「名前!これ、貰って来たよ!」
「わ、ありがとう」


甲板の端にいるわたしにユマちゃんが小さなグラスを持って来てくれた。
中身は度数の高くないわたしでも飲みやすいお酒だった。フルーツのトッピングまでしてくれている。


ユマちゃんは隣に座ると手に持っていたジョッキに口を付けた。
プハッと美味しそうに口を拭うとこちらを見て微笑む。

それを見てわたしももらったグラスに口を付けた。

うん、甘くておいしい。


昼間の襲撃は無事にわたし達の勝利に終わった。
今日はその勝利の宴だ。

敵船からたくさんの財宝と食料を奪えたのだとみんなが楽しそうに話していた。


その楽しい雰囲気のなかでも思い出すのはあの時のこと。

あの時…、エースくんたちが来てくれなかったらと思うとぞっとする。
きっと今頃わたしはここにはいなかっただろう。


「今日は助けに来てくれて本当にありがとう」


ユマちゃんもあの時駆けつけてくれた。改めてお礼を口にすれば彼女は一瞬ポカンとした表情を浮かべた後「当然でしょッ!」とわたしの肩を叩いた。



「仲間なんだから!」


彼女の言葉にわたしも微笑み返す。

あの後、呼吸が乱れたわたしをデュースさんとユマちゃんが落ち着けてくれた。
怪我はなかったけれど、部屋で休めとデュースさんに促されてからもユマちゃんはずっと傍についてくれていたのだ。
本当に友達思いな子だ。

ユマちゃんは飲み物を飲みながら時々エースくんの方を見ている。


「今日の襲撃の時ね、船長ととてもいいコンビネーションだったってみんなに言われたの!」
「よかったね」


それはわたしも見ていた。それに見惚れていたために敵に見つかったようなものだ。

エースくんを見るユマちゃんの横顔は仄かに赤い。

あぁ、本当に好きなんだなぁ…。

こんな素敵な子に好かれて、エースくんだって悪い気はしないはず。
これから二人は互いに惹かれ合っていくんだろう…。


と、ユマちゃんがわたしとの距離を詰めて耳元で囁いた。


「ね、名前はさ、副船長とかどうなの?」
「え?」


突然の話題に理解が追いつかなくてポカンとした表情を浮かべてしまう。
彼女を見つめると、少し面白いものを見つけた。というような表情を浮かべている。


「デュースさん?」
「うんうん!いいと思わない?」


いいと思うも何も、今まで仲間としか考えたことないし…。

わたしが返事に困っているとユマちゃんは続ける。


「だっていつも名前のこと気にかけてるでしょ?今日だって副船長が一番に名前のこと気が付いてたんだよ?」
「それは…、襲撃まで一緒にいたから…」
「ほら!二人ってよく一緒にいるよね!」
「そ、そうかな…」


わたしもデュースさんも操舵室を居場所にしているところがあるからだと思うけど…。


どこかにいるであろうデュースさんを目で探す。

後でお礼をしなければとは思っていたけれど、話題に出されて途端に思い出す。

デュースさんの姿を見つけた、今は輪の中で楽しんでいるようだ。積極的に話しているというよりはその場の話を聞いているという感じだけど。と、その時デュースさんがこちらを見た。

必然的に視線が合う。驚いて少し目を見開く。

デュースさんも驚いているようだったけど、どちらも視線を逸らすということはしない。


「ほらほら〜副船長も名前のこと見てるじゃん〜!二人とも大人っぽいしお似合いだと思うよ?」
「ちょっ、ちょっとそういうのじゃないからやめてよ〜」


からかうようユマちゃんの言葉に慌てて顔と手を振る。
こういうことでからかわれるのは苦手だ。
そんな気はないのに顔は熱くなるし、正直どう反応するのが正解なのか分からない。

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