bookシリーズ | ナノ


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「総司、」


朝、土方さんの手作りの朝食を食べていたら、目の前で一緒に食べていた土方さんに言われた。


「お前、お箸の持ち方がなってねぇ」


因みに朝食はご飯にお味噌汁にちょっとっていうかかなり焦げた魚っていう、まぁ何とも型どおりのメニュー。

そして僕は、その型どおりさとか、焦げてるところとかをどうしようもなく嬉しく思った。

なんか、家庭の朝ご飯って感じがするから。

(施設のご飯はそこそこ不味かった)

それに、土方さんが僕のために作ってくれたんだもん。

嬉しいに決まってる。


「だって、誰も教えてくれる人いなかったし」


ブスッとして言うと、土方さんが眉根を寄せた。


「ったく、それじゃあろくに魚もほぐせねぇだろうが」

「そうなの?」

「ほら、見てみろ。箸ってのはな、中指で支えて、親指と人差し指以外は動かさねぇんだよ」


そう言って、向かい合わせの僕の為に、土方さんはわざわざ箸を左手に持ち変えて説明してくれた。


「ん〜?こ、こう……?」


中学生になって、まだお箸が使えないのも恥ずかしい話だとは思うけど、今まで教えてくれる人がいなかったんだから仕方ない。

僕はなかなか上手く持てなくて四苦八苦した挙げ句、うんざりして諦めた。


「ま、そのうち慣れることにしよっと」

「……努力しろって」

「ていうか、いいの?こんなにのんびりしてて。学校に遅刻しちゃいますよ?」

「何言ってんだ?俺の学校、土曜日は休みだぞ」

「えぇぇ」

「なんつー声出してんだよ。第一、出勤するならとっくに出て行ってるよ」

「そう………」


思わず寂しげな顔をしてしまったらしい。


「だから、今日は1日一緒にいるよ」


そんなことを言われてしまった。


「なっ……べ、別に…そんな………」

「何照れてんだよ」

「て、照れてなんかっ……」


僕は慌ててご飯をかき込んだ。


「んぐっ!げほっ!ごほっ!!」


そして、派手に咽せた。


「おいおい、大丈夫か?いっぺんにかき込むからだろ」


土方さんが、咳き込む僕の背中をさすってくれた。


「そういや、今日は家具でも買いに行くか?」


ようやく咳が収まった僕は、ん?と思って顔を上げる。

あぁ、そういえば言ってたんだっけ。

次の休みには家具を買いに行こうかって。

確かに僕は未だに土方さんの部屋に布団を敷いて寝ていたし、勉強は土方さんの書斎でやっていた(つまり僕の部屋は完全にデッドスペースとなっていた)んだけど。

でもね。


「僕、困ってないし、いいです」


あ、土方さんは困るのかな、と思って顔色を伺うと、別に困った風でもなく、そうなのか?と言われた。


「けど、いつまでも布団でいいのか?」

「うん」

「やっぱりベッドの方が…」

「じゃあ、土方さんのベッドにお邪魔するからいいです」

「はぁ…?」


土方さんは怪訝な顔をしたけど、拒否もしなかったのでよしとする。

実は、生まれてこの方誰かと一緒に寝たことがないから、密かに添い寝ってものを経験してみたい、とか思っている。

けど、僕は添い寝が必要なほど子供じゃないし、なかなかチャンスは到来してくれない。

でも、今夜は思い切って挑戦してみようかな。

そんなことを考えていたら、土方さんがまた口を開いた。


「じゃ、今日は何がしたい?」

「え、そんなに僕に選択権があるの?」


思わず聞いたら苦笑された。


「いや…まぁ、さしあたっては、な」

「うーん…じゃあ、今日はおうちにいたい」

「そうか?」

「うん、のんびりしたい……し、土方さんにも慣れたい」

「…分かった。じゃあ、勉強でも見てやろうか?」

「えっ!いいんですか?!」

「いいに決まってるだろうが。俺はお前を高校に行かせてやりてぇからな」

「わーい!」


土方"先生"とマンツーマンで授業かぁ…

どきどきする。

どうしよう、物分かりが悪いとすぐに怒鳴る鬼教師だったら……

僕はごちそうさまをして食器を片付けると、どたばたと教材を取りに行った。

とはいえ、僕が持っているのは、教科書と資料集くらいなものなんだけど。


「うーん…やっぱり国語教えてもらおっかな」


古典と国語は違うだろうけど、英語とか言われるよりはマシだろう。

そう考えて、僕は国語の教科書とノートを引っ張り出すと、リビングへ戻っていった。


「土方さんっ」

「お、持ってきたか?」


土方さんが新聞から顔を上げる。


「うん…国語、なんだけど」

「国語?…国語って何か教えることあったか?」

「えー。それ教師が言う?」

「もっと何かねぇのか?」

「や、そりゃあ…英語だの数学だの理科だのいっぱいあるケド」

「ていうかお前、一体どれぐらいの学力なんだ?」

「知らないよそんなの」

「学校は?」

「……さぁ?成績はいいけどね」

「あ〜と、あ、ちょっと待ってろ」


そう言うと、土方さんは書斎へ向かった。

大人しく待っていると、暫くして大量のプリントを抱えた土方さんが帰ってきた。


「これ、薄桜学園高校の入試の過去問なんだが……」

「えー!?」

「試しにやってみろよ。そしたらお前の水準が分かるから」


ほら、と言って、一番上に乗っていた一束を渡された。


「本当にこれやるんですか?」

「本当にって何だよ」

「えー……」


僕は塾に行ったこともなければ、学校の宿題だって大概はおざなりにしていたりするから自信は全くない。

僕はブスッとして土方さんを盗み見た。

するとがっちり目が合ってしまって、慌てて顔を背ける。


「何だよ…ほら、早く解け」

「うぅ……」


僕は仕方なくシャーペンの芯を出すと、のろのろと問題を解き始めた。











数時間後。

すっかりやさぐれて、僕はソファーに突っ伏していた。

土方さんが僕の解答を採点してくれているんだけど、さっきから斜線を引く音しかしない。

どうせ答案用紙には赤い雨が降っているんだ。

もう僕は、高校なんか行けないのかも知れない……。

そう思ったら泣きたくなってきて、僕はクッションに顔を押し付けた。

その時土方さんが立ち上がる気配がして、僕はびくりと身体を震わせる。

そのまま土方さんは僕の足元らへんに腰掛けて、頭をぽんぽん叩いてきた。


「……っ何ですか」


僕は慌てて起きあがると、その手をなぎ払った。

照れ隠しが半分、驚いたのが四分の一、うざったかったのが四分の一。


「……まぁ、後一年近くあるから」


気休めを言われた。


「っいいですよ別に!はっきりと言ってください!この出来じゃ薄桜高校は無理だって」

「いや、俺がいるんだから無理なわけがねぇだろ」

「何言ってるんですか!無理なものは無理なんです!ほんとは先生と同じ学校に行きたかったけど、もう諦めますから」

「……お前、それ…」

「………あっ…」


しまった、と思った時にはもう遅い。

土方さんはうっすらと笑みを浮かべて、僕はまたもやクッションに顔を埋める羽目に陥った。


「お前、そんなことを思ってたのか」

「っただ土方さんのことが心配だっただけです!」


僕は顔を上げて咄嗟に言い返した。


「心配?」

「変な女子高生にたぶらかされてないかとか、えっちな保険医に手を出してないかとか、」

「………それって、」

「……あっ…」


またしても墓穴を掘ってしまった。

自分の失言に顔から火が出るかと思って、僕は頭をぐりぐりとクッションに押し付けた。


「うぅ〜……」

「お前、やっぱり可愛いとこあるよな」

「ないです!」

「そんなに俺のことが心配なら、他の学校なんざ通ってられねぇじゃねぇか」

「……………」

「おい、絶対薄桜学園に入学しろよ」

「……何で?」


僕は顔をあげると、土方さんを半分睨み付けるように見た。

こんなに恥ずかしい思いをして、まともに顔を合わせられるわけがない。


「俺もお前が心配だ。勉強ならみっちり教えてやるから、絶対合格しろ」


至って真剣に言ってくる土方さんに、僕はますます赤面した。

なに?俺も心配だ、って。

今まで誰からも"心配だ"なんて言われたことないんだけど。

嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からなくて、どうしていいのかもさっぱりだ。


「そんなの……土方さんになんか心配されなくたって、しっかり高校生になって、高校生活エンジョイしてやるんだから」

「お前分かってねぇな…俺はそのエンジョイとやらが心配なんだよ!」


土方さんが雷を落とした。

僕は笑ってそれを流す。

僕だって心配だ。

ショッピングモールでの土方さんを見る限り、土方さんは相当モテるはずだ。

ただの養子である僕が心配するようなことではないかもしれないけど、何か心配だし、癪に障るし、土方さんは目の届く範囲に置いておきたいから、やっぱり何としても薄桜学園に入らなきゃいけない。

……頑張ろう。

動機はかなり不純ながらも、僕は密かに決意を固め、訳も分からず女子高生やグラマーな保険医(僕の想像)に対して敵対心を燃やしたのだった。



2011.11.09




*maetoptsugi#




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