日…。今日は、正十字学園始業の日である。
むくりとベッドから起き上がると欠伸を押し殺して、時計を確認すれば、7:00。
寝坊はしていないようだ。高校が始まるのが今日であっても祓魔塾の授業は昨日もあったのだ、そちらの勉強も怠れない。疲れているのか、やはり体は重いが、ふらつく足を何とか支えつつ、着替えて、部屋を出た。

朝ごはんを食べ、身支度を済ませ、寮を出たのが7:30過ぎである。
初日から遅刻なんて、恥ずかしいことにならなくて良かった。ホッとしつつ、私は自分のクラスへと足を向ける。

そう言えば、まだクラスに友達いないのか…。
祓魔塾では、燐や、雪男くんもいた。
それに、勝呂君たちも…。その事ですっかり忘れていた、彼ら以外に知り合いなどいないことを…。
ここは、人数も多い。同じクラスになれる確率など低いのである。

「と、友達できなかったら、どうしよう…。」

正十字は進学校である上に、お金持ちの方達も集まるという。

「な、馴染めるのかなぁ…うぅ」

不安な気持ちを押し殺して、自分のクラスである1-Cにたどり着く。
一つ深呼吸して、教室に入れば、もう何人かは登校してきていた。
少しずつグループもでき始めている。

一先ず、自分の座席を確認し荷物を置いて、席につく。

そう言えば、こういうアウェイな感じなんて、小学校以来だよ。中学は公立で、ほとんど知り合いばっかりだったし。

ただただ不安に押しつぶされそうになっていると、隣に誰かが来て、隣に来て机の横にしゃがむと、「ねぇ」と声をかけてくれた。
その、声にパッと顔を上げれば、髪を低い位置で二つ結びにした女の子がニコリと笑ってこちらを見ている。

「は、はい!な、何かな?」

オドオドとした態度で答えると、その後はふっと吹き出して笑った。

「あはは。そんな、警戒しないでよ!私は、前の席の谷塚陽姫(ヤツカ ヒメ)って言うの。あなたのお名前は?」
「あ、私は結崎伊織です。よろしくです。」
「うん!よろしく!」

ニッコリと笑ったその子は、とても優しそうで、とても元気な子だった。
陽姫ちゃんは、ここには知り合いがおらず、不安だったらしい。
声をかけられた時はそんなことなど微塵も感じられなかったが……。

彼女との会話はとても楽しく、この1年付き合っていく仲になりそうである。

「あれ?伊織ちゃん?」

ふとそんな声をかけられて顔を上げれば、見覚えのあるピンク色の髪の毛の男の子。
その特徴的な髪を視界に捉えれば、弾かれたように彼の名を呼んだ。

「し、志摩くん!?」
「おん。昨日ぶりやね、伊織ちゃん。同じクラスやなんて、嬉しいわー。」
「う、うん!私もだよ!良かったー!知り合いが居てくれて!」
「そない喜んでくれるなんて、ほんにかいらしなぁ。」

志摩くんが同じクラスにいることに安堵して、ニコニコと話をしていれば隣からツンツンと陽姫ちゃんが、つつくのでそちらを見れば、不思議そうにこちらを見ている。

「あ、えっとね、知り合いの志摩廉造くん。」
「ちょっ!伊織ちゃん知り合いやなんて、友達でええやろ?」
「…いいの?」
「あ、あれぇー……俺友達やとおもてたんに、酷いわぁ…」
「え、ごめんね!馴れ馴れしいかと……。」
「そんなん気にせんといて!坊や子猫さんかてそうおもてはると思うで?」
「そっか…うん。じゃあ、改めて、陽姫ちゃん、こっちは友達の志摩廉造くんです!」
「うん。聞いてたからなんとなく分かってたよー。私は谷塚陽姫だよー。うんうん、しかし、今日会ったばかりだけど伊織って、鈍感なのかなぁ?」
「ど、鈍感!?そんなことないと思うんだけど…」
「いやいや、あながち間違ってないと思うよ。」

陽姫ちゃんは私の方を見て、鈍感だというのだから、心外である。
志摩くんも志摩くんで笑っているのだ。
私自身はそんなに鈍感ではないと思う。
しかし、否定すれども、陽姫ちゃんは全く信用してくれない。むしろ、ちょっと面白がっているようにも見える。
むぅっと、口を尖らせ、頬を膨らませれば、「ごめんごめん」と笑いながら頭を撫でられてしまった。

志摩くんは、それを面白そうに見てから、他の子にも声をかけに行ったようだ。
志摩くんはコミュニケーション能力の高い人間である。ふと視線を向ければ先ほどとはまた別の人と話しているのだから、本当に驚きである。

「志摩くん…すごいねぇ…私、あそこまでフレンドリーにはなれないかも」
「うん、凄いよね。声かけてるの女の子の方が多い気もするけど…」

尊敬の念を抱くも、苦笑いが浮かぶ顔でお互い見合っていると、扉が開く音と共に、先生らしき人が入って来た。
先生は生徒に着席を促すと、最初の授業を始めた。
授業と言っても、今日は始業の日、ほとんど説明するだけの様なものである。はじめの挨拶から始まり、注意事項、自己紹介と、長々と続く話に少しずつ眠気が襲ってくるのに耐え続け、ようやく終わる頃には、話を聞くだけなのに疲れきっていたのだった……。

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「はぁ、疲れたぁー。話聞くのってどうしてこう疲れるんだろうねー。」
「不思議だよね…。」

何度か休憩をはさみつつ、今日の分の授業は終わった。
皆、寮へ戻る準備をしたり、話をしたりと様々である。

私はといえば、この後は祓魔塾へ行って、授業なので、そちらへ移動である。

「陽姫ちゃんは、もう帰るの?」
「うーん。そうだねー、伊織は?」
「私は行くところがあるんだ。」
「そっかー。じゃあ、また明日だね。」
「うん。じゃあね!」

そう言うと、陽姫ちゃんは鞄を手に持ち、それとは反対の手で私に手を振ると、教室を出て行った。
その後に、私もカバンを持って立ち上がった。

「あ!伊織ちゃん、ちょっと待って!」
「え?」

教室を出ようとしていた矢先、誰かの声に呼び止められ、後ろを振り向けば、志摩くんがタッタとこちらへ駆け寄ってきた。

「伊織ちゃんも今から祓魔塾やろ?一緒に行かへん?」
「え?うん、いいよ?志摩くんはいいの?勝呂くんとか、三輪くんとか。」
「今日は向こうで待ち合わせなんや。せやから、大丈夫!」

いつもと変わらぬ、ニコニコとした顔で言う志摩くん。疑問を尋ねればどうやら心配ないらしい。

「ほな、行こか。」

そう促されれば、横について歩く。

「ねぇ、志摩くん…」
「ん?なに?」
「歩かなくてもそこら辺の扉でいいんじゃない?」

祓魔塾へは鍵さえあればどこの扉からでも行き来できるのだ。初日は警戒して、人気のないところを探したが、そこら辺の扉から入っても問題は無いはずだ。
その質問に笑顔を携え志摩くんは答える。

「えー。だって、まだ授業まで時間あるし、折角やから伊織ちゃんとお話しよー思たんやけど…あかんかった?」
「いや、ダメではないよ。うーん…志摩くんがそうしたいなら、そうしようかな。せっかくのお誘いだしね。」
「ほんまに?やった。ありがとう。伊織ちゃん!」
「こちらこそ、お誘いありがとう。嬉しいよ。」

えへへ、と照れ笑いながら答えれば、志摩くんはへにゃりと笑った。

「ほんに、伊織ちゃんは、かいらしいなぁ…癒されるわぁ…。」

そう言って志摩くんはまた笑う。
癒し…かどうかは、私には分からないが、一つ気になることがあった。きっと、方言なのだろうが、聞くのも3度目になるので、流石に気になる言葉があるのだ。

「ねぇ、志摩くん。志摩くんがよく言ってる"かいらしい"ってどういう意味なの?」

首をかしげながら問う私に、志摩くんはすぐに答えてくれた。

「あぁ、かいらしいって言うんはな、可愛ええって意味なんや。伊織ちゃんは可愛ええし、癒されるなぁって言うたんや。」
「かっ!?」

志摩くんは淡々と答えてくれているが私にとって、当然驚きである。
彼はほんとに自然に言うが、こちらは言われ慣れていない言葉に頬が熱くなるのを感じる。
今にも頭から湯気が出てしまうのではないかと思うほど、熱が集まっているのがわかる。

「そ、そそれは、し、知らなかった。そ、そんな意味だったんだね。」

何とか返事を返しても、紡がれる言葉はぎこちなくなってしまう。

「あれ?伊織ちゃん照れてはるん?」
「なっ!て、照れてないです!」
「でも、耳まで真っ赤やん。はは、ほんに、かいらしいなぁ」

横から私の顔を除く彼は、にやりと笑って、楽しそうに私をからかうのだ。
それに、悔しくなって、私は反対に顔を逸らす。

「う、うるさいです。言われなれてないんです!志摩くんはもう少し自重してください!」

そう言い放ち、スタスタと先に歩き出した私だが、それを追うように、クスクスと笑いを堪えきれない志摩くんが楽しそうについてくる。
その後、顔の熱が収まる頃には私の心中もらだいぶ穏やかになり、祓魔塾に行くまでたわいない話で志摩くんと時間を潰したのだった。


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