夏がもう目の前まで迫ったこの季節。
私は、学校の廊下を歩いていた。周りの人が半袖を着だしており、例に漏れず私もそれに変えていた。

「おーい。結崎さーん」
「え?あ、朴さん!久しぶりー」

遠くから私を見つけて声をかけてくれたのは朴さんで、隣には神木さんもいた。

「どうしたの?」
「ううん、特には何も。見つけたから声かけてみたの。」
「そっか。あ、そう言えば神木さん。」
「なによ」

どうやら、視界に写った私を呼び止めてくれたらしい。その隣の神木さんに声をかければ、すこし鬱陶しそうに言うから、少し迷ってまた口を開いた。

「いまから、集合場所行くでしょ?一緒に行ってもいいかなーって。」
「はぁ?なんであんたと!」
「出雲ちゃん…。」

少し嫌そうな神木さんを朴さんが抑えると、神木さんも「別に来た言ってくれた」といってくれた。

「じゃあ、遠慮せずついて行かせてもらうね。」
「ふんっ」

その少しツンデレな所がまた少し可愛いななんて思っても口にできないので、ぐっと抑える。

「朴さーん。神木さーん。伊織ちゃーん!」

どこからか、私たち3人を呼ぶ声が聞こえてきた。その声の方に振り向けば、着物姿の女の子が見えた。それは、何を隠そうしえみちゃんなわけで、私たち3人も驚きを隠せずにいた。
私たちのところまで来ると、肩を上下に揺らし、呼吸を整えてから、勢いよく顔を上げた。

「あ…あの…私に制服の着方を教えて!」

顔を真っ赤にしながら言うしえみちゃんに、私はぽかんとしてから、聞いた。

「しえみちゃん、制服持ってたの?」
「ううん。理事長さんに支給してもらったの。でも着方が分からなくて。」

3人で顔を見合わせて、神木さんはため息、朴さんはニコニコとしている。

「じゃあ、杜山さん。ちょっと場所移そっか」
「う、うん!」

朴さんの提案に4人とも一度女子寮へと向かう。
本当は学生しか入れないだろうが、まぁこれだけは仕方ない、何か言われても理事長がらどうにかするだろう。
一同は朴さんと神木さんの部屋へと入る。

「へー。ふたり部屋なんだね。」
「結崎さんは違うの?」
「二人部屋だけど、一人しかいないんだー。いいなぁー私もルームメイト欲しかった。」

杜山さんの着替えを手伝う間、私達はたわいない会話をする。
粗方着替え終えたとき、私ははっと思い出して、待っていてもらうように促し、自室へと走った。
そして、壁に立てかけてあった理事長から無理やり渡されたあの刀を持って、また部屋を出た。その間にベルトに通してまた走る。その際周囲の目は出来るだけ気にしながら。、

「お待たせ。ごめんね。」
「あんた…それ。」

扉を開けて、部屋に駆け込めば神木さんがすぐにこれに反応した。まぁ、普段身につけていないものをいきなり持ってきたら当然驚くだろう。
しかし、今は時間が無い状況であるため、そのまま3人で走り出した。

「完全に遅刻よ。」

そう言って走る神木さん。私は二人の後ろについて走る。やっと目的の場所メッフィーランドの正門前までやって来た。

「遅れました…!!」

しえみちゃんは大きな声でそう言うと先に来ていた人達全員がその姿に驚いていた。
しかし、ただでさえ遅れてしまっていたため、任務はすぐに始まった。

「えーでは全員そろったところで2人1組の組分けを発表します。1組だけ3人になります。」
「三輪、宝」
「山田、勝呂、結崎」
「奥村、杜山」
「神木、志摩」

私はどうやら、山田くんと勝呂くんと同じ組になったようで、そちらを見ればニコリと笑いかける。勝呂くんはハッとしたように少しばかり仰け反って、そっぽを向いた。その行動に、動揺しつつも首をかしげた。

「今回はここ、正十字学園遊園地、通称「メッフィーランド」内に報告が入ったため候補生の皆さんにその捜索を手伝ってもらいます。」
「霊の定義を…では神木クン!」
「はい!霊(ゴースト)とは人や動物などの死体から揮発した物質に憑依する悪魔で…性質は大抵死体の生前の感情に引きずられるのが特徴です。」
「…この霊はランドのいたる所で目撃されており出現場所を特定できないタイプ。外見特徴は"小さな男の子"で共通。被害は現在"手や足を引っ張る"程度。ですがこのまま放置すると悪質化する恐れがあり危険です。先程の分けた2人1組で方方に散り日暮れまでの発見を目指します。見つけたらすぐに椿先生か僕奥村の携帯に連絡すること。質問がある人は挙手して下さい。」

奥村先生のその言葉に、いくつかの質問が出たあと、それぞれ解散となった。

それぞれが、別の方向へと探しに出ており、私達もたたりを警戒しながら進む。
山田くんは、もはや歩いているだけのようにも思えるが、勝呂くんは私とは反対側を警戒してくれていた。

「…なぁ、結崎さん。」

その呼び掛けは、私の少し後ろを歩く勝呂くんのもの。一度足を止め振り返ると、少し思い迷った様子で私を見た。そして、腰のあたりを指さした。

「それ、どないしたんや?結崎さん、騎士志望やないやろ?」
「え?ああ、これ?」

勝呂くんの疑問は、私の腰から下げられている刀の話だった。現在は、それ専用のベルトなど持ってはおらず、簡易的に止めてある。それを触るように手を宛てがうと、苦笑いを浮かべた。

「なんか、理事長さんから渡されたの。」
「はぁ?なんでそないなもん渡されなあかんのや。」
「私にもさっぱりだよ……。もしかしたらいらないもの押し付けられただけかもしれないけど、それでも、使ってみようかなって…。志摩くんもいってたでしょ?私、実技苦手じゃないから…あははは。」

なんとも言えぬ笑いが漏れるのを見て、勝呂くんも少し呆れたようにため息をついた。

「結崎さんが、嫌やないんやったら、やってみてもええんとちゃうか?」
「うん!頑張ってみるよ。」

そう言って笑えば勝呂くんも、少し笑ってくれたが次の瞬間、少し意地悪な顔をして

「ほんでも、戦い疲れて途中で寝るんだけは、気いつけとかなあかんで。」

と言った。その言葉に、かぁっと顔が熱くなるのを感じた。

「わ、わかってもん!も、もうそんな事しないから……。」

顔を覆い隠し、その赤い顔を見られまいと必死に隠して、前を向き直すとまた歩を進めたその時だった。



ドクン

小さく何かが脈打つのを感じた。
それと同時に遠くからけたたましい破壊音が聞こえてくる。そちらに視線を向ければ、ジェットコースターの一部が激しく破壊されていた。

「何やアレ、何が起きた!?」

驚きの声をあげる勝呂くんの横で山田くんが咄嗟に駆け出すのを視界に捉えると、勝呂くんの呼びかけにも応じず走り去ってしまう。
それも、今まで見たことのないような動きで…。

「なんやアイツ!」

いきなりの事に動揺しつつも、私はひたすら嫌な予感がしていた。未だ鳴り響く轟音。今あそこでは、何かとてつもない事が起こっているのではないか。
そんな、不安を抱えてそちらを見ていれば、誰かに腕を引かれた。

「とりあえず、最初の場所に戻った方が良さそうや。走れるか?」
「だ、大丈夫!」

それを合図として、元来た道をひたすら走る。そして、最初のあの正門前に着くとそこにはもう何人か、集まり始めていた。

「坊!伊織ちゃん!大丈夫でした?」
「俺らはなんともない。それよりあれ何や。」

動揺が辺りから感じ取れた。暫く待機していれば、あの轟音は止み、その後に血だらけの燐としえみちゃん。あと見知らぬ女の人が出てくれば、雪男くんの指示で解散が言い渡された。

「どうしたんやアイツ。」
「なんあれ羨ましい!」
「志摩さん…」

見知らぬ女性は、燐を脇の下に挟み込み、連行していく。それを見た人の反応は千差万別。

「あのお姉様誰!?」
「下、男子の制服やから…多分いつもフード被ってた山田くんかな」

たしかに、先程走り去ってから、彼の姿を見ていない。その推理は多分あたりだろう。
しかし、何故あの状況になったのか、それはここにいる誰1人把握してはいなかったのである。


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