「敵襲ーーー!!6時の方向に海賊船!!」


大きな揺れに座っていたにも関わらず椅子から落ちそうになる。すぐにデュースさんが支えてくれてなんとか姿勢を戻すことが出来た。


すぐにデュースさんと甲板を覗き込むとさっきまで楽しそうに行われていた戦闘訓練から一変、みんなが戦闘態勢に入っているのがわかった。
デュースさんも慌てて扉へ向かう。
部屋から出る間際、こちらを振り向いた。


「名前はここにいろ!!なるべく身を屈めて、隠れてろ!!」
「ッはい…!!」


そう言ってすぐに部屋を飛び出して行った。

窓から覗いてみれば甲板には数名の見慣れない人たちが武器を持って侵入してきていた。
すぐにみんなによって倒されていくけど、敵の人数も少なくはないのか倒しても倒しても数が減らない。
すぐに甲板の上は乱戦状態となっていった。


エースくんも、ユマちゃんも、もちろんさっきまでここにいたデュースさんも戦ってる。

ユマちゃんとエースくんとの連携はわたしが見ていても素晴らしいもので、次々に敵を倒していく。


こういう時…わたしは何もできない…。

改めて感じる無力感。

やっぱり、エースくんの隣にはユマちゃんが相応しい。

窓から離れてしゃがみ込む。

わたしも戦うことが出来たら…。

そう考えて頭を振る。
ううん。きっと、戦えるようになったからと言って何も変わらない。
わたし程度じゃ戦場じゃすぐに殺されて終わりだ。
みんなの足を引っ張るなんてことにはなりたくない…。

さっきまで読んでいた本を抱え込む。


「はぁーー…」


バタンッ!!!



「確かこの部屋から女が覗いてるのが見えたんだが…」


ひっと息を呑む。
聞き慣れない声。
それに外の声が聞こえてくるため、戦闘が終わったなんてことはなさそうだ。

間違いなく、敵…!!


幸い、テーブルのおかげで見つかってはいないようだ。
だけど、移動されれば簡単に見つかってしまうだろう。

最悪だ。隠れてろと言われたのに。
あんなにぼんやり窓から見ていたなんて、完全にわたしの失態。
このまま捕まって人質にでもされたらみんなに迷惑がかかる。

敵は少しの気配も逃さないというように静かに警戒しながら部屋の中へ侵入してくる。
足元しか見えないが、その移動に合わせてわたしは息を殺しながら移動する。
ここで見つかったらお終いだ。こんな体勢では少しの抵抗もできない。

外の戦闘は続いている。助けが来る望みは限りなく少ない。


敵は一人。


なんとか…、自分でなんとかしないと…。

グッと両手に力を込める。その時握り締めていた本に気が付いた。
その厚さは5センチほど。表紙は厚く固い。


その時、自分の中で決心が固まった。


足元しか見えない敵を睨みつける。


「いるのはわかってんだぞ」


絶対、捕まってなんかやるもんか。



敵は周囲を警戒しながらも部屋の奥へと進んでくる。

わたしは足音を立てないよう履いていたサンダルを脱いだ。
テーブルの下を移動して敵の背後へと移動する。
そこで確認できた敵の武器はサーベル一本。

近づくリスクは高いけれど、気付かれたらあっという間にやられてしまうのだからやるしかない。

そっと、テーブルの陰から出る。

音を立てないように…

そっと、そっと、一歩を踏み出し、近づく。

敵は部屋の全てを確認し終えたのか、構えていたサーベルを下ろした。


「見間違いか…?女なら人質にでもできると思ったのによ」


あと一歩近づけば…。
わたしは本を頭の上に構える。

あと一歩……。

その時、パリンッ。と窓ガラスが割れる音が響く。
おそらく外から飛んできた弾が流れてガラスに当たったのだろう。

その音に敵はすぐに反応し振り返る。
もちろんわたしの存在にも気づいた。


「てめッ!やっぱり居やがったな…!!」
「きゃっ!」


サーベルを構えわたしに近づこうとする。

が、さっき割れた窓から暴風が部屋の中に入ってきて、机の上にあった資料が舞う。
敵はそれに足をとられて、滑ってしまう。

その風は熱くて、すぐにエースくんの火で起こったものだとわかる。
窓を見れば炎柱が立っていた。

敵が倒れてくるのを見逃さずにわたしはその脳天目がけて本を振り下ろした。


ゴンッ!!

「イヅッ!!」


鈍い音と共に男が倒れ込む。

舞った資料がハラハラと下に落ちていくなか、わたしは尻もちをついて倒れ込んだ。


「はぁっ!…はぁ…はぁ…」


今まで息をすることを忘れていたかのように肩で息をする。


「や…、やった…」


目の前で動かなくなった敵を見てひとまず安心する反面すぐに動かなければと頭が言う。

これは一時的な失神だ。いつ目を覚ましてもおかしくない。
安心はできない。すぐにこの場から離れなくてはいけない。…わかっているのに

身体が震えて動けない。


床とくっついたみたいに腰が上がらない。どうあがいてもずりずりと少しずつ滑ることしかできない。


ピクッ。


男の指が動いた。

あぁ。ダメだ。もう目を覚ます。

折角自分の力でなんとかしたのに…。


男の腕が動いて、ゆったりとした動作で身体を持ち上げていく。


「あぁ〜。今のは効いたぜ…」


男が鋭い目つきでわたしを睨みつける。


「ねぇちゃん…なかなかやるじゃねぇか…」


ついに立ち上がり、わたしの前に立ちふさがる。
その目は完全にわたしを捉えていた。


逃げようにも身体も足も動かない。

もうダメ。殺される…。


「火銃!!」

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