bookシリーズ | ナノ


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ポテチにポッキー。

チョコとチュッパチャプスとグミと…


「い……うじ…」


あぁ、宇治金時忘れてたよ。

…え?宇治金時?


「おい!総司!」


え?ソーセージ?


「総司!いい加減に起きろ!」


突然の怒鳴り声に沖田が目を開けると、そこには般若の顔をした土方がいた。


「あれぇ?……ひじかたさん?」


起き抜けの呂律の回っていない口調で、沖田は目の前の人物を呼んだ。


「俺との約束に寝坊たぁいい度胸じゃねぇか。早く起きろ!」

「えー?」

「ったく、今一体何時だと思ってんだよ!」

「6時くらい」

「呑気なことを言ってんじゃねぇよ。もう10時だぞ?10時には出発する予定だっただろうが!」


言うや否や、土方は沖田から布団を引き剥がした。


「ぎゃーけだものー」


ようやく意識が覚醒した沖田は、棒読みで言いながらくすくす笑った。


「何だ、ずいぶんとご機嫌じゃねぇか」


布団を投げ捨てながら言う土方に、沖田は不思議そうな顔をした。


「当たり前でしょ?だって今日は待ちに待ったキャンプの日ですよ?」

「待ちに待ってたなら寝坊なんざするんじゃねぇよ!」


言いながら、土方は沖田の尻をぺしりと叩いた。


「いたたたたたたたたた!」

「"た"が多いんだよ!」

「ひどーい!暴力はんたーい!」

「寝坊するお前がいけねぇ」

「だってー、昨日眠れなかったんだもん」

「お前は遠足前の園児かよ!」

「遠足じゃないですか」

「だぁぁっもう!いいから早く着替えろ」


そのまま寝室を出て行こうとする土方を、沖田はふと呼び止めた。


「ねぇねぇ、何で僕の部屋に土方さんがいるんですか?」

「あぁ?んなもん合い鍵作ったからに決まってんだろ」

「あぁそっか…………って、合い鍵!?!?」

「何だ、悪いかよ。いつもいつも寝坊ばっかりのお前をいちいち電話で叩き起こすのが面倒になって、この前作っておいたんだよ」

「なっ………!!」


いつの間に、という沖田の叫びが土方に届くことはなく、土方は早くしろと言い捨てて出て行ってしまった。


「全く…油断も隙もありゃしない」


沖田はわざとらしく溜め息を吐きながら、土方の格好が、黒いジャケットに白いシャツにスリムジーンズと、そんじょそこらの俳優よりも格好良く決まっていたのを思い出して、つい、でれっと頬を緩ませた。

それから慌ててぺちぺちと顔を叩く。

あの人はあれで無自覚だから困るんだ、と言い訳めいたことを考えながら、沖田は昨日のうちに用意しておいた洋服に袖を通した。

赤を基調としたタータンチェックのシャツに、ベージュのロールアップ。

この間のアウトドア雑誌に載っていた服装をそのまま真似てみた。

秋の山は冷えると思って、きちんとストールも用意した。

リュックには所狭しと買ってきたお菓子が詰め込まれているし、準備は万端だ。

寝坊してしまったのは想定外だが、楽しみすぎて昨晩なかなか寝付けなかったのは事実だから仕方ない。

せっかくの土方との休日、これ以上一秒も無駄にはできなかった。


「お待たせしましたぁ」


沖田がリビングに出て行くと、土方はテレビで天気予報を見ているところだった。


「ばっちり快晴みてぇだな」

「そうこなくっちゃね」


土方は沖田の姿を見て微かに微笑んだ。


「忘れ物はねぇか?」

「うーん…お菓子は持ったし、多分大丈夫ですよ?」

「お菓子ってなぁ…もっと生き延びるために必要なものがあるだろ」

「生き延びるって……土方さん、どれだけ過酷な所へ行こうとしてるんですか」

「………まぁいい。行くぞ」


珍しく慌てたように玄関へと足を向ける土方に、沖田はくすくすと笑いを零した。











途中、二日間"生き延びる"ための食料を買うために、大型スーパーに立ち寄った。


「お前、どうせいつもの持ってきてねぇんだろう」

「いつもの?」


スーパーの駐車場に車を停めて、沖田が降りようとすると土方に引き止められた。


「ったく……こんなところで沖田総司だってバレてみろよ。キャンプ場まで追っかけられるかもしれねぇぞ?」

「あ、そういうことね」


沖田が納得すると、土方は後部座席から、恐らく土方のものと思われる帽子と眼鏡を取り上げた。


「おら、これでも被ってろ」


そう言ってぽすんと被せられた帽子からは、微かに土方の匂いがした。


「あ、土方さんの匂いー」


眼鏡をかけられながら沖田が言うと、土方は眉間に皺を寄せた。


「あぁ?なんか文句あるか?」

「ううん。この匂い好きだって、僕この前も言ったんだけど」

「……………そうかよ」


土方は俄かに赤くなった顔を隠すように車から降りた。

沖田もそれに続き、二人並んでスーパーへ入る。


「うおー。食欲の秋ですね!」


スーパーに入るなり、沖田の目が輝いた。


「ったくお前は…食い意地だけは張ってんのな」

「ほら見て!美味しそーう!」


言いながら沖田が手に取ったのはサツマイモだ。


「焼いて食うか?」

「うん!あとこれもー」

「焼きリンゴにしろ、ってことか?」

「あとやっぱり、キャンプと言ったらお肉ですよね!」

「そうなのか?」

「そうですよー」


精肉コーナーにすっ飛んで行く沖田を、土方が慌てて追いかける。


「あ、土方さんは牛肉と豚肉と鶏肉ならどれが一番好きですか?」

「俺?…総司が好きなのにしろよ」


どうせ大蔵省は俺なんだから、と土方が言うと、沖田はむっとしてそれを否定した。


「嫌ですよ。連れて言ってもらう上にお金まで出してもらうなんて、そんなの僕の矜持が……」

「お前はつべこべうるせぇんだよ」

「いーやーでーすー!今日ばかりは譲りませんよ!」


真っ昼間のスーパーで言い合う男二人に、自然と奥様方の奇異な視線が集まり出す。

これはマズいと、土方は慌ててその場を取り繕った。


「分かった、その件はまた後で話し合おう」

「む、またうやむやにする気ですか?」

「違ぇよ!で?どれにするんだよ」

「えー、本当にどれでもいいんですか?」

「あぁ、俺はソーセージがありゃあとは何でもいい」

「ソーセージって………土方さんが言わない方がいいですよ」

「はぁぁ?!どういう意味だよ!?」


そのままソーセージを取ってるんるんと歩いて行く沖田に、土方はやれやれと苦笑した。

普段の仏頂面と作り笑いが嘘のように、今の沖田は心から楽しそうに見える。

低血圧の総司が朝っぱらから上機嫌な時点で有り得ないし、今のあのテンションの高さも見たことのない光景だ。

本人はおくびにも出していないつもりなんだろうが、嬉しくてたまらないというのがひしひしと伝わってくる。

あのような沖田なら、ずっと見ていたいと思う。

これなら無理にでも休みを取って正解だったな、と土方は頬を緩めた。


「ねー土方さん、」


陳列棚の間を歩きながら、沖田は思い出したように土方を振り返った。


「果物缶って、やっぱりみかんと桃だけのやつも買うべきですか?」


改まったように聞かれて思わず身構えた土方だったが、その間抜けな質問に脱力する。


「真剣に何を聞いてくるのかと思えば、そんなことかよ」

「そんなこと、って何ですか!これはある意味死活問題ですよ?!」

「死活問題って…んな大袈裟な…」

「土方さんは事の重大さを分かってないんですよ!…いいですか?もしもミックス缶を買って、みかんと桃がちっちゃい欠片しか入ってなかったらどうするんですか?!」

「別にどうもしねぇが…」

「っ土方さん全然分かってない!みかんと桃がどれだけ美味しいか、全然分かってないよ!」


沖田はムキになって力説すると、缶詰めのコーナーに急行した。


「…やっぱり買っとこ」


そして土方の持つカゴの中に缶詰めをどばどばと放り込んだ。


「っ重てぇ」


土方は溜め息混じりにカゴを見下ろした。
その様子を見て、沖田の瞳が微かに揺れる。


「あの、土方さん…」

「いや、いいんだ、これくらい……」


言いながらカゴの中身を確認した土方の動きが、ピタリと止まる。


「……土方さん?どうしたんですか?」


沖田は突然フリーズした土方に、不安そうな顔をした。


「…ぎっくり、来ちゃいました?」

「っ違ぇよ!!何だよぎっくりって。人をじじぃみてぇに……」

「あ、自分でじじぃって言った」

「ってめぇよくも………じゃなくて!お前なぁ、野菜が全く見当たらねぇが、こりゃあ一体どういうことだ」

「えー?僕には野菜がいっぱいに見えるんですけど」


ズバリと土方に指摘されて内心焦りながらも、沖田は辛うじて誤魔化してみせた。


「ほら、サツマイモとか、リンゴとか……」


尻すぼみになる沖田の言葉に、土方は大きく溜め息を吐いた。


「いいか総司。まずサツマイモは野菜とは言わねぇ。芋は炭水化物だ。それからリンゴは…」

「あーもー!僕は今更家庭科の授業なんて受けたくないですー!」

「ならちゃんと野菜も買え!」

「むーう……」


沖田は恨めしそうに土方を睨みながらも、渋々野菜売り場へ移動した。


「…これでいいですか?」


腕にトウモロコシを抱えて、沖田は土方に差し出した。


「…これじゃ緑がねぇだろ」

「えー!緑はいや!」

「駄目だ。緑黄色野菜を食べねぇと…」


土方は沖田の制止にも構わずに、ピーマンとキャベツとネギを手に取った。


「どうだ、食えるだろ?」

「……土方さん、それ嫌がらせですか?」

「あ?」


沖田はぶるぶると震えながらネギを指差した。


「あぁ、そういやお前、ネギアレルギーだったな」


もちろんアレルギーなどではないのだが、沖田はネギだけは死んでも食べないことを知っていたので、土方は素直にネギを元に戻した。


「じゃ、これでいいか?」

「……この人は許します」


そう言って、沖田はキャベツをカゴに入れた。


「でも、この人は絶対に許しません」


沖田に拒絶されたのはピーマンだった。


「何でだよ」

「そういえば僕、ピーマンアレルギーだったんです」

「……けろりと嘘を吐くんじゃねぇよ」


土方は呆れかえって沖田を見た。


「嫌いなのか?」

「嫌いですね」

「お前、ほんと幼稚園児並みだな。夜は寝付けない、ピーマンは嫌い、人気アイドルがそんなんでどうすんだよ」

「嫌なものは嫌ですよ」

「だがなぁ、」

「まぁまぁ、もういいじゃないですか。そんなに野菜にこだわることありませんて」


へろりとした顔で沖田に言われてしまえば、土方もそれ以上強いことは言えなかった。

それからまた一揉めしたものの結局会計は土方が持ち、ようやく二人はキャンプ場へと向かったのだった。



2011.10.18




この二人だったら食材選びだってもめるだろうなぁと。




*maetoptsugi#




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