bookシリーズ | ナノ


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そのままエレベーターに乗せられて、僕は戸惑って土方さんを見上げた。


「な、何ですか?」

「ったく、お前何だよ、あれは」

「え……?」

「何で正直に養子だって言わねえんだよ」


え……言ってよかったの?


「だって…言ったら土方さん困らないですか?養子なんてそうそうある話じゃないし、また根掘り葉掘り聞かれる気がしたから…」


僕はそんなようなことを丁寧に説明した。

だって土方さん、僕を引き取ったことを、全く普通のことのように思ってるみたいだったから。


「土方さん、結婚もしてないのに里親なんて珍しいですよ?校長先生とかには言ったんですか?」


すると、憮然として言ったと返された。


「校長とは昔からの知り合いなんだよ…別にトシがいいならそれでいいんじゃないか、とか言っていたが…」


僕は目を丸くする。

何てのんびりした校長先生なんだ。


「いやまぁ確かに…言われてみりゃあ多少抜けてる校長なんだが……」

「そうですよ!大体、父兄だって怪しむじゃないですか!急に先生が養子を取ったのは何故?ってなるじゃないですか!そういうこと、考えなかったんですか?」


この深謀遠慮な土方さんが?

土方さんは、ようやく僕が言いたいことが分かってきたようで、怒るのをやめて、逆に驚いたような顔をしている。


「あ、あぁ……あまり、そういうことは考えなかった…」


困ったように頭を掻く土方さんを、嘘でしょと思って凝視する。


「っていうより、お前を手に入れるのに必死で、後のことはあまり考えてなかったんだよ……総司もあるだろ?どうしても手に入れたいもんがあると、他のことはどうでもよくなっちまうこと、」


そんなことを言って、土方さんは苦笑いしている。


「……信じらんない…」


何というか……言葉が出てこない。

その時、チン、という音がして、エレベーターが開いたので、取りあえずエレベーターを降りる。


「で、土方さんが超抜けていたことは分かりましたけど、」


僕は改めて土方さんを見た。


「いや、抜けてたんじゃねえよ。養子ってもんを、そんな大事だと思ってなかっただけだ」


何やら弁解を始める土方さんを制して、僕は説教してあげた。


「あのね、養子っていうのはね、ペットショップから猫を買ってきました、今日からこいつも家族です、っていうのとは訳が違うって、これ分かります?」

「っ分かるに決まってんだろ!馬鹿にすんな、」


分かってないよ、全然。

本当の親じゃないっていう、ただそれだけの理由でイジメが始まることだってあるんだから。


「じゃあ、どうして僕を選んだのかって聞かれたらどうするつもりだったんですか?まさか、夜道に落ちてたのを拾いましたって説明する気だったんですか?」

「っ、」

「大体、土方さんの家族には、ちゃんと許可貰ったんですか?」

「家族は…疎遠だからな。俺もお前と同じように、ずっと一人っきりみてえなもんだ。一応言うには言ったが、俺が結婚もしねぇうちから養子取る、なんて言っても、まるで気にしてなかったぜ?」


淡々と話す土方さんは、何やら少し寂しそうだった。


「っ…もう土方さんには僕がいるんだから寂しくなんかないでしょっ?」


……何で僕がこんなことを言わなきゃならないんだ。

ほら、土方さんも変な顔をしてるじゃないか。


「それより、」

「はっ……俺はやっぱり何が何でもお前を手に入れて正解だったみてえだな」

「はい?」

「いや…まぁ、何だ、総司は俺の世間への対応が気になるんだろう?」

「そうですけど…」

「俺は別に、素直に養子だって言えばいいと思うんだが……まぁ、お前にも色々考えがあるんだろうし、暫く学校関係者以外には黙ってることにする」

「はぁ………」


何だか、完全に土方さんのペースに乗せられてしまったが、生徒には言わないって約束してくれたからひとまず安心する。

それから、土方さんがどれだけ強く僕を欲しがってくれていたのかも確認できたので、いいことにする。

……それにしても僕を欲しがるなんて、本当物好き。

というか悪趣味。


それから土方さんは、僕のために適当に服を見繕ってくれた。

最近の流行りはよくわからねえなんていいながらも、店員さんが褒めちぎる程度にはセンスの良い服ばかり選んでくれた。

僕は今まで寄贈品とか、誰かが手作りした服しか着たことがなかったし、大体服自体そんなに何枚も持っていなかったので、正直戸惑いだらけだった。

でも、僕がそんなにいらないですって言うのに、土方さんは、遠慮するなって言いながら、自分の方が楽しみ出す始末だったんだから仕方ない。

結局、寝間着だのTシャツだのジーンズだの、たくさん買わせてしまった。

他にも歯ブラシやコップなど、生活に必要そうなものも揃えた。

それで映画の時間になったので、大荷物を抱えて映画館へ向かった。

映画の内容は……

あまり覚えてないってことは、きっと大した話じゃなかったんだよ。

僕、ずっと土方さんのこととか、本当にこんなに幸せでいいのかってことについて考えてたから、ろくに見てなかったんだよね。

オマケに字幕だったから、頭に残ってるのは迫力あるシーンだけ。

…折角お金払ってもらったのに悪いけど。

3Dメガネの下で、僕はちらちらと土方さんの様子を伺っていた。

だって、これから一つ屋根の下で暮らすことになる人だもん。

よく観察しておかなくっちゃ。

取りあえず第一印象通り、やたらイケメン。

人生に一度見られたらツイてるってくらいイケメン。

何で芸能人じゃなくて古典教師なんかやってるんだろうってくらいイケメン。

不格好な3Dメガネですら似合ってしまうようなイケメン。

あとは…怒ると怖いよね。

苛々しても怖いし、兎に角この人の機嫌は損ねちゃいけないなって思う。

それから………

たまに笑うとすごく優しそうな顔になる。

そういう時、僕の心臓はドキッて言う。

多分、心根は優しい人なんだと思う。

でもちょっと短気で、我田引水なところもあって、頭はよく回るし、すっごく思慮深いくせに、考えすぎて間が抜けるというか、なんかちょっと抜けてるところもある。

総じて、嫌いなタイプじゃない。

むしろ、好き。

最初の頃こそ、僕を勝手に拾って、勝手に捨てたかと思ったらまたのこのこ顔を見にきて、ほんと頭にくる奴、と思ってたんだけど。

毎日のように会いに来てくれて、そんなに悪い人じゃないのかなっていう思いが、徐々に良い人かも、に変わって、最終的には僕を幸せにしてくれたこの世で一番良い人、になった。

要するに、僕は土方さんの思い通りに手懐けられてしまったんだと思う。

でもまあいいかな、なんて思ってしまう。

だって僕には、土方さんだけだもん。

土方さんが現れなかったら、僕一生一人ぼっちだったかもしれないし。

やっぱりあの時脱走してよかった、なんてね。

じゃなきゃ僕らは出会ってなかった。

これはまさしく運命だ。

なるべくしてこうなったんだ。

……なんて臭いことは言わないけど。

そんなことを思いながら土方さんを見ていたら、土方さんがゆらりと船をこぎだした。

胸元で腕を組んで、足も組んで、その体勢は全く崩さずに、頭だけが徐々に下がっていく。

あー…寝ちゃった。

そうだよね。

土方さん、疲れてるはずなのにさ。

折角のお休みだし、ゆっくりしたかったんじゃないのかな。

僕なんかのために時間を割いてくれちゃって、ほんと申し訳ないんだけど。

でも、それが無性に嬉しい。

今まで、自分のために何かしてもらったことなんて…多分ないと思う。

僕は、心の中で、土方さんに深々とお辞儀をした。




*maetoptsugi#




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