駄菓子屋での祝賀会から数日後のこと。
私は少しばかり人気のないところを選び、ポケットから、使い魔用の簡略化図を取り出した。

「"西を守護せし霊獣よ、その姿ここに顕現せよ"」

そうして呼び出した使い魔のトラ猫は、私の前に出現したかと思えば、もうこれはお馴染みになりつつある、攻撃に転じた。

「遅いわ!」
「ふぎゃッ」

顔面にまともに蹴りをくらった私は、その痛みに顔を抑えて、悶えた。

「〜〜!毎回毎回!普通に出てこれないの!?」
「うるさい!呼び出すのが遅いのが悪い!」

抗議の声を上げるが、それはもう華麗に一蹴されてしまった。
もうこれは主従関係が確実に逆である。

「すみませんでした。」

素直に謝れば、満足したのかそのまま私の前に座り込んだ。それを見た私は少し首を傾げる。

「それであの、ご要件は?」
「あぁ、それはお主に戦い方を教えてやろうと思ってな。」
「戦い方?」

そういった、彼は私に正面を向いて立った。

「そうだ。前回は私の独断で動いたが、お前にも出せる指示はいくつもある。まず、私は物理攻撃もしくは風力による攻撃が可能だ。」

その説明を頷きながら聞く。
初めて召喚した時や、あの認定試験の時のような攻撃ということだろう。

「あの、神木出雲とやらがやっていただろ。あんな風に攻撃もできる。私が独断で走っても良いが、それは嫌なのではないか?」

その言葉を聞いて、少し考えて首を縦に降った。

「ふっ…それなら、戦い方を教えてやる……。」

そう言って、いくつもの説明をしてくれるが、きっと今の私にはそのうちのいくつかが使えれば良しだろう。

「一度やってみるか?」
「こ、ここで!?確実になにか壊すんじゃ…。」
「それなら、軽くでいい使えるかどうかやって見せろ。」

その言葉に少しばかり戸惑うが、ゴクリと喉を鳴らす。ツーっと汗が流れるのを感じつつ、こくりと頷いて、目を閉じた。

「"その身を断て 風切(フウセツ)"」

ふっと目を開ければ、目の前にあったはずの壁が十字に切れていた。

「か、軽くじゃなかったの!?」
「これでも軽くやった。」
「ど、どうするのー!!」

わたわたと慌てふためく私の隣で、平然としているこの使い魔に少しばかり怒りが芽生え始めたところで、後ろから足音が聞こえた。

「おやおや、またですか?結崎さん。」
「ひっ!」

突如としてかけられた声に思わず小さく悲鳴をあげる。振り向いたそこには白いシルクハットをかぶった少し派手目の男の人が立っていた。

「り、理事長…。」
「また、盛大にやってくれましたねー。校舎の壁の次は、街中ですか。もうただの器物損壊にもなりかねませんよまったく。」
「すみません。」
「仕方ありませんね。どうやら、その使い魔に関係があるようですし、今回は大目に見て、見逃して差し上げましょう。」

もう、呆れ半分で言う理事長に、申し訳なさで、小さくなっていれば、今回だけは見逃してくださるようだ。校舎の壁の件は無かったことになったらしい。しかし、私の足元に視線を移したかと思えば、射抜くような視線が私に向けられた。

「ところで、結崎さん。」
「はい?」

ほっと胸をなでおろしていたところに、その視線を向けられ、少し動揺しながらもそれを見つめ返した。
そして、また足元を見てニヤリと笑うとどこからとも無く、傘のようなものを取り出すとシルクハットに当てた。

「アインス・ツヴァイ・ドライ☆」

それを合図として、ポンッという音と共に何かが現れると、私の元へと落ちてくる。それを慌てて受け止めれば、それは刀の様だった。
それと理事長を、交互に見れば理事長は口を開いた。

「そちらは、あなたに差し上げます。」
「へ!?」
「使いこなせれば良し、使いこなせなければ捨ててください。」
「い、いやいや!私刀なんて使えませんよ!それに、私、騎士になりたい訳じゃないですよ!?」

そう言って、断ろうとするも、のらりくらりとかわされれば、そのまま去っていってしまった。

「な、なんだったの?ねぇ……あれ?」

あたりを見渡せば、理事長と共に、使い魔のあのトラ猫まで消えていた。
たった、数分の間に起きた状況に頭が追いつかず、そのままふらふらと帰路につくのだった。





「…貴方はいったい何をなさりたいのですか?」

高い建物の上、そこに立つは二つの人影と一匹の猫。その猫の問いかけに、下を眺める男は言う。

「戦うための駒とするため。」
「あのような娘でも今は我が主。目に余るものがあれば流石の貴方でも見逃すわけには行かなくなる。」

猫はそう言えば、男は声を上げ笑った。一通り笑いその高揚のままに言う。

「ほう、貴方にしては珍しい!そこまで気に入るだけの何かを彼女から見つけたですか?しかし、あなたの姿を見れば"今の"彼女の力はさほど強力ではないように見えますがねぇ。」
「それは、否定はできませぬ。しかし、何故あの様な"代物"を?あの娘に使えますか?」
「あれ自体には意味は無い。ただ、"誰の"仕業かは知りませんが、彼女は"何か"に縛られているようだ。それを破るための鍵なだけですよ。」
「鍵?何か?……まぁ、なんでも良い。悪いようにはしないのなら、邪魔はしませぬ。」

ひとりと一匹の会話は何とも掴みどころのない話であるが、何やら奥に知りえない何かが潜んでいるようであった。そして、全てを語らぬであろうその男からはもう何も得られぬと見切ったのか猫はどこかへと去っていた。それを見届けた男はまた、冷たい悪魔の笑み浮かべた。

「既存の駒。そこにあれも加われば私の駒はまた一つ増える。」
「あれに何をさせるつもりなのですか?兄上」
「お前が気にすることではない。お前にはやることがあるだろう。」

アレがあちらに回られるのは厄介なことこの上ない。
まずは、封じたその力を自ら解き放って見せよ。話はそれからだ。あれの力はあんなものでは無い。

「さあ、貴女はどこまで私を楽しませてくれますかねぇ。」




prevnext

[back]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -