あれから1日。何もわからないまま次の日の塾の時間となってしまった。
教室に入れば席に直行、その後はいつも山田くんのいた場所であるが、今日はいない。昨日の1件で、山田くんが、山田くんでないことが発覚していたのだから、まあ当然だろう。

「伊織ちゃん。」
「わ!し、志摩くん。びっくりしたなぁ…。」
「ほんまに?そらすんません。」

驚き肩がはねた私に、軽い謝罪を述べる彼、志摩廉造くん。
その後には、三輪くんに勝呂くんも見える。手を振れば、三輪くんは会釈で答えてくれた。
そこからもう一度視線を戻せば志摩くんはあれ?、っと声を上げた。

「伊織ちゃん。刀もっとるね。そーいや、昨日も刀提げとったし、伊織ちゃん騎士目指すん?」

その疑問は昨日勝呂くんにも話したのだが、その話は伝わってないらしい。

「うん。前に志摩くんも言ってたし、私も別に嫌じゃないから…。なんでも、やってみることにしてみたの!」

あの昇格試験の時に嫌という程思い知った自分の弱さ。そして、臆病さ。それはすぐに解決できるものではない。しかし、強くなるために、もうやれることは全部やることに決めたのである。雑食だろうがなんだろうが、それが一歩進むために大事なことだと私は思う。

「そーなんや。危ないからあんまおすすめせんって言ったけど、でも、伊織ちゃんが決めはったんならええんちゃう?頑張ってな。」
「えへへ、昨日勝呂くんも同じ様なこと言ってたよ。ありがとう。」

そう言って笑えば、志摩くんは勝呂くんの方を見てニタァっと笑った。それが頭にきたの、立ち上がろうとする勝呂くんを、三輪くんがなんとか止める。その光景が、すごく楽しそうで、思わず笑ってしまった。

「ふふっ…いいなぁ。幼馴染みって感じがして楽しそうだね。」

そう言って笑えば、三輪くんは私に笑いかけると口を開いた。

「まぁ、ほんに小さい時から一緒にいますからね。」
「そうなんだ。」
「伊織ちゃんは幼馴染みとかおらへんの?」
「うーん。いないかなぁ…。仲のいい友達は結構いたけど、そういうのとは縁がなかったから。」
「そうなん?まぁ、俺らは同じ寺の門徒やったし、兄貴たちもうるさかったからこうなっとるんよ。」
「志摩さんそれ、バレれたら怒られますよ。」
「大丈夫大丈夫。今は柔兄もおらへんし。」

三輪くんと志摩くんの、やり取りはやはり幼馴染みだと感じさせる、親密さがにじみ出ていた。

「志摩くんお兄さんいるんだね。」

三輪くんと志摩くんは楽しそうにお話中なので勝呂くんへと聞けば、頷いてくれた。

「志摩のとこは、兄弟がようけおるんや。」
「へぇ…いいね、兄弟。楽しそう。」

そう言って笑えば、私はもう暫く会っていない姉の顔を思い出していた。どこに住んでいるかは未だに知らないが、父も姉も祓魔師なのである。兄弟、姉妹で暮らせることがとても羨ましく思えてしまった。いつか、また姉の顔が見たいと思った。
少しの間、物思いに耽っていると三輪くんが口を開いた。

「あ、そう言えば、"美帆さん"からメール来てましたよ。」
「え?なんて来とったん?」
「なんや、祓魔塾の同級生にどんな子おるか知りたい、って書いてあったけど…。」
「はぁ?あいつなんでそないな事…。」

また新しい名前が出てくるが、私には一切ついていけず、首をかしげてみた。
写真だなんだと、話をしているのを後ろから見ていれば、つんつんとつつかれる。
誰かと思い振り向けば、そこにはしえみちゃん。

「なにしてるの?」

すこし、どぎまぎしながら聞いてくる姿を見て、話しかけるかどうか迷っていたのだろうなと勝手な想像をしてみる。

「今は私にもわからないけど、なんか勝呂くん達の実家の話かなぁ?」

その言葉にますます分からなくなったのか、彼女の頭の上にはてなマークが見えるような気がした。

「あ、杜山さんも来はったしええんとちゃいます?」
「え?わ、私?」
「伊織ちゃんもちょっと協力してくれへん?」
「え?な、何に?」

私としえみちゃんは全く話についていけず困惑状態。すると、志摩くんが携帯を取り出すと私たちにお願いをする。

「写真。一緒に撮ってもらえへんかな?」

そう言って手を合わせてお願いされると、私達はお互いに一度見合ってから、しえみちゃんも私も了承した。神木さんは嫌がっていたが、どうやら、上手くフレームに入れる作戦に出たようだ。燐がまだ来ていないが、それはまた後で写すらしい。

携帯のレンズをこちらに向けたのを見て、私はしえみちゃんにぎゅっと近づいた。それに驚きながらも、私と同じようにピースを作りながらレンズを見る。

一つシャッター音がすれば、一同は体制を崩した。

「ありがとうな、二人共。」
「助かりました。」

そう言ってお礼を言う、勝呂くんと三輪くん。
なにか良く分からないけど、どうやら役に立ったらしい。

そうこうしている間に、どうやら先生が入ってきたようだった。
みんな慌て席につくも、教壇に立ったその姿を見て驚愕した。

「…つーわけで、この度ヴァチカン本部から日本支部に移動して来ました。霧隠シュラ18歳でーす。はじめましてー」

頭を掻きながら、教卓の上で自己紹介をした彼女は、何を隠そう、昨日燐を連行していったその人であった。

「…なーんちゃって、この2ヶ月半ずっと一緒に授業受けてたんだけどな〜にゃっははははは!」

彼女が喋る中、誰もが呆然とその姿を見ていた。
ただひとりを除いては、ではあるが。志摩くんは相も変わらずおんな好きっぷりを、最大限発揮しているようだ。

「えーと?とりあえず"魔法円・印象術"と…?"剣技"もかよめんどくせ!…受け持ちますんでよろしくー」
「え…と先生!」
「んー?なんだね勝呂クン」

その言葉にいち早く反応したのは勝呂くんで、霧隠先生がどうして生徒のふりをしてたのかとか、ネイガウス先生はどうなったのかと聞いていたが、どちらも大人の事情だといってはぐらかされてしまった。その答えには流石に勝呂くんも、納得できないご様子だ。

「スンマセン…」

そんな中、申し訳なさそうな謝罪の声が聞こえてきたかと思えば、扉のところに燐が立っていた。いないと思ったら、どうやら、教室で昼寝をしていて、遅れたらしい。しかし、その彼も教卓の上で座る人物を目にすると驚いていた。
しかし、すぐに席に付くよう促されれば、素直に従った。
しかし、後ろ姿からではあるが、どこか違う雰囲気を醸し出していた。

やる気に満ち溢れたような姿に昨日何かがあったことは明白だったが、遅刻の罰で読まされた教科書の単語を読めない姿を見れば、さほど変わってはいないようにも見えて、小さく吹き出したのだった。


終わりのベルが鳴ると、霧隠先生は荷物をまとめて、教卓の上からやっと降りた。
誰もそこには指摘を入れなかったが、まあ、教師にしてはありえない行動だとは思う。
出ていこうとするその姿から視線を逸らし、片付けに移ったのだが、それは霧隠先生によって止められた。

「あ、えーっと?…ん?結崎さんだっけ?ちょっと。」

私の名前を呼ぶとともに、来い来いと手を小さく手招きをしている。首を横に傾げつつも、先生の呼び出しなので、逆らえないし、逆らう理由もなく、立ち上がって近づくと、外へと促された。

「あの、何でしょう。」
「その刀、メフィストに貰ったって言ってたよな?」
「…はい…。」
「それ、一度でも抜いたか?」
「え?あ、はい、1度だけ…。もらったその日に…。」

一人部屋ということもあって、1度だけ抜いてみたことがある。

「今抜けるか?」
「あ、はい………えっ」

抜けるかと言われれば当然抜ける。しかし、鞘から抜けたそれを見て私は驚いた。

「…これ、最初からこうだったか?」
「ち、違います!こんなだったらまず使えませんから…。」

もらったその日は全くの無傷で綺麗だった刀身が、今は少し刃こぼれを起こしていた。
当然まだ、使っていないから刃こぼれなんておこすはずがないのだ。その事実に私自身一番驚いていた。
その様子を見た霧隠先生は、少しばかり考えたような態度に変わり、そしてまた私に向き直った。

「それ、極力使うな。出来れば抜かない方がいい。」
「え…。」
「でも、本気でまずいと思った時は使え…。」

霧隠先生はすごく真剣な顔で言うものだから、私も圧倒されてしまう。

「……まずいと思ったらって?」
「あ?…あー、死ぬかもしれねーって時だろうな…。あ、あと、ほらよ!」

ポイッと投げられたそれは、皮のベルトのようなもので2つ輪っかがついている。

「その状態じゃ動きにくいだろ。それに通しておけ。」

そう言われれば、そうか刀か、と理解が出来た。
お礼を言えば、ひらひらと手を振って去っていった。
それを見送れば、スッとベルトに刀を通し教室へと戻ったのだった。、



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