わたしの肩に顔を押し付けているエースの頭をゆっくり撫でる。時折ズッと鼻をすすっている声が聞こえて、静かだけど彼が涙を流しているんだとわかった。

部屋で海図の練習をしていた時、部屋の扉がノックされて扉を開けた。だけど、来たのがエースだということはわかったけれど、表情を見る間もなくエースに抱きしめられた。
パタンと扉が閉まる音はしたけれど、エースは何も発さずわたしの肩に顔を押し付けている。全く状況が理解できない。

こういう風に抱きしめられることは今まで何度もあったけれど、いつもエースがわたしを包み込むように肩から腕を回してくれていた。だけど、今のエースはわたしの腕の下から背中に腕を回していて、わたしに縋るようにしていてまるで子どもみたい。


「ズッ……」


こんなにも弱いエースを見るのは初めてかもしれない。エースも泣くことはあるんだろうけど、わたしに見せたのは初めてな気がする。

しばらく頭を撫で続けているとギュとシャツを掴まれた。少ししてエースがゆっくりと顔を上げた。また鼻を啜った。
目が合うとエースの目からは涙が溢れていて、わたしは手を伸ばし、いつもエースがしてくれるみたいに指でその涙を拭った。
わたしが微笑みかけるとエースはその行為に驚いたように笑った。


「ズッ……名前」
「ん?」


未だに目元は乾いていないけれど、エースはわたしの顎に手を添えそっと上げた。わたしが目を閉じると、唇にエースのそれが触れる。何度も角度を変えゆっくり味わうようにわたしの唇を吸ったエースはわたしが口を開いた隙に舌を滑らせてきた。


「んっ……」


長いその口づけに思わず甘い声が漏れる。エースの背中に手を回してギュッと力を込めた。するとそっと唇が離れる。


「悪い……」
「ううん」


よわよわしく謝るエースに笑顔を返せば、またエースはわたしの肩に頭を乗せた。今度は泣いてはいないみたい。だけど、こういうのもたまにはいいなとわたしもまたエースの頭を撫でた。

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