bookシリーズ | ナノ


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バーベキューは楽しかった。

結局焼くのが追いつかなくなって、冷めるのも嫌だしと焼きながら食べるような形になったのだが、フルーツポンチも焼きリンゴもなかなかの出来映えだった。

ご飯も"適度な"焦げのみを残した結果、香ばしくてなかなかの味だったし、結果オーライということだ。


「あー、美味しかった!」


片付けも終え、並んで座って食休みをしていると、不意にお腹をさすってのたまった沖田を、土方はふっと鼻で笑った。


「お前、口の横にご飯粒ついてんぞ」

「えぇっ!?嘘!もう、そういうことは早く言ってくださいよ!」


そう言いながら口元を指で探っている沖田に、土方は手を伸ばす。

そのままご飯粒を取ってやると、総司は夜目でも分かるほど顔を真っ赤にして、ぶっきらぼうにありがとうと言った。


「あ、土方さんの鼻にもついてますよ」

「は?どこだ?」

「冗談です」


沖田なりの意趣返しなのだろうが、くすくすと笑う姿を見ていると怒る気にもなれない。

土方はやれやれと苦笑すると、ぼんやりと夜空を見上げた。

満天の星空。都会では決してみることのできない景色だ。


「………何だかあっという間に夜だな」

「ですね」

「楽しかったか?」

「はい。すごく」


素直な返事が返ってくるなど予想もしていなかった土方は、思わず目を見開いて沖田の顔を見つめた。


「……何です?僕そんな変なこといいました?」

「あ、いや…………」


と、その時、突然目の前に小さな男の子が駆け寄ってきた。

土方も沖田も当然その男の子に目をとられる。

家族連れなのだろう、辺りを見回せば両親が遠くのテントからこちらを見ているのが分かった。


「あー!やっぱり!!やっぱり薄桜レンジャーグリーンだぁ!」

「「え……」」


二人は同時に声を上げた。


「ね!そうでしょ!?グリーンでしょ!?」

「え、あ、……う、うん……」

「わー!!わー!!すごーい!ほんものだー!薄桜レンジャーだぁ!!」


薄桜レンジャーというのは以前沖田が出演していた特撮テレビドラマで、この子ぐらいの年齢層で絶大な人気を誇っていた。

最初の頃はそんな仕事もしていたなぁと、土方は暫し思いを馳せる。


「ねー、あれできる?!あのひっさつわざ!!」

「え……?」

「ロウガイビームだよ!ね、できる!?おねがいだよぅ、やって見せてよ!!」

「え、えっと、それは……」

「カシューキヨミツもってるんでしょ?いつもみたいにカッコよくだして!しゃきーんってだして!」


子供は目をきらきらと光らせて沖田を見つめている。

沖田は困り果てて土方を見た。

確かに薄桜レンジャーグリーンの必殺技はロウガイビームだったが、もちろん沖田にそんなものが出せる訳がなく。


「土方さんどうしよう!僕ロウガイビーム出せない!カシューキヨミツも持ってない!」

「んなもん当たり前だろうが……」


芸能人の沖田総司でしょ?と言わないところが子供らしいというか、ともすると本気で薄桜レンジャーを信じていそうで恐ろしい。

かと言って子供の夢を壊してしまうのもまた忍びない。

土方は、何故かパニクっている沖田の代わりに、男の子に優しく言ってやった。


「あのな、坊や、悪いんだが、こいつは今戦線離脱してんだ」

「せんせんりだつ?」

「あぁ、今は他の……何だっけか、ぶ、ブルー?とかが働いてて、こいつはちっと働きすぎたから休んでるんだよ」


すらすらと説明する土方を、沖田は目を丸くして見つめる。


「それにここじゃ敵もいねぇからな」

「そっかぁ……グリーン、いっつも一番強いもんね!グリーンは、今お休み中なんだね!」

「う、うん」

「そっかぁ……ならしかたないね」

「ぼく、ごめんね。次に会ったらきっとやってみせてあげるからね」

「え!ほんと!?」

「うん、だからそれまでいい子にしてないと斬っちゃうよ?」

「うわぁ!グリーンだ!グリーンだぁ!」


グリーンの決めゼリフを口にしてやると、男の子は嬉しそうに目を輝かせた。


「じゃあ、約束だからね!」

「うん」


やがて男の子は満足したように去っていった。


「……土方さん、なかなかやるじゃないですか」

「お前もな」


遠くから男の子が手を振ってくる。

手を振り替えしてやりながら、沖田は微かな笑みをその顔に浮かべた。


「土方さん、本当に楽しかったです。ありがとうございました」

「な、なんだよ急に」

「うーん、なんかもうすぐ終わっちゃうかと思うと寂しくって……」


柄にもなくしんみりして言う沖田に、土方は少なからず驚いた。

ここに来てから、沖田には驚かされてばかりだ。

あるいは、ようやく沖田が素直な本心をぶつけてくれるようになったということなのか。


「……また来りゃあいいじゃねぇか」

「へ?」

「いくらでも連れてきてやるよ、俺で良けりゃな」

「え、……………ほんと?」

「嘘は言わねえよ」


俺だってまたお前と来たいんだよ、とは流石の土方も言わなかった。


「ほんとに、…ほんとにまた僕と来てくれる?」

「あぁ」

「…懲りてない?」

「懲りてたらこんなこと言わねえって」


土方が盗み見ると、沖田は真っ赤な顔で目を丸くして土方の方を見つめていた。

天下の沖田総司がこんなにウブだと知ったら、ファンたちはどう思うのかと少し考えが巡る。


「……………よかった」


本当はばっちり聞こえていたのだが、しおらしくよかった、なんていう沖田が可愛くて………そう、可愛くて、土方はもう少しからかってやりたいと思った。


「え?何だって?」

「っ…嬉しいって言ったんですよ!!」

「ほぉ……珍しく素直じゃねぇか」

「悪いですか!」

「いや、むしろ好都合というか……お前も可愛いところあるんだな」


それから暫く真っ赤な顔のままぎゃあぎゃあと喚き続けた沖田に、土方は改めて思ったのだった。

俺はこいつのことが好きなんだ、と。



2012.05.25

(ぎゃあああ!土方さん!土方さん起きて!)
(何だよ喧しい…)
(クモ!でっかいクモ!!)
(あぁ?クモだぁ?)
(わあぁぁぁこっち来た!助けて!)
(何だよ……最近の若者ってのは虫も処理できねぇのか?)
(だっておっきい!)
(これくらいどうってことねぇよ……ほら)
(た、頼もしい………)
(…………おう)





やっと「アイドルの休日」終わりました。

最初っから最後までくだらなかったですね。

最後やっつけみたいになってしまいましたが…気持ちはちょっと進展したかな?

お付き合いいただきありがとうございました。


もうめらんこりっくネタ尽きてきた(笑)
ネタあったらどうか恵んでください。




*maetoptsugi#




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