bookシリーズ | ナノ


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土+宗/試衛館
6月1日が総司の誕生日だとかいう説もあるので。



「…………誕生日って何ですか」


宗次郎の口をついて出た言葉に、土方は思わず瞠目した。


「は?」


何のことはない。

二人で稽古した後で縁側で休んでいたら井上源さんがやってきて、"今日は宗次郎の誕生日だから"と言って宗次郎に団子をくれた。

その時宗次郎は心底嬉しそうににこにこ笑ってありがとうと言った。

ところが源さんが立ち去るや否や、こんなとんでもない質問を投げて寄越したのだ。

面食らうことこの上ない。


「……そりゃあ、いつもの冗談か?」


そう言いながらも土方は、宗次郎の顔に不真面目な色が全く見えないことに気付いていた。


「だって、本当に知らないんですもん」

「……………」


今まで祝われたことがなかったのか?

……確かに、試衛館に来たばかりの自分が取り立てて何かをしてやったということはないが、それでも近藤さんや源さんが何かしらしてきているはずだ。


土方は理解しかねて延々と考えを巡らせた。


「た、誕生日ってのは、そいつが生まれた日のことで……」

「土方さん僕のこと馬鹿にしてます?それくらい知ってるに決まってるじゃないですか」


思わずブン殴りたくなった。

馬鹿丁寧に説明してやったのが馬鹿みたいだ。


「……僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、誕生日だからって何の意味があるのかってことです」

「お前………」

「……だって僕、自分が生まれた日も知らないんですよ。父さんも母さんもすぐに死んじゃって、姉さんも何にも言ってくれなかったし」


宗次郎の顔が蔭っているのは、何も曇り空の所為ではないだろう。

土方は遣る瀬ない気分になった。


「近藤さんが不憫に思ってくれたらしくて、僕がここに来た日を誕生日にしてくれましたけど、本当はいつだったのかも分からない。なのにおめでとうなんて言われても…何だかなぁ………何が目出度いのかさっぱり分からないです」

「…………」
何と声をかけてやればいいのか分からなかった。

ただ、自らも幼い時に両親を亡くし、ずっと姉だけが頼りの身であっただけに、宗次郎の気持ちは何となく理解できた。

もっとも土方が生まれたのはたまたま端午の節句だったから、誕生日が分からないということはなかったのだが。

宗次郎の発言は何だか切なかった。


「そうか………今までそんなことを思っていたのか、お前は」


土方は、宗次郎の膝の上に置かれたままの団子を眺めた。


「………団子、食わねえのか」

「……何だかそんな気分じゃありません。あ、土方さん食べます?」

「いや、お前が貰ったんだろう。お前が食え」


「うん…………」


うん、とは言ったものの、宗次郎はなかなか団子に手を着けようとしない。


「おい宗次郎、」


何やら暗く沈んだままの宗次郎の肩を、土方はぽんぽんと叩いた。


「……後で一緒に甘味でも買いに行くか?」

「……何で?」

「お礼だよ」

「はい?」

「教えてやる……誕生日はな、生まれてきてくれてありがとうって思う日だ」

「……ありがとう?」

「そうだ。だから、そのお礼だ」

「…………」


ありがとう、と繰り返し呟く宗次郎を、土方は微笑んで眺めた。


「ほら、分かったらその団子食っちまえよ」

「………うん」


今度こそ、宗次郎は団子を口に含んだ。


「ん!おいし…」

「そうかよ」

「土方さんもいります?」

「いいのか?」

「はい、あーん」

「…………っお前なぁ」


土方は恥じらうこともなく串を差し出してくる宗次郎に逆に狼狽えながらも、ぱくりと団子に食らいついた。


「うん、……美味い」

「でしょ?」

「ああ」

「やっぱり井上さんって優しいなぁ」


先ほどまで沈み込んでいたのが嘘のように顔を綻ばす宗次郎を、土方は苦い顔をして見る。


「そういや、近藤さんからは何貰ったんだ?」

「え?金太郎飴ですけど」

「ちっ………先越されたか…」

「何です?」

「なら宗次郎、俺からはずっと残るもんをやることにする」

「残るもの?」

「そうだな………髪留めなんかはどうだ?」

「………土方さんも、僕に"お礼"くれるんですか?」

「当たり前だろうが」

「じゃあ、僕に生まれてきてくれてありがとうって思ってるの?」

「あぁ、そうだ」

「何で?」

「………っ…」


土方は答えに詰まった。

何とも答えにくい質問だ。

まだ元服もしていない宗次郎に、何と説明してやればいいものか。

一人考えあぐねる。


「ねぇ、どうしてですか?」

「それは、だな…………お前のことが、……大切だからだ」

「………大切?」

「あぁ、お前に会えて、よかったと思ってる」

「ふぅん………」


宗次郎は何かを考えるようにそっぽを向いた。

それからまた土方に向き直って、徐に口を開く。


「僕も…」

「ん?」

「僕も、土方さんと会えてよかったです」


真顔で言ってのけた宗次郎に、土方は面食らってぽかんと口を開いた。


「……まぁ、最初はすんごく嫌いでしたけどね」

「…てめぇっ、」

「だから、今度の土方さんのお誕生日は、僕にもお礼させてくださいね」


でも、今日は僕の番です―――

悪戯な笑顔でそうのたまった宗次郎に土方が買い与えた髪留めは、京で新選組一番組組長となってからも、変わらずに総司の髪に結ばれていたという。





その境遇ゆえに寂しいことばかり言うちょっと素直めな宗次郎と、宗次郎を構いたくて仕方ない青年歳三。

総司くんはぴば!




*maetoptsugi#




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