自分ではない気配を感じて意識が浮上する。
目を開くと目の前にすやすやと眠るエースくんがいて思わず飛び起きた。
瞬間ひやりと肩が震え自分が服を着ていないことに気付き、慌てて布団を引っ張って首までを隠す。
机にある時計を確認すると10時を回っている。
いつのまにか朝を迎えてしまったようだ。
そっか…、わたし昨日…。
さっき肌寒さは感じたものの、隣で眠るエースくんを見ていればを昨日の情事を思い出し顔に熱が集まる。
記憶は鮮明に残っている、今の状況だって十分証拠なのに、未だ信じられない。
まさか自分がエースくんとそういうことになるなんて夢にも思っていなかった。
すやすやと呑気に寝息を立てる彼を見つめていると昨日の彼は別人ではないのかとすら考えてしまう。
男の人って、ああいう時変わるんだ…。
今は起きる気配のないエースくんだけど、彼が起きた時、わたしはどういう風に接するのが自然なんだろう。
エースくんの今までのお相手は島で出会う女性ばかりで、一時的な関係だったはずだ。
だけどわたしは、この先も一緒に旅を続けなければいけない…。
わたし、これまでの関係のままいられるのかな…。
この先のことを考えると頭を抱えたくなってくる。
明らかに軽率だった…。
布団に顔を埋めて横目にエースくんへ視線をやる。
すやすやと気持ちよさそうに眠るエースくんからいつもの威圧感は感じない。
寝顔、すごく綺麗だなぁ……
そっとその頬に手を伸ばす。
そばかすの散らばる頬に指を滑らせれば、心地よさそうにエースくんが手にすり寄ってきた。
キュンと胸の辺りが締め付けられる感覚がして自然と口角が上がる。
正直今後のことは不安しかないけれど、こんな無防備な姿のエースくんを見られたことはラッキーだったかもしれない。
バタンッ!!
エースくんを見つめていると、突然の大きな音が響いて、咄嗟に顔がそちらへと向く。
「名前ー!!聞いてー!昨日船長に潰されて何もできなかったのー!!」
部屋の扉が開かれて、そこにはユマちゃんが立っていた。
思わずギョッと目を見開いて、瞬間布団をさらに引っ張り上げた。
「ユ、ユマちゃん…!?」
彼女の姿を捉え、瞬間頭の中でマズイと警鐘が鳴る。
途端に頭の中が冷静になった。
この状況を一番見られてはいけない人が来てしまった。
ユマちゃんは未だベッド上で布団で身を隠すわたしを見て不思議そうに首を傾げる。
「名前?誰かいるの…?」
ユマちゃんがそう言うや、タイミングを見計らったように隣で眠っていた彼が動き出す。
「ふあぁ…、名前…」
その逞しい腕が伸びてわたしの腰に回り引き寄せる。
もちろんユマちゃんはその様子を見ていて、わたしからは血の気が引いていく。
「あ…、こ…これは…」
言い訳なんてできない。
こんなの決定的すぎる。
未だ扉の前にいる彼女は、わたしと横にいる人物を把握するとその場で立ち竦んだ。
瞬間ユマちゃんの目からスッと光がなくなり、少し顔を下げた。
「ユマ…ちゃ…」
ギッと今まで向けられたことのない鋭い視線
わたしの言葉は止まってしまった。
わたしに対する嫌悪を隠そうとしていない。
ユマちゃんはわなわなと震える唇を動かした。
「あんたら…、そういう関係だったの…?」
「ちがっ…」
わたしの言葉は彼女の視線の圧で止まった。
だけど、そのせいだけじゃない。
ユマちゃんの言う“そういう関係”にわたしとエースくんはなってしまっていると気付いたから。
「は!?じゃあこの状況はなに!?」
「それは…」
わたしですらどうしてこんな状況になったのか理解できていないのに、それを他人に説明なんて簡単にできなかった。
言葉を止めるわたしにユマちゃんは勢いのまま捲し立てる。
「わたしの気持ちもてあそんで!!二人で笑ってたんでしょ!!」
「それは違うよっ…!!」
「じゃあ何!?意味わかんない!!」
ユマちゃんの目が潤んできて、端に涙が溜まる。
彼女は下唇を噛んでそれを耐えるようにわたしを睨み続ける。
わたしもユマちゃんから目を離せずに、ただただ沈黙が続いた。
「んん…。っだよ……」
そんな中、隣で眠っていたエースくんが目を覚ました。
ゆっくりと起き上がり欠伸をして、伸ばした手でそのままわたしの肩を引き寄せると、抱きしめるように頭をわたしの肩に乗せた。
「エースくん…っ」
「んぁー…」
だらりとわたしに凭れかかる。
そんなエースくんを見てユマちゃんは信じられないものを見た様に、さらに目を見開いた。
「最低…」
「ユマちゃんッ!」
そのまま飛び出す形で去って行った。
わたしは彼女を引き止めることもできず、ただ伸ばした手が布団の上に落ち、ポスンとなんとも情けない音が鳴った。
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