「おーい、大丈夫か〜?」
「うっす」
「今日中に終わらせりゃ明日から自由だからな!がんばろうぜ」


背中にデカい肉を乗せ運んでいる船員に声をかけ、おれ自身も両脇の紙袋を抱え直した。

その時、道の向こう側のクレープ屋の前に名前とマルコの姿が見えた。横並びに歩いていて時折2人で顔を合わせて笑い合っている。
それを見てさっきの食堂での様子を思い出す。




「名前」
「んー?」


朝飯の後、マルコが静かに名前を呼び、それに反応した名前が静かに顔を上げ不思議そうに首を傾げた。


「たまにはおれと出掛けねぇかい?」


それを聞いた時の名前の顔ときたら。
パッと途端に表情を明るくさせて、うんっ!と元気に笑って見せた。
もう、キュン死するレベルで可愛い笑顔だったぜ…。

ここでいつも出てくるあいつが出てこないことに不思議に思ったかもしれねぇが、エースは今はちょっとした任務で船を離れてる。

ちなみに今いるこの島に上陸したのは2日前、エースが帰ってくるまで出航の予定はないし、オヤジの縄張りの島だからみんな気楽に楽しんでいるようだ。だがそれにしても…

一旦思考をやめ、近い距離ではないところにいる2人に視線を戻す。


マルコと名前が2人で出掛けるなんてすげー久々に見る気がする。…だから名前もあんなに喜んでたんだな。

マルコの普段見せない笑顔を見てふっと笑いが溢れた。

エースは名前と気持ちが通じたことで、一緒にいる正当な理由ができたもんだから、常に名前にベッタリだ。もうなんだ、番犬かってくらい他の奴らに睨みを利かせてる。
犬なんて言えるほど可愛いもんじゃねぇが。

だけど、マルコだって名前のこと目いっぱい可愛がりたかったんだろうな。だからエースがいない今日を選んだんだ。

マルコが名前の頬に手を伸ばした。
どうやら口の端に付いたクリームを取ったようだ。が…!!
お前ら恋人同士かよ!てかそこらの恋人同士よりもいい雰囲気じゃねえか?
名前もニコニコ嬉しそうだし、マルコもやさしく名前を見守ってる。


「サッチ隊長〜!」
「んぉ?」
「何してんすかー、早く終わらせましょうよ〜」
「おお悪い悪い」


ま、おれも今日中にこれを終わらせれば明日からゆっくりできるからな、もうひと踏ん張りすっか。








「暑くねぇかい?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうか」


グレープを食べたり、他にもいろんな店を回った後、少しベンチで休憩することにし、2人並んで座った。
目の前の噴水で水遊びをする親子の姿が見えて、自然と2人ともその方向を見た。

子どもは見た感じ3.4歳くらいで、一緒にいる父親と水の掛け合いなんかをしていた。子どものすばしっこさに父親が振り回されており、その様子はとても微笑ましかった。


「ふふっ、楽しそう」
「そうだねい」


思えばおれと名前が出会ったのはすでに名前が8歳の頃、育った環境のこともあり、大人しくあんな風にはしゃぐ子どもではなかった。だからといってあの子どもの年齢の頃も村で孤独と戦っていたのだから父親と遊ぶなんて経験はないのかもしれない。
もしもっと早くに出会っていればあの子のように子どもらしく人に甘えることを覚えられたんじゃないか。なんて自分らしくもないもしもの考えをしてしまう。


「かわいいなぁ」


呟く名前の横顔を見る。あんなことを考えはしたが、今ここにいる名前がおれたち白ひげ海賊団の家族でおれの娘であるというその事実は変わらない。今の名前をおれたちは大切に思ってる。


あの親子に視線を戻せば子どもが泣いていた。どうやらアイスを2段にしたいらしい。どうせ食べれないからと言う父親に対し「パパ〜!」と泣き喚く子ども。その様子に少し羨ましいと思った。


「名前もあれくらい甘えてくれればなぁ」
「何言ってるの。今日のマルコ甘すぎるよ」
「ん?」


名前を見ればぷくっと頬を膨らませておれの横に置いてある紙袋を指差した。


「こんなに買ってくれて…」
「あぁ…これかい」


最近一緒にいる時間が減ったこともあり、久々に思い切り甘やかせてみたくなった。あまり自分から甘えてくれない娘を喜ばせるにはこの子が好きそうなものを買い与えるしか浮かばなかったのだ。
結果紙袋3つにまでなってしまい、名前は納得がいかないと言うような表情を見せる。


「わたしだって親孝行したいのに…、いつも買ってもらってばっかり…」
「なら大人しく甘えとけ、名前が喜んでくれるのが一番の親孝行だよい」
「むー…」


上手く言いくるめられた気がする…。小さく呟いた名前の頭に手を乗せポンポンと軽く叩いた。


「マルコ」
「うん?」
「物なんて買ってもらわなくてもこうしてくれるだけでわたしは嬉しいよ」


そう言うと名前の顔が見えなくたった。代わりに胸の辺りに衝撃が走る。一瞬どうなったのかわからなかった。
背中に細い腕が回って、柔らかい頬をスリスリとおれの胸にくっつける。


「マルコの匂いがするー…」


下を見れば、おれの胸から顔を上げてニッコリ笑う名前がいて、なんて幸せそうなんだと思った。

おれも自然と笑みが溢れて、名前の頭に手を伸ばし梳かすように撫ぜた。


「名前の言う通りだねい」
「何が?」
「こうしてるだけでおれも嬉しいよい」
「でしょー?」
「でも欲しいものはすぐに言えよい」
「もう、なんでそうなるの」


おれに甘えながらもポンッとおれの胸を叩いて反発する名前の頭をまた優しく撫でた。








「おいお前ら…」


仁王立するおれの前にはベンチで寝こける父娘の姿。娘はお父さんに抱きついて、お父さんは娘の頭に手を置いて。街中で何やってんだ!

もう日が沈む手前で暗くなってきてるってのに、おれが通りがからなかったら夜までこのままだったんじゃねぇのかこいつら。

でもだからって名前の可愛い寝顔を壊すことはおれには出来ない。だから代わりにマルコの後頭部を思いっきり叩いた。


「んっ!?」
「おい、こんなとこで寝てたら、お前はともかく名前が風邪引くだろ」
「ん…、あぁ、よい」


くぁっと欠伸をしたマルコは、眠り続ける名前を見るなりとんでもなく優しい目付きでその髪を梳いた。


「帰るかよい」


マルコは名前を抱きかかえて立ち上がり、右腕には3つもの紙袋を下げた。
名前は目を覚ます様子はなく、相変わらずのことに笑みが溢れた。


「エースは?」
「さぁ?まだだろ?」
「そうかい」


その時、マルコが微かに嬉しそうに笑ったのをおれは見逃さなかった。
娘を独占できるのが嬉しいのな、おとーさん。

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