bookシリーズ | ナノ


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「土方さんあがりましたー」


ぱたぱたと歩いてくる音がして、土方はベッドに寝そべったまま顔を上げた。

そしてすぐに顔を逸らした。


(何だアレは!!!!!)


沖田は、なかなか不器用らしい。

バスローブの前を上手く合わせられないのか、紐を結んでいる間にはだけてしまったのか、とてつもなく前が開いていた。

乳首がギリギリ見えな……いや、見えてるのではないだろうか。

しかも、ろくに拭かれていない髪の毛がしっとりと伸びていて、とにかく、色気がだだ漏れしている。

土方は額に手を当てて、大きく息を吐いてから沖田に向き直った。


「お前、前がはだけすぎだろう。風邪引くぞ」

「うーん、でも上手く結べないんです。土方さんやってください」


何だとこら、俺の理性を試してるのか?と面食らいながら、土方は重い足取りで立ち上がった。

なるべく本人を見ないようにしながら一度紐を緩め、脱がせている錯覚に陥りそうになる自分を懸命に引き上げながら、前を深すぎるほどに合わせて、キツく紐を絞める。

ずっと紐の綻びだけを凝視していた所為で、目がチカチカする。


「ありがとうございます」


土方は即座に沖田から離れた。

何しろ、視覚は何とかブロックできたものの、嗅覚がどうにものっぴきならない状況に追いやられていたのだ。

ぷんぷん香る、シャンプーの香り。

これは、沖田のファンなら確実に鼻血による大量出血で失血死していたはずだ。

それほどの威力があった。


(こりゃあ、昨日抜いておいて正解だったな……)


土方は一人嘆息した。

その溜め息に敏感に反応する者が一人。


「……土方さん、どうかしましたか?さっきから溜め息ばっかりですけど、やっぱり泊まるの嫌になったとか…?」


不安げに目を揺らす沖田に、土方はうっと息を詰めた。


「いや、違ぇよ」

「でも、さっきから全然僕のこと見てくれない……」

「!!……いや、そんなことねぇぞ」


見ないのではなく、見れないのだ。


「ほら、髪の毛乾かしてやるから、ドライヤー持って来い」

「はーい……」


土方は誤魔化すように沖田を追いやった。



ドライヤーを持って帰ってきた沖田が、土方さんも風呂に入れと言う。


「ちゃんと洗って、もう一度お湯張りしときましたから」

「おう、ありがとな」


土方は丁寧に沖田の髪の毛を乾かしてから、逃げるようにバスルームへと駆け込んだ。





バスローブに着替えてから部屋に戻ると、沖田はベッドの上で携帯を弄っていた。


「あ、土方さんお帰りなさい」


土方を見るなりギョッとしたような反応をして、顔を真っ赤にして携帯に向き直ってしまった沖田を不審に思いつつ、もう一つのベッドに腰掛けて髪の毛を拭く。


「なんだ、ツイッターでもやってんのか?」


タオルの下から沖田を見て聞くと、沖田は元の調子に戻って答えた。


「残念はずれー。ブログの更新ですよ」

「…あぁ、そうだったな」


沖田はいわゆるオフィシャルブログというものを、義務としてやらされている。

更新率が下がるとファンから色々文句を言われるので、更新しろと指摘するのは土方の役目だ。

まぁそれにしても、沖田が書く記事がどんなにくだらなくても、一回千人以上のファンからコメントが殺到するんだから強烈だ。


「土方さん、二人で撮った写真載せてもいいですか?」

「嫌だよ。お前一人のがあるだろ」

「むー。何で嫌なんですか?僕のマネージャーさんって紹介したいのにー」

「……そうか………ならまぁ、いい」


土方は、カチューシャをつけて、サングラスをして、ノリノリすぎる奴と思われるデメリットよりも、沖田に一番近い存在だとアピールするメリットを取った。

それから、ホテルの写真も載せたいという沖田のために、門外不出のバスローブ姿が写らないよう顔だけを上手く入れて、部屋での写真も撮ってやった。


「どうせあちこちのブログ記事で、肖像権を無視した写真が貼られてるんだろうな」

「でしょうね。あ、探してみようかな」


沖田がぴこぴこと携帯を弄る。


「あ、あった!なになに………『今日ねずみの海行ったら沖田総司に会っちゃった!テライケメン!』……土方さん、テライケメンってなんですか?」

「……すっげぇイケメンってことだ」

「へぇ……あっ、こっちも!『総司くんがダッフィー抱っこしてた!ギザカワユス!』……土方さん、ギザカワユスって………」

「すっげぇ可愛いってことだ」

「ほぇぇ……すっごくイケメンですっごく可愛いって矛盾してません?」

「……………」


いや、実際そうなんだよなぁと土方は密かに思う。


「あ、早速コメント来ましたよ!……羨ましいだって!」

「だろうな」

「マネージャーさんもイケメンですね、だって!!」

「何でお前が喜んでんだよ」

「だって、僕だけじゃなくてみんな思うってことは、やっぱり"テライケメン"なんですよ」


沖田に言われて、またうっとなる。

沖田の一言には、とにかく絶大な威力があるのだ。


「……もういいから、いい加減寝ろ。疲れてるだろ?明日起きられなくなるぞ」


結局閉園ギリギリまでいた所為か、すでに時刻は日付が変わる直前だ。


「えー。でも寝たら終わっちゃうから嫌です」

「ならまた来りゃあいいだろ」

「えっ」

「お前が望むなら何回でも連れてきてやっから、今日は寝ろ」

「なんか……土方さんが神様に見える…」

「勝手に天国に追いやるな」


嬉しそうに顔を綻ばせる沖田を無理やり布団に押し込んで、色気たっぷりのバスローブを隔絶する。


「あ、そうだ。明日帰りがけにお土産買わせてください」

「あぁ、別にいいが…」

「せっかくなんで、記念に土方さんとお揃いの何かが欲しいんですけど」

「……………あぁ、別にいいが」


にやける頬を抑えながら、土方は頷いた。

すると安心したのか、沖田が本格的に寝る体制に入る。


「はぁ……あっという間だったけど、今日楽しかったなぁ…」

「そりゃあよかったな」

「うん。ありがとうございました。また来ましょうね」

「おう」

「……土方さんのカチューシャ姿を見に…」

「ふざけんな」


理性の鍛え上げとなった数時間が、ようやく終わりを告げた。

やはり疲れていたのだろう。

布団を被った途端すぐに寝息を立て始めた沖田に、自然と笑みが漏れる。


(さぁ、俺も早く寝よう)


なんとか紳士を貫いた自分に拍手を送りながら、やがて土方も眠りについた。



翌朝――


寝相の悪さ故に見事にはだけきった沖田のバスローブを見て、土方の理性にひびが入ったのは、ここだけの話である。






2012.09.10


きゃーっ!最後の可愛すぎる絵は森巣さまが描いてくださったんですーーっ!!!

お願いして掲載許可いただいちゃいました!

ぎゃーあああああ死ぬほど可愛い!!
服装から何から何まで想像通りすぎて、頭の中読まれたんじゃないかと思うくらいです。

いつまででも眺めていられます!
作品の酷さをすべてカバーしていただきました(笑)

森巣さま本当にありがとうございます!嬉しすぎます!!

そしてベッドがあっても何もしない土方さんなんて土方さんじゃないと思います!

むしろベッドがなくたってしろ、と思います。

この二人、どこまでも焦れったいです。




*maetop|―




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