bookシリーズ | ナノ


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晩御飯、寒いしあったかいものがいいよね、ということで鍋かシチューの二択までは絞ったものの、土方さんのご要望が分からない。

仕事中に悪いかな、と思いつつ電話をかけてみた。


「あっ、もしもし土方さん?」

「おう」

「あの、今日の夕飯のことなんですけど、」

「おう」

「土方さん…………?」

「おう」

「……………」

「何だ、早く要件を言え」

「……………」


何だか、土方さんの様子がおかしい。

何となくよそよそしいというか、早く切りたがってるというか。


「総司、何だ?」

「……………やっぱりいいです。お邪魔しました」


ブチッと。

それはもう潔く僕は電話を切った。

やっぱりお仕事忙しかったんだよね。

メールにした方がよかったよね、当たり前だけど。

分かってるよそんなの。

分かってるけど、でもやっぱり寂しいんだよ。

だってメールじゃ返信率五パーセント切ってるんだもん。

だから電話してみたけどダイスキな声はよそよそしいし……どうしよう寂しいんですけど。

僕こう見えても寂しがり屋なんです。


「………………土方さんのばか」


あのトンチンカンは、毎日食事中くらいしかろくに会話もできないから、どうせなら食べたいものを食べてほっこりしてもらいたいっていうデキた嫁の気持ちが分からないんだね。

仕事バカめ。


僕はソファにダイブして、ふてくされて顔を埋めた。







―――眠ってしまった。

うん、でもふて寝ってすっごく効果的だと思うんだよね。

寝てさめたら不満も払拭!って。

まぁ、そんなに僕は都合よくできてないんだけど。

起き上がろうとして、頭を優しく撫でてくれている手に気がついた。

あれ、と薄目を開ければ、ソファに埋めていたはずの頭が、スーツの膝に乗せられている。

これ、もしかしなくても膝枕の状態だよね…?


「ん………?」

「起きたのか?」


すると、頭上から、優しくて安心する声が聞こえてきた。

ガバッと体を仰向けにしようとすると、ソファの下に何かが落ちる。

あ、土方さんの上着だ。

慌てて手を伸ばして拾い上げてから上を向くと、僕を見下ろす土方さんと目が合った。

少しやつれた顔。

でも綺麗。


「あ…………おかえりなしゃい」


寝起きの所為で、思わず変な話し方になった。

うわ、恥ずかしい。

回れ!僕の呂律!

赤面していると、土方さんがクスッと笑った。


「ただいま」


それから猫を構うような手つきで、僕の頬をくしゅくしゅと撫でてくる。


「さっきは悪かったな」

「さっき………?」

「電話、きちんと対応してやれなかったろ?」

「あぁ……」

「あの時ちょうど客が来ててな、電話してられなかったんだ」


ふーんと土方さんを見つめる。

どうせそんなことだろうと思ってました。

僕はよくデキた嫁なので、出てくれただけ有り難いと思ってました。

客って大ざっぱすぎてちょっと不安だけど、まさかデリヘルなわけはなくて、きっと宅急便とか銀行さんとか問屋さんとか、そういうビジネスの相手なんでしょ?

………と口が回れば間違いなく言っていたけど、残念ながら、今僕の呂律は仕事をしていない。

代わりに口から飛び出したのはただ一言。


「そんな仕事人間な土方さんも大好きですよ」


土方さんは、目に見えて狼狽えた。

あれ、まさか嫌みだと思われたのかな。

まぁそれならそれでいいや。

嫌みだと思うだけの罪悪感があるってことで無罪放免。


「今日はいっぱい甘やかしてくださいね」

「……了解」


このまま膝枕されてるのも、何だかすごく幸せかも、……なんて。




*maetoptsugi#




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