bookシリーズ | ナノ


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人は、皆命の尊さを知っている。

本能的に、それが分かるのだと言う。

――ならば何故、今自分は人を斬っているのだろう。

自問しながらも、刀を振りかざすその手を止めることができなかった。

答えを出したくもなかった。

普段から、二言目には斬ると言っているような気がする。

が、何も心から斬りたいと望んで言っている訳ではない。

それは言わば、弱い自分を守る棘のようなものだった。

少し脅しになればいい。

そういう気持ちで言っている。

血に飢えているから、斬りたがっているのでは決してない。

しかし、大抵の人には、真意が伝わらない。

沖田は怖い、人斬りだ、血に飢えた鬼だと噂される。

少し気が触れているのだ、と言われたこともある。

寂しさや弱さは噛み殺し、心の奥底にしまうしかなかった。

虚勢を張り、本当はちっとも強くないのに強い自分を装って、さも簡単なことのように人を斬る。

だからと言って、何の目的もなく斬るわけではない。

自分の殺人には大義も名分もあるから、まだ救いようがある。

正当化され得る。

そう何度自分に言い聞かせたか分からない。

しかし実際は、その大義や名分ですら一時の正義に過ぎないのであって、時や場所が変われば最早何の意味もなくなることは心得ていた。

どんなに最もらしい理由をつけようとも、殺人は殺人なのだ。

その変えようのない事実が、胸に酷く痛む傷を作った。

刀で人を突き刺す度に、自分の心までが抉られたような痛みに苛まれるのだ。


(痛い、な………)


どんよりと曇った空の下、総司は血塗れた己の刀を見下ろした。

鯉口を切る羽目になったのは、向こうが先に斬りかかってきたからだ。

身を守る為、やむ終えずしたことであって、決して自ら望んだことではない。


(いつまで逃げているんだろう…)


要するに、人斬り呼ばわりされたくないだけなのだ。

あれやこれやと理由をつけて、重すぎる責任から逃れようとしている。

近藤を慕い、ここまで付いて来たのは自分の意志だ。

近藤のためなら人斬りもやむ終えない。

それが、自分にとっての真理だった。


(だけど、僕だって人間だ……)


人間だから、死んでいく人間の痛みが分かる。


(僕は、鬼なんかじゃない)


目を閉じると、世界から切り離されたような孤独を感じた。

それが嫌で目を開けると、世界は赤く染まって見えた。


白く染まった髪が、嘲笑うように揺れていた。




*maetoptsugi#




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