放課後、珍しくとっとと家へ帰ろうとした総司を引き留めて、何とか家へ来させることには成功したのだが……。
どうも余所余所しくて適わない。
夕食を作ってやっても食欲はないし、口数も少ないし、妙に青白い顔をしている。
それに、時々顔を歪めて、放心したようになったりする。
キスをしようとしても、すぐについ、と逃げていってしまう。
それどころか、傍にすら寄らせてくれない。
いつもなら、あっちから求めてくるくらいなのに……。
「総司、大丈夫か?」
俺は具合でも悪いのかと思って聞いてみた。
「大丈夫ですよ」
「どこか具合が悪いのか?」
「いや……そういうわけじゃ………」
総司がお茶を濁す。
確かに、額に手を当ててみても熱はなかったし、咳や鼻水など、風邪の症状も特には見受けられなかった。
「軽い…貧血だと思いますから」
そう言う総司に、俺は八の字を寄せた。
「貧血だぁ?…お前、ちゃんと食わねえからだろう。ほら、もっと食え」
皿を総司の方に押してやると、総司はいやいやと首を振った。
こいつは朝も弱いし、低血圧なのは重々承知している。
だが、それでも心配だ。
「いらねぇのか?」
「うん……」
「ったく…じゃあ、風呂入ってこいよ」
すると、総司はまた首を振った。
「倒れると困るし、遠慮しときます……」
「はぁ?」
お前そんなに具合が悪いのか?と尋ねると、そういうわけじゃない、と全力で否定される。
「お前が倒れねぇように、一緒に入ってやろうか?」
態と言ってやると、総司は血相を変えて怒り出した。
「やめてください!ちゃんと一人で入れますから!」
「なら入ってこい」
「じ、じゃあ、シャワーだけ…浴びてきます」
「………まぁ…総司がそれでいいなら…」
俺が言い終わらない内に、総司は素早く風呂場へ行ってしまった。
絶対に来るな、なんてご丁寧に言い残して。
本当に、今日の総司はおかしい。
もしかして、俺に知られたくないことでもあるのだろうか。
例えば、身体のどこかに俺のものではない鬱血痕がある、とか……
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。
あいつ…風呂から上がってきたら、絶対問い詰めてやるからな。
俺は奥歯を噛み締めながら、じりじりして総司が上がってくるのを待った。
「土方さん、お先にお風呂……ってちょっと!」
総司が出てくるや否や、俺はその身体をソファへ押し倒した。
やめろと喧しい口を、自分のそれで塞ぐ。
くちゅ、と態とイヤらしい音を立てながら、総司の口腔を思う存分に犯した。
「ンっ、ふ……ぅんっ…」
最近稀にみる抵抗をしてくる総司の腕を頭上に縫い止め、足には自分の足を絡めることで固定する。
舌を吸い取り、唾液を絡ませ、総司の目がとろん、としたのを見計らってやっと解放してやると、総司は全力で嫌がり出した。
「やだ!離してください!」
じたばたと暴れようとする総司を、ぐい、と押さえつけ、片手で濡れた髪を梳いてやる。
「なぁ、総司。俺に何か隠してねぇか?」
「っ………!」
態と低い声を耳に吹き込んでやると、総司は目に見えて動揺した。
「俺に隠し事をするなんざ、いい度胸じゃねぇか」
声色と違って優しく動く俺の手に混乱したのか、総司が不安そうにその瞳を揺らす。
「絶対白状してもらうからな」
そう言って、ご丁寧なことに元通り制服を着込んでいる総司のシャツの中へ、手を滑り込ませた。
「っやだ!土方さん!」
「何が嫌だよ」
「お願い……本当に…今日だけは………」
今日何かあるのか?と思って総司を見ると、ぽろぽろと涙を零している。
俺はそれに驚いて、慌てて総司の涙を拭ってやった。
「おいおい…一体どうしたんだよ……」
俺はしくしくと泣き始めた総司の背中に手を回すと、ゆっくりと抱き起こした。
「総司、悪かった。けど、泣いてるだけじゃ分からねえだろ?」
優しく言ってやると、総司は急に俺を突き放して立ち上がった。
「……っ馬鹿!」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
「土方さんの馬鹿っ!馬鹿馬鹿ばーか!」
「いや、ちょ……お前……」
急に馬鹿馬鹿と連呼し、顔を真っ赤にして怒り出した総司を、俺は唖然として見上げる。
「もぅ!どうして分かってくれないんですか!男ならそれとなく察して気を使ってくれたっていいじゃないですか!」
「総司……?」
待て待て、全く話が見えねえ。
「だから!貧血なんです!」
「あぁ、それは分かって……」
「月に一度の貧血の日なんです!」
「…………ぁ…」
「もう!女の子の日に求めたりしないで下さいよ!お腹痛いんだから……」
総司は完全に拗ねて、長いソファの反対の端に座ってしまった。
まぁ……だが、これは気付いてやれなかった俺が悪い。
「総司、悪かった」
俺は遠慮がちに総司の傍まで移動する。
「土方さんの変態!」
「…本当にすまねぇ」
「………分かってくれたならいいですよ、もう」
そう言うと、総司はちらりと俺に視線を合わせてきた。
「今日はキスまでですからね。我慢してください」
そして、腕を首に絡めてくる。
「まぁ、口でよかったら奉仕してあげられないこともないですけど」
「ったく、そんなに貧窮してねぇよ」
それに、我慢してるのはお前もだろ、と言ってやりたかったが、また総司の機嫌を損ねるのも嫌だったので、俺は笑ってキスしてやるだけに留めておいた。
(俺が羅刹だったら、お前の血の匂いに反応してたかもな)
(土方さんっ!)
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