日が上って朝が来て、夜になれば辺りを静寂と暗闇が包む。
そんな当たり前が、いつもとは違うように思えた。
甘味処が暖簾を下げているのや、野良猫が垣根を飛び越えて民家に入っていくのも、全てがいつも通りの何の特別性もない風景なのに、全く違った意味を孕んで見える。
『――労咳、ですね』
隠さずに本当のことを言って欲しいと頼んだのは自分の方なのに、いざ事実を告げられてみると、どうしようもなく居たたまれない気持ちになった。
自分の病名を知らずにいたら、これからもずっと、今まで通りに過ごせたかもしれないのに。
何故知ろうとしてしまったのだろう。
あるいは、そういう予感があったのだろうか。
自分が、―――労咳だという予感が。
もちろん、健康体だとは微塵も思っていなかった。
咳は出るし、血は吐くし、夜になれば熱も出る。
何かしら、簡単には治らない類の病を患っていることは確信していた。
(でも、労咳だとはね………)
自分が苦しむだけならまだいい。
何とか病に耐えて、これからも隊務を続けていくことができたかもしれない。
しかし、労咳は人に移る。
知られれば確実に疎まれ、そのうちに追い出されるのが関の山だろう。
だからと言って、新選組に居続けたいからと誰にも言わずにいたら、それはそれで大切な仲間を危険に晒すこととなる。
隠し通すのは不可能だ。
(僕は、どうしたらいいんだ……)
知らなければ幸せなことも、ある。
見上げた星空は綺麗なのに、妙に白々しく光って見えた。
それは、自分の心が荒廃しきっている所為なのだろう。
誰かに、一人じゃない、大丈夫だと言ってもらいたかった。
しかし、傍で支えてくれる人は誰もいない。
孤独が、酷く身にこたえた。
「がはっ…げほっ…!」
喉の奥に生暖かいものがこみ上げてきて、そのまま咳き込んだ。
立っているのも辛くなって、思わずその場にうずくまる。
口に宛てた手の平を、鮮血が濡らした。
(僕はもっと……みんなと一緒にいたいのに)
目から、涙が溢れた。
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