私の肩に乗るトラ猫は、それはもう美しい毛並みをしており、その立ち姿はとてもかっこいいのであるが、何分態度が大きいのが可愛くないところだ。

「ゆ、結崎さん。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫…。」
「ふんっ、軟弱者めが。何故このような奴に私が呼ばれなければならぬ…。」

私の気など露知らず、肩の上に乗るこのトラ猫本当にどうしてくれようか…。
私は苛立ちに拳を握ると、もう片方の手でそのトラ猫の首元を掴み上げると下におろした。
それに、すごく機嫌を害したようで、猫なのに威圧感が増したように感じる。

「呼んだのは私だけど、正直帰っていただきたい…この悪魔…。」
「あはは、伊織ちゃんの使い魔おもろいわ!」
「面白くないよ…志摩くん…」
「この小娘、私を悪魔と呼ぶか無礼者!」
「ひぃ!」

私の苛立ちをよそに、お腹を抱えて笑う志摩くん。
それに落胆していれば、下で飛び跳ねたその猫は、クルッとまた翻ると、私の横をものすごい勢いの何かが通り抜けた。その音に敏感に反応した私は、悲鳴をあげ、しゃがみ込む。
何も無いことを確認して、立ち上がればその猫に文句を言おうと、そちらを向いて頬を膨らませた。

「あ、あぶないで…」
「ちょ!ゆ、結崎さん!!後ろ!」

私の声を遮るように、三輪くんの声が聞こえる。それも、かなり焦りの色を浮かべて。
それに反応して後ろを向いて絶句した。
当然、周りの4人も固まっている。

そう、私の後ろには、大きくえぐれた壁があったのだ。壁を突き抜けた訳では無いが、確実に傷が付いている。
ゆっくりと、また前を振り返ると、ふんっ、とそっぽ向く猫。
ま、まさかこの子が?

「あ、あのぉ……」
「私がやったが?なにか問題あるか」
「いや、ないとは言えませんが……。」

控えめに声をかければ、全く表情を変えずにそういう猫に、非が無い訳では無いがこんなことをやって退ける悪魔に立ち向かえるほど私の肝も座ってはいない。

「もしかして、結崎さんなんや凄いもん呼び出してもーたんやないか?」
「坊もそう思います?可愛らしい猫が出てきた思てましたけど、ただの猫やないと思いますよ?」
「すげぇな!その猫!」

勝呂くん、三輪くんはただただ唖然として、燐は興奮している。
私も薄々感じ始めていたそれを、的確に言う2人。
冷や汗が伝い始めた頃、少し表情を緩めた猫が口を開いた。

「当然だ。私にはこんな事造作もない。それに、これは仮の姿この小娘に負担をかけぬようこの姿で出てきておるのだ。」

そう言った猫に、私はポカンとしてしまう。
これ、ホントの姿じゃないの?

「ほんなら、元の姿に戻って貰えます?」
「はぁ、無理だ。今戻ればこの小娘倒れるぞ。」
「た、倒れるの!?」
「当然だろ。これでも私は高位な存在だ。常人が呼び出せる様なものでは無い。」
「は、はぁ……。」

自分で高位と言い出した途端胡散臭さが滲み出てきたが、それでも驚くしかなかった。
その時、勝呂くんが口を開いた。

「ほんなら、なんで結崎さんはこいつ呼び出せたんや?」
「そーですね。伊織ちゃん元の姿のままではないけど、ちゃんと召喚出来てるしな。」

そこは確かに疑問だ。しかし、それにため息をついて答えたのは当のトラ猫である。

「私も癪ではあるが、こやつそれだけの資質はあるようだ。呼び出せただけでもありがたいと思え。」

はい、と控えめに答えれば、納得したようでまたふんっと鼻を鳴らす。

「呼び出されたものは仕方ない。小娘、名は?」
「え?あ、伊織…です。」
「そうか…。では、伊織ある程度はお前に手を貸してやる。しかし……少しでも隙を見せたら、その時は覚悟しておけ。」

その脅しとも取れる言葉を残し、それは一度帰っていった。
いままで、切り詰めていた緊張の糸をスッと解けば、大きなため息が零れた。
周りにいた4人も、少なからず驚いたようだった。
そして、一番に口を開いたのは志摩くん。

「いやー、しかし伊織ちゃんに手騎士の才能があったなんてなぁ。ほんまびっくりしたわ。」
「そうですね。結崎さんもう迷うことないですね。」
「う、うん。呼び出せちゃったし、私が目指すのは手騎士だね。」
「俺も、結崎さんに合うてると思うわ。」
「すげぇな伊織!!」

皆が褒めてくれるので、私もゆるゆると頬を緩めていく。
ニコニコとふんわりとした空気が漂うい始めた頃、ようやく帰ることになり私達は解散した。
暗い外を歩くと、空には星がよく見えた。

手騎士…か…。

私は、その称号が嫌なわけではない。しかし、先ほどの言葉がずっと胸に引っかかっていた。

『これでも私は高位な存在だ。常人が呼び出せる様なものでは無い』

あの、使い魔のことである。常人には呼び出せぬ悪魔。それは呼び出せた。私に才能があるかどうかは分からない。しかし、今のままであの使い魔を最大限使いこなすことは不可能なのだ。
手騎士は、才能が第1だ。使いこなせなければ足で纏い。私は本当にこれでいいのだろうか。

その、思いは小さく心の中に留まり私の気分を重くくらいものへと誘った。

次の日もその次の日も私はその事を心に残したまま過ごした。あの紙も、手騎士に丸をつけて提出した。

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「何だあれ……しえみがまろまゆの付き人みてーになってるぞ」
「まろまゆ?…ああ神木さん」
「遊んでるんやろ」

勝呂、三輪、奥村の3人は新しく出来た女子組に視線を向けていた。
それは、神木、朴の2人に杜山しえみが追加され、おまけに召使いのようにこき使われていたからである。
パシリのようにも思えるが、当人は一切気にする気配がない。
当然、心配はしているのであろうが、なにせ、性別の問題がある。下手に口を挟めば、何を言われるかわからない。その点もあって、声もかけにくいのであろうことは、少なからず理解できる。

「確かに、杜山さんも気になりますけど、僕はもう1人心配な方がおるんですが…」

そういうと、2人とも「「あ…。」」と、漏らすと首を反対に向ける。その視線の先には、結崎の姿。
と、それに声をかける志摩の姿である。
受け答えはしているものの、どこかぎこちない。
そして、彼女自身どう思っているかはしらないが、いつものふんわりとした笑顔は少し歪み苦笑いとなって浮かんでいた。

ゆっくりと立ち上がった彼女は、すたすたと出ていってしまった。
それに伴って、戻ってきた志摩は軽く横に首を降る。

「あかん、あれ意識別のとこに飛んどるわ。考え事しとるんやろうけど、なんや心配になるわ。」
「確かに、結崎さんいつも笑ってはる顔しかほとんど見てへんでしたし。」
「奥村はあーなった、結崎さん見たことあるか?」
「いや、ねーよ。小学生の時もいっつも笑ってる記憶しかねー。てか、俺より雪男の方が詳しいかもしれねぇ。」
「え?なんでや?奥村くんも結崎さんとは会うたことあるんやろ?」
「うーん…。まぁ、俺も良く話してたけど、あの時は雪男の方が一緒にいたしなー。」

ただただ、深まる疑問。そこに心配も相まって、男子陣はただただ、二つできた厄介事に眉を顰めるのであった。



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