とうとう一度も本音を言い合わないままで、こんなところまで来てしまった。
僕は、土方さんが好き。
土方さんも、僕が好き。
それなのに、口から出るのはいつだってお互いに文句ばかりで、顔を合わせれば言い争いが始まって、距離は一向に近づかない。
お互いに分かっていた。
本当は、好き同士なんだって。
お互いの目には、燃えるような熱い愛欲と、恋情ばかりが浮かんでいたから。
それなのに、僕らはいつだって自分のことは棚に上げて、相手が素直になってくれること、相手が想いを告げてくれることばかりを期待していた。
臆病で、わがままで、勇気のない馬鹿な僕たち。
たった一言、好き、と言えないままで、もう何年経っただろう。
どれだけの時間を無駄にしてきたのだろう。
明日こそは、と思って今日が過ぎていき、やがて昨日になっていった。
もし、好きと伝えていたら、今頃は違う今日を過ごしていたのかもしれない。
本当に、馬鹿な僕。
「ねぇ、土方さん」
僕をお見舞いに来た土方さんは、髪をばっさりと切っていた。
「似合いますね、短髪も。まるで異国の人みたいだ」
「何だよ急に。お前らしくもねぇ」
「僕らしさ、って、何なんでしょうね」
「さぁ……素直じゃないところ、とか」
「あはは……さすが土方さん、ご名答」
「馬鹿言え」
違う。こんなことが言いたいんじゃない。
でも上手く言葉を紡げない。
結局僕は、最後まで臆病者だ。
「ねぇ、」
「ん?」
開け放たれた障子の向こうを眺める土方さんは、どこか遠い目をしていた。
「僕、大好きでしたよ」
「あ?」
「…貴方を困らせるのが」
「はっ……俺だって好きだったぜ、総司を叱るのが」
僕は静かに目を閉じた。
そう。
いつになったって、僕らは素直になんかなれっこないんだ。
想いを伝えないままで、気付いたらもうそこまで終わりがやってきていた。
そういうのも悪くはない。
「ねぇ」
「何だよ。今日はやけに饒舌だな」
「最後にもう一度だけ、貴方を困らせてもいいですか?」
「はぁ?……どうしたってんだ?お前は了承を得ようとするような奴じゃねぇだろうが」
「いいんですか?…土方さん、苦しみすぎて泣いちゃうかもしれませんよ?」
「嫌だと言ったって、お前は止めねぇだろ?」
「まぁね」
いつまでも、土方さんを困らせるのは、僕だけであってほしい。
僕は、土方さんに向かって微笑んだ。
「後悔しても、遅いんですからね?」
「今更するかよ、馬鹿」
もう後には別れしか残っていないというのに。
今想いを告げることで、どんなに土方さんは苦しむことだろう。
それでも僕は、貴方を困らせずにはいられない。
「土方さん、僕はね、
――――貴方のことが大好きだったんです」
僕はそっと呟いた。
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