「「「カンパ――イ!!」」」


襲撃に勝利し敵船から大量の宝と食料を奪うことが出来たため、今夜は盛大な宴が行われることとなった。普段から陽気な奴らがさらに羽目を外して盛り上がる。

ユマが作った料理が並び、敵から奪った酒はほぼ甲板に出揃った。

もちろん船長であるエースは宴に参加し、すでに肉を口いっぱいに頬張っていた。

全く。と呆れ笑いが出る。

そして名前、彼女もあれから少しして落ち着いたようで宴に参加していた。傍らにユマがいる。
女同士で宴を楽しんでいるようだ。

さっきの襲撃のことを思い出すと、とにかく無事でよかったと思わざるを得ない。


・・・


数時間前



一通り甲板に侵入してきた敵の海賊達を倒して、一息ついた時
船室への扉が開いているのに気が付いた。

すぐに浮かんだのは名前のこと。

気になって操舵室の方を見れば窓が割れていた。なのに、名前の姿は見えない。
おれが隠れてろと言ったが、戦闘が終わったのに顔も出さないなんておかしい。

嫌な予感が脳裏を過る。

すぐに船内へ向けて走り出せば何かを察したのかエースもついて来た。
エースに続くようにユマも。



「どうしたデュース!」
「急げ!誰か侵入してる!!名前が操舵室にいるんだよ!!」
「あ!?」


おれの話で状況を理解したらしいエースはすぐに操舵室へ向けておれを追い越して行った。

操舵室はそう遠くない。

走っていればすぐに扉が開いているのが見えて、床にへたり込む名前の後ろ姿と、その前に立ちはだかる男の姿が見えた。
男は完全に名前を捉えていた。


間に合うか…!!


「火銃!!」


エースの指先から火の弾が飛び出す。
それは男の振り上がった腕に直撃し、男は腕を抑えて悶えた。


「うあぁぁっ!!」


名前に駆け寄れば小さな体が震えていた。


「名前!大丈夫!?」
「はっ…、はぁぁっ…はぁっ」


おれ達の姿を見てか、目がどんどん濡れてくる。
肩が激しく上下して、口がパクパクと開いているのに上手く息が出来ていない。

過換気だ、このままだと危ない。


「大丈夫だ名前。ゆっくり、口を閉じて息を吸ってみろ」
「はっ、ンッ…んんっ…」
「そうだそうだ」


なんとか落ち着けようと背中をさすり、深呼吸を促す。

その間にもエースは相手の男を伸してしまったらしい。
焦げ臭い匂いと共にテーブルの横に丸焦げになった男の無残な姿があった。


しばらくして名前の呼吸も落ち着いてきた。


「はぁぁっ…、あぁッ…、ありがとうっ…ございましたッ…」
「良いから、無理して喋るな」


戦闘の出来ない彼女にとってあんな男が部屋に侵入してきて、自分を狙ってるなんて恐怖以外の何物でもなかっただろう。

呼吸は落ち着いてきたが、手や肩は未だに震えている。


「名前…落ち着いた…?」
「…う、うん…ありがとう…」


ユマが名前を抱きしめるように背中を擦った。


エースが男の傍に落ちていた何かを拾う。
それはとても見覚えがある。さっき名前が読んでいた本だ。

いや、まさか、あれで対抗したのか…

なんて度胸だ。


エースもおれも、ユマに抱きしめられる名前を見つめる。

そしてまた手元の本を見た。


エースが何を考えているのか分からない。
だけど、戦闘を禁止された彼女が自分の武器である知識と本で戦い、見事生き延びた。

エースの中で、彼女に対する考えが何か変わったんじゃないだろうか。



・・・

そして今。

料理を頬張りながらも名前の様子を気にしているエース
若干不貞腐れているように感じるのは気のせいか…?

視線の先の名前は…。っと、なぜか名前と視線が合った。
その横からユマが何か吹き込み名前が慌てたように顔と手を振った。

なんの話をしているのかはわからないが……。

ふと、エースから鋭い視線を飛ばされていたが気づかないふりをした。
頼むから、おれを巻き込まないでくれ…。

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