<3>

「あの...『ベルリンドール』って...?」

すると無表情のまま答えるハーネマン。
「はぁ?ああ...中東での俺のあだ名だ。肌の色がビスクドールみたいだってことらしいが...まぁ名前なんてどうだっていいしな、何と呼ばれようと興味ない」

だが、口では「興味ない」と何気ない風を装ってはいるものの、内心かなり混乱しているのだろう。
心ここにあらずといった様子で、自分でも気付かないうちに手に持ったボールペンでコーヒーをかき混ぜている男を目の当たりにして、クーパーの胸はキリキリと痛んだ。

聞きたいことは山ほどある。
疑心暗鬼で一杯の胸は張り裂けそうだ。

だが、それらを言葉に出して全てを失うことを恐れた青年は、ようやく一つの問いを唇から押し出した。

「あの...もう一つだけ聞いていいスか?」
「......」

無言のまま目で先をうながすハーネマンにクーパーは問うた。
「あいつと付き合ってたんスか?」

だが、返ってきたのはそれ以上の詮索を拒む冷たい返答のみ。

「付き合ってたがそれがどうかしたのか?」

その途端、胸に苦いものが上がってきて吐きそうになる。

砂と岩だらけの国で共に闘ったらしいあのフランス人とは違って、自分は目の前の男とは、記憶も、経験も、そしてひょっとすると愛情すらも、ほとんど何も共有してはいない。

「へっ...なんだよそれ...チクショ、ぜんぜんワケ分かんねーよ...」

ようやくそこまで言うと押し寄せてくる感情の波に抗えず、クーパーはテーブルに肘をついて両手で顔を覆った。

「おいどうした、なんだよお前泣いてんのか?おいおい、なんで泣くことなんかあるんだよ...アホだなぁ...ワケ分かんねーのはこっちだよまったく...そら、もういいじゃねえか、タンク乗りがそんなにめそめそすんな。来いよ、俺でよけりゃ多少は慰めてやるからさ」

なにが起こったのか理解できなくて、戸惑ったような微笑みを浮かべることしかできないハーネマンを前にして、自分が一体どうしたいのか、どうしたらいいのかもうさっぱり分からなくなったクーパーは、ただ顔を覆って静かにむせび泣くばかりだった。


<THE END>

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