これは一体どういう事なのだろうか。
この教室に1人の教師が入ってきて、その彼が奥村雪男だと名乗ったのだ。
当然赤の他人だとも考えられるが、燐の驚く様を見れば、それが燐の弟、先程話題にも上がった、あの奥村雪男であることは、間違いないように思えた。

ど、どうして雪男くんが?その前に、教壇に立ってるってことは、雪男くんが、教師!?

驚きのあまり、思考が停止しそうになる私などお構い無しに、話は進んでゆく。

「お察しのとおり、僕は皆さんと同い年の新任講師です。…ですが、悪魔祓いに関しては僕が二年先輩ですから、塾では便宜上"先生"と呼んでくださいね。まず、まだ魔障にかかったことのない人はどのくらいいますか?手を上げて」

その言葉を聞き、私はハッとした。
たとえ、講師が誰であれ、ここは、祓魔塾。
祓魔師になるための塾だ。本気で祓魔師を目指す人がここに集まっている。
その事を、私は少しだが忘れてしまっていた。
いままでの、邪念を払うように首を横に振ると、真っ直ぐに"先生"の方を見た。

今から行うのは魔障の儀式。どうやら、この教室にはまだ、魔障を受けておらず、悪魔の見えていない人間がいるようなのである。
そんな人達に悪魔が見えるようにするための儀式がそれなのだと言う。

この教室は、普段は使われてはおらず、悪魔の巣なのだと言う。
その悪魔達をおびき出し儀式を行うのだそうだ。

私は幼い頃、それこそ、物心ついた頃には悪魔が見えていた。当然この儀式は必要ない。

儀式の準備が整うまで待てということだったので、私は少しゆったりと椅子に座り直していたが、その時だった。
私よりも少し前に座っていた燐が立ち上がり、雪男くんに怒鳴り声を上げたのは……。

少しずつ雲行きが怪しくなる会話に少しずつ不安と嫌な予感が過ぎる。

すると、燐が雪男くんに掴みかかり、持っていた試験管が手から滑り落ちると、高い音を立てて、割れてしまった。

あっ、と思った時にはもう遅かった。
丁度、私の一列前に儀式で使うはずだった小鬼と呼ばれる悪魔が現れたのだ。

辺りからは、悲鳴が聞こえる。当然私も立ち上がり後ろに後ずさる。
教室は混乱状態。
すると、私の右側にいた女の子二人に向かってそれらは襲いかかるが、咄嗟に銃を取り出し、発砲した雪男くんのお陰で怪我をすることは無かったが、悪魔の暴れ回る、教室に素人がいるのは危険である。

雪男くんの避難指示に従って私達は扉から廊下に出る。私も廊下に避難する。

「ザコだが数が多い上に完全に凶暴化させてしまいました。すみません僕のミスです。申し訳ありませんが…僕が駆除し終えるまで外で待機していてください。」

的確で冷静な指示を出す雪男くん。
その後に燐も出るように促すが、聞かず変わりに足で勢いよく扉を閉めてしまった。

「燐…雪男くん……」

中から聞こえてくるけたたましい音に二人の身を案じている私の後ろで、ふと男の子の声が聞こえた。

「なんなんや、あいつ。」

それを言ったのはきっと、金髪の彼であろう。
そっと、後ろを振り向き、そーっと彼の方を見れば、不機嫌そうに「あ?」と言われてしまった。
それに私はびくっと肩を震わせ縮こまる。

「坊。女の子にそない怖い顔したら、あかんよ。怖がってしもとるやん。堪忍な。大丈夫?」
「あ、えっと、だ、大丈夫です。」

私を気にしてくれたのか、ピンク色の髪の毛の男の子が、話しかけてくる。
髪の毛の色が奇抜すぎるのは突っ込まないでおいた方がいいのであろう。

「あ、俺志摩廉造言います。」
「えっと、私は結崎伊織です。宜しくお願いします。志摩くん」
「伊織ちゃんかー。かいらしい名前やなぁ。こちらこそよろしゅう。」

ヘラヘラとした、なんとも締まりのない顔でよろしゅう?よろしくなんて言われれば、自然と苦笑いを浮かべてしまう。
志摩くんから少し視線を逸らせば、少し小柄な坊主頭の男の子と目が合った。すると、フッと表情を和らげ笑いかけてくれる。

「はじめまして。僕は三輪子猫丸って言います。」
「えっと、結崎伊織です。よろしくお願いします。」
「そんな、畏まらんくてもええよ。結崎さん。」
「あ、えっと、うん。ありがとう。よろしくね。三輪くん」
「よろしゅう。」

三輪くんは会話してる中でもずっと優しい表情で、話してくれた。
志摩くんはどうやら、少し軽いところがあるようだが、三輪くんはしっかりしていて、きっと、そこのバランスはしっかり取れているのだろう。
そして、なんだか、成り行きで、自己紹介みたいになってはいたが、これの発端はやはり、金髪のトサカくんを怒らせたことなのだ。

「えっと…」

ゆっくりと、様子を伺うようにして、彼の顔を見る。
やはり、機嫌が悪そうだ。

「あの、私、何か気に触ることしちゃいましたか?それなら、ご、ごめんなさい。」

言い切ると同時に頭を下げれようとすれば、金髪の彼がすぐに止める。

「やめぇ、別にあんたに怒っとるんとちゃうわ。せやから、謝らんでええ。」

彼の口から紡がれた言葉に、ホッと胸をなで下ろす。
それならよかったと、少し表情を和らげれると、前の二人と同様に自己紹介をする。

「よかったです。私…」
「名前はもう聞いた。2回も隣で聞けば覚えるわ。」
「あ、そうですね。あはは…すみません…」

言われた言葉に、しゅんと落ち込み、下を向けば、また、今度は少し呆れた様子の声がかけられる。

「誰も悪いなんて言うてないやろ。あやまらんでええ。」
「はい…ごめんなさい。」
「せやから!」
「坊!そないな言い方したら、そら、伊織ちゃんかて、謝るしかのーなってしまいますよ。坊、ただでさえ顔怖いんですから。」
「なんやと志摩ァ!!」

途中から、もう、自己紹介と言うか、説教?みたいなものが始まったかと思えば今度は言い合いが始まってしまった。
どうしようかと、ワタワタしていると、三輪くんが横から声をかけてくれた。

「結崎さん。確かに坊の言い方にも問題はありますけど、悪い人ではないんです。誤解せんであげてくださいね。」
「うん…。あの!」

三輪くんに言われた事を頭に入れて、未だに言い合っている二人(と言うよりも、志摩くんがふざけて怒られてると言った方がいいのかもしれない)のところに近づき、声をかけた。

「えっと……」

声をかけたはいいが、彼の名前を知らない私は次に何を紡げばいいのか、とまどってしまった。
普通に名前を聞けばいいものの、その時はその事が頭から抜け落ちてしまっていたのだ。
徐々に焦りを浮かべ始める私を見かねて、ため息をついて、名前を教えてくれた。

「勝呂竜士や。」
「勝呂くん…。教えてくれてありがとう!えへへ、よろしくね。」

名前を聞けたことが嬉しくて、ぱぁっ、っと笑うと、勝呂くんは変なものでも見るようにして私を見下ろしている。

「名前聞けただけで、そない喜ぶか?普通。」
「えっと…えへへ、はい!…その服装からして、3人とも正十字の高等部だよね?私、この学校に知り合いがいないから、知り合いが増えて、嬉しいんです!」
「あれ?さっき、あの子と仲良うしゃべってはりましたよね?」
「あ、えっと。今日久しぶりにあった、小学校の同級生なんです。1年だけですけど。そう言えば、知り合いいましたねえへへ。」

そう言って笑っていたが、扉が開く音に、
振り返りそちらに視線を向けた。そこには、燐と雪男くんの2人がおり、そして、その奥に見える教室は先程とは比べ物にならないほどボロボロになってしまっていた。

それを見て、外にいた人は皆唖然とするのであった。


prevnext

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -