「エースくん、わたし行かなきゃ…」
「行ってどうするつもりだよ」
未だわたしの肩に凭れかかるエースくんに声をかければ、思っていたよりもはっきりとした口調で返事が返って来たことに驚く。
わたしが押し黙っていると、エースくんがゆっくりと身体を上げた。
黒い瞳がこちらを向く。
視線を彷徨わせながらも最後は惹かれるようにエースくんと視線を合わせた。
「そもそもおれとユマにはなんもねぇし、あいつに責められる筋合いはねぇ」
「エースくんはそうかもしれないけど…」
わたしはユマちゃんから聞かされていたのだ。エースくんが好きだと。
それに協力までしていたのに。ユマちゃんからすればとんでもない裏切りだろう。
エースくんのために故郷の島を出て、ここまで一緒に来たのだから。
わたしが俯いて考えていると、エースくんが痺れを切らしたかのようにわたしの両肩を押し、覆いかぶさった。
ボフンッと頭が枕に沈む。
エースくんは両手をわたしの顔の横について、力強くわたしを見つめている。
「ッ…」
一瞬言葉が詰まる。
「わたしとエースくんはそういう関係じゃないから…、そこは否定しないと」
わたしの言ったセリフに一瞬エースくんの眉が寄る。
「そういう関係ってなんだよ…」
「エースくん…?」
眉を寄せて少し考えるような仕草。
その後すぐにまた強く見つめられ、両肩を強く押さえつけられる。
「ちょっ、エースくん…!?」
エースくんの顔が肩口に沈む。
ガリッ
「いっ…!!」
突然痛みが走り、エースくんの両肩を押し返すけどびくともしない。
そして、エースくんはゆっくり身体を上げると、舌なめずりをした。
わたしを見下ろすエースくんの目は冷たい。昨日の優しい表情とは違う、別人みたい。
さっきエースくんが噛みついた箇所を手で抑える。
触ってわかるくらいに噛み痕が付いていた。
動けずに呆然としていると、エースくんはわたしから離れ、昨日脱ぎ捨てていたズボンを履くとそのまま部屋を出て行った。
「それ付けて、なんとでも言って来いよ」
「ッ…!!」
扉が閉まる前に投げられた言葉、それを理解したわたしは固まるしかなかった。
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