bookシリーズ | ナノ


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「うわぁぁぁっ!全部ネズミ!」


ホテルの部屋に入るなり、ベッドにバフッとダイブして、壁紙や天井を見ながら沖田が言う。


「ネズミってな……そこはミッキーって言ってやれよ」

「ぷ……土方さんが、ミッキーだって」

「てめぇっ…」


後から部屋に入り、沖田が脱ぎ散らかした靴をまとめながら、土方も部屋の内装を眺める。

本当に、どこもかしこもねずみだらけだ。


「うっわぁ!アメニティまでミッキーですよ!すご!」


落ち着かずにドタバタとバスルームへ行った沖田が、大声で叫んでくる。

どうやら喜んでくれているらしいので、土方はホッと息を吐き出した。


「おい、総司来てみろ。景色が綺麗だぞ」


カーテンを開けて、窓越しに園内の景色を見渡すと、綺麗にライトアップされた街並みが見事だった。

すっ飛んできた沖田のために場所を開けると、うわぁと感嘆の声が漏れる。


「帰って行く人見えるんですね!なんだかすっごい優越感」


はしゃぐ沖田をベッドに座って眺めながら、土方はこれからのことを思案した。

とりあえず、ベッドは二つあるから問題ない。

沖田の寝顔は見なければいいし、お風呂も一緒に入る訳がないし、まぁ、大丈夫だろう。

自分の理性を信じようと、土方は腹に力を入れて立ち上がった。


「あれ?どこに行くんですか?」

「ちょっとタバコ吸ってくる。一日禁煙してたら疲れた」


園内にもいくつか喫煙場所が設けられていたものの、沖田を待たせておくわけにはいかないので、土方は禁煙に徹していた。

が、一晩無事に乗り切るためにも、ここらで一服してニコチンを摂取しておく必要がある。

いっそのこと、吸いすぎで勃起不全にでもなればいいとさえ思った。


「すぐ戻ってくるから」


不服そうな顔をしている沖田を置いて、部屋を出る。

最近は、ずいぶんと喫煙者に世知辛い世の中になった。

喫煙場所を探すのだけでも一苦労だ。

要するに禁煙しろということなのだろうが、今だけはどうしても吸いたい。

ホテルのロビーでようやく見つけた喫煙スペースで、土方はやれやれと頭をかいた。





「ただいま」


カードキーで部屋に入ると、沖田はベッドの上でくまを眺めてぼーっとしていた。


「何してんだ?」

「んー、この子に名前つけた方がいいかなーと思って」

「もう公式の名前があんじゃねぇのか?」

「そうですけど。こんなに大きいと、特別扱いしたくなっちゃいますよね」


土方にはよく分からない心境だ。

沖田はしばらく考えていたあとで、妙ちくりんな名前を言った。


「きめた!総三郎にする」

「まさかの和名かよ……」


沖田のおかしなネーミングセンスに、土方はプッと吹き出した。

どう考えてもちぐはぐな名前に、くまが少し哀れにさえ思えてくる。


「なんか文句あります?」

「いや………でもなんで総三郎なんだ?」

「土方さんと僕の名前組み合わせて、語呂がいいように郎をつけました」

「………………」


とんでもない殺し文句が聞こえてきた気がする。


「買ってくれたのは土方さんだし、でも所有者は僕だし。うん、やっぱりいい名前だ」


一人で納得して頷いている沖田に、土方は何も言えずに目を泳がせた。

すると、総三郎と目が合った。

沖田との子供か、なんて考えたのは、多分、きっと、おそらく、気のせいであると思う。


「先風呂入って来いよ」

「はーい………あれ、でも僕着替えなんて持ってきてないんですけど」


土方は、自分の鞄の中から黙って袋を差し出した。


「下着……入ってる」


今朝迎えに行ったついでにこっそり用意したのだが、今更ながらに自分のしていることが恥ずかしくなってきて、土方は目を逸らした。


「……さすがに着替えまでは無理だったから、バスローブで我慢してくれ」

「あ、はい……………」


やはり気味が悪かったのだろうか。

沖田はぎこちない動きで袋を受け取ると、これまたぎこちなくバスルームへ消えていった。

土方はベッドに倒れ込むと、なかなか長い一晩になりそうだと溜め息をついた。







(どうしよう!土方さんが僕の下着に触った!)


ところ変わってこちらは風呂場の沖田。

満杯に張ったお湯に鼻まで沈みながら、ぶくぶくと泡を立てて恥ずかしさを紛らわしていた。


(しかもよりによってこんな恥ずかしい柄!見られるだけでも嫌だったのに!)


土方にサプライズでホテル宿泊というプレゼントを貰ってから、沖田の心は浮いたり沈んだりを繰り返していた。

キャンプに行った時は何もなかったが、あの時は巨大なクモが出現したり、暗すぎて何も見えなかったりと、状況が状況だったのだ。

しかしここはれっきとしたホテル。

ホテルに行ったらやることは一つしかない!

てことはもしかしたら!?……とここでテンションが最高潮に達してから、一気にがくんと下がるのだ。


(僕たち、付き合ってもいなかった……)


付き合っていないどころか、沖田は土方の気持ちすら知らない。


(きっと、二人でホテルに泊まろうって平気で思えるんだから、土方さんは何とも思ってないんだな……)


ぶくぶくぶく。


(しかも、平気でパンツを用意できるんだから、やっぱり何とも思ってないんだな…)


ぶくぶくぶく。


(まぁ、ツインだし、土方さんの方を見ないようにすれば……)


「っぷはぁ!!!」


考えに耽りすぎて、危うく溺死するところだった。

沖田は慌ててユニットバスの栓を抜くと、頭からシャワーを浴び、一応念入りに体を洗った。




*maetoptsugi#




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