bookシリーズ | ナノ


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「だから!なんで無反応なんですかっっ!!」


ファストパスでジェットコースターに乗り終え、火山を抜けたところで再び沖田に怒鳴られた。

これまた静かに座っていた土方は、頭をかいて困惑する。


「ジェットコースターって、だいたいあんなもんじゃねぇのか?」

「信じらんないっ!!土方さん内臓ちゃんとあります?!重力感じてますか?!」

「だ、大丈夫だ」

「大丈夫じゃない!!!」

「それより俺は、お前のそのクマが邪魔そうで心配だったんだが…」


前も見えないほどのクマを抱きかかえたまま乗った沖田は、手すりに掴まることもできず、だからこんなに騒ぐほど怖かったのではないかと、土方は思っていた。


「そんなの関係ないですよ!それより土方さんでしょ!怪獣出てきても無反応だし、雷鳴ってもビクッともなんないし!!土方さん、ほんとに楽しんで………!!」


突然、沖田が黙りこくった。

何だ?と思い顔を覗き込むと、やけに深刻そうな表情をしている。


「………土方さん、僕とじゃ楽しくないですか…………?」

「は?」

「無理やり付き合わせちゃってごめんなさい……ちゃんと、早く帰りますから…」

「お前……………」


こんなところに来てまで、まだそんなことを言うのか。

我が儘なようで、いつだって人一倍気を使って生きている沖田に、思わず溜め息が出る。

沖田はそれを悪いようにとったらしく、益々萎れてしまった。


「………ちゃんと楽しんでるよ」

「………」

「お前と来られて、嬉しいと思ってるのは俺だけか?」

「!!………ち、違う!僕も!」


そのまま赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた沖田に、自然と頬が緩んだ。


「あっ!次はアレに乗りたいです!」

「何だ?……海底、二万マイル…?」


今度は絶叫系ではないらしく、海に潜るように続くスタンバイの列には、小さな子供の姿も見える。

そんなに待つこともなく潜水艇に乗り込めば、早速とばかりに沖田がレバーを握り、目の前の窓を覗き込んだ。


「……ねぇ、土方さん」

「あ?」

「このコントロールセンターの人の声、どっかで聞いたことあるような気がするんですけど」

「は?」


それまで気に留めていなかったものの、言われて耳を澄ませば、こちらコントロールセンターなんて言いながら、格好良く潜水艇を操作している奴の声が聞こえてくる。


「さぁ…?気のせいじゃないか?」

「そのうち武士に二言はねぇ、とか言い出したり…」

「しねぇよ」


沖田のお戯れは無視することにした。

乗り物から降りて、いってらっしゃいという挨拶と共にキャストに見送られ、再びパーク内をうろうろする。

途中、甘いものからスパイシーなものまで、よくそんなに食うなと思うほどに買い食いし、徐々に奥のテーマパークへと移動する。


「あっ!ミニーだ!」


どうやら念願のねずみの女の子と遭遇できたらしく、沖田がダァーッと走って行く。

一緒に写真を撮ってやろうとすると、あろうことか、またもや沖田がサングラスを外してしまった。


「あっ…こら!」


騒然となるその場を収めようと叱ってみるものの、時既に遅く。

無事に写真を撮り終えたと思った途端、近くにいた人たちに、今度はねずみではなく沖田が囲まれることとなった。


「きゃー!!総司くんがダッフィー抱っこしてるー!!可愛いー!」

「えっ!まさかマネージャーさんに買ってもらったのー?!」

「カチューシャ似合う!!やばい鼻血でる!」

「総司くん写真撮ってぇ!!」

「マネージャーさんも一緒に!ぜひ!」


ちょっと待て、何で俺がマネージャーだって分かるんだ!なんて思いつつ、押し寄せる人の波から、土方は必死に沖田を守る。

が、当の沖田はケロリとしたもので、買ったばかりのねずみ型のチュロスを食べながら、笑ったりピースをしたりと、しっかりファンサービス中だ。


「そうじくんロウガイビームだして!」


そのうちに親子連れや小さい子供までが騒ぎ出してしまい、業を煮やした土方は、泣く子も黙る怒鳴り声を上げた。


「今こいつはオフなんだ!!せっかくの休みぐらい放っておいてくれねぇか!?」


慣れているはずの沖田までビビるほどの大声で、何とかその場を収める。


「ほら総司、行くぞ」


土方は有無を言わさずに沖田の手を掴むと、目的地も分からぬまま、取り敢えず歩き出した。

それにまたどよっとざわめく女子たちもいたが、無視して強引に手を引っ張る。

同じアトラクションに並ぼうという魂胆なのか、一日中引っ付いて回るつもりなのか、後ろからついてくる集団もいるにはいたが、あの怒鳴り声が相当効いたのか、大抵の人は遠巻きに見守るだけになった。

それでも携帯やカメラを構えて、何とか沖田を写真に収めようとする人が後を絶たず、土方はうんざりして前髪をかきあげた。


「土方さん、ごめんなさい……」


巨大クマの向こうから目だけ出して此方を見ている沖田に、土方は一旦足を止める。


「何で謝るんだよ。言っただろ?外してもいいから、すぐに逃げようなって」


そう言って微笑みかけると、沖田は目を大きく見開いてから、赤くなった顔を隠すように、クマに顔をうずめてしまった。

それを見て、ずいぶん便利なものを買ってしまったと土方は苦笑する。


「お、アレ面白そうだな」


映画にもなっている古代遺跡を探検するアトラクションを指差せば、ようやく気を取り直したらしい沖田が、喜び勇んで駆けていった。





その後も幾つかアトラクションを楽しみ、並んでいる時に、前のカップルが手を繋いだり、いちゃついたりするのを見て、俺たちができないことをするんじゃねぇ!と苛ついたりしているうちに、あっという間に日が暮れた。

いい時間だし、お昼は結局買い食いで終わってしまったから、レストランで落ち着いて夕食を食べようということになる。

さすがに食事の時までサングラスをかけているわけにはいかないので、土方は仕方なく外すのを許可した。

クマを椅子に座らせて、ついでに一日中つけてあげていたカチューシャを土方が取ると、沖田がつまらなさそうに頬を膨らませる。


「まだ終わってないのに、もう取っちゃうんですか?」

「いい加減恥ずかしいんだよ」

「じゃあ、夕飯食べ終わったらまたつけてください」

「………………」


まぁ、夜なら目立たないか、などと土方が思案していると、沖田に「今更じゃないですか」と駄目押しされた。

渋々折れてから、夕食に手をつける。

美味しそうに口をモグモグさせている沖田を見つつ、土方は油断なく辺りを警戒した。

けっこうな人数が沖田に気付いていて、中にはカメラを構えている人もいたが、皆沖田に気を使っているのか、邪魔はしないでいてくれるようだ。


「はぁ………もうすぐ終わっちゃうなぁ…」


土方は、沖田の言葉に視線を戻した。


「まだ、何時間かあるじゃねぇか」

「えー……そんなのすぐだもん」


そう言って頬を膨らませる沖田に、土方は取っておきの秘策を繰り出すことにした。


「総司、実はな…」

「…何ですか?」


急に改まる土方に、沖田が不安げに瞳を揺らす。


「……ここのホテルを予約してあるんだ」

「…………………は?!」


土方は、前々からねずみの海へ行きたいと言っていた沖田のために、沖田と自分の休みを半ば脅すようにして確保したついでで、いつも頑張っている沖田にサプライズでもしてやろうかと、ホテルの予約を取り付けていた。

二人で泊まるのはキャンプで経験済みだし、バンガローとホテルではかなりの差があるかもしれないが、ちゃんとツインのルームを予約したし、取り立てて問題はないだろうとふんでのことだ。

それでもやっぱり嫌がるかもしれないと、土方が伺うように沖田を見れば、沖田は余程驚いたのか、食事も続けられずに固まってしまっていた。


「嫌か?……嫌なら別に、キャンセルするなり……」

「い、嫌なわけない!!」

「そ、そうか……?」


突然の大声に、今度は土方が固まる。


「ていうか、え?!嘘!嘘ですよね?なにこれ、え?ドッキリですか?」

「まぁ…サプライズのつもりではあるが」

「なっ……なに、急に、粋な計らい、土方さんのくせに、ほんと、信じらんない!」


もはや日本語になっていないが、沖田がとても喜んでいるらしいことは伝わってきた。


「いきなりで悪いが、まぁ、驚かせたかったんだよ」

「……ほんとに、ほんとなんですか?」

「ほんとに、ほんとだ」


土方が真剣な表情で言うと、ようやく事実だと判断したのか、沖田の顔がパアッと明るくなる。


「僕、ホテル泊まる!泊まりたいです!」

「は…………良かった」


取り敢えず断られなかったことに、土方は安堵した。


「困ったな……僕、こんなにしてもらっちゃって、相当頑張って仕事しなきゃいけなくなりそう」


可愛くないことを言う沖田の頭を軽く小突き、食事を再開する。


「でも、土方さん。僕が断ったらどうするつもりだったんですか?」


不思議そうに聞く沖田に、土方は思わず吹き出した。


「お前が断るわけねぇだろうが」

「えー!!も、もしもの話で!」

「んー、そしたら、一人で寂しく泊まるかな。もしくは…」

「もしくは?」

「……お前を引きずってでも連れてくな、無理やり」

「…む、無理やり……………」


打診するように言ってみれば、沖田は何故か顔を真っ赤にした後で、うろうろと視線をさまよわせて、こう言った。


「うーん…た、確かに、土方さんならやりそうだ」


何とも間抜けな返答に、土方はがっくりとうなだれる。


「でも、ありがとうございます」

「え?」

「僕、ここに連れてきてもらっただけでも嬉しかったのに、やっぱり土方さんがマネージャーでよかった」


そして、いとも簡単に心をかっさらっていく沖田が、愛しくて仕方ない。





何とか平常心を保ちながら夕食を食べ終わり、沖田が調べておいた水上ショーを見に行くことにした。


「うわぁきれいー!」


綺麗にライトアップされた、水を駆使する華麗なショーは、なかなか見応えがある。

岸の向こう側には異国情緒溢れる夜景も広がっていて、恋人たちにはたまらないであろう光景だ。

現に、もう少しでキスでもしそうなカップルたちがあちこちにいて、土方の居心地は悪くなるばかりだった。


「総司、もうホテルに行こうか」


ホテルに行ったら行ったでそれなりに気苦労も多いだろうが、ここよりはましかもしれない。


「じゃあ、このショーが終わったら」

「………………おう」


仕方なく土方は、ショーに夢中の沖田を放置して、先ほどのアトラクションで撮ってもらった写真を受け取りに行くことにし、何とかその場を離れることに成功したのだった。





もうちょい続きます。
いつか絶対やりたかった海底二万マイルネタができて大満足。




*maetoptsugi#




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