「えっと…次は…」


グツグツと煮えるお鍋の中をかき混ぜ、片手でレシピを確認する。

塩で味を調える…

塩は適量…ってどれくらいだろう?

料理本を前に首を傾げる。

とりあえずつまんで少量入れてみる。味を確認してみるけど何が変わったのかわからなかった。

もっと入れた方がいいのかも…。


「美味そうな匂いがしてるな」
「デュースさん」


カウンターから顔を覗かせたのはデュースさんで少し目の下に隈が見えた。
夜更かしでもしたのかな。わたしの視線に気づいたのかデュースさんが照れたように笑った。


「買い込んだ本を読んでたら気づいたら朝だったんだ」


本好きあるあるには思わず共感してしまう。彼はそのまま朝に眠りについて今起きてきたらしい。今はもう日が傾き始めている夕方といったくらいだ。


「名前が料理なんて珍しいな」
「エースくんに頼まれたんです、この船にはコックがいないからって」
「あぁ、そういうことか」


デュースさんは納得したように頷く。わたしは小皿にスープを少量取ってデュースさんに渡した。


「少し味見てくれませんか?味の調整がわからなくて」
「あぁ、いいぞ」


そう言ってスープを口に含む。

そして、盛大にむせた。


「ゴホッゴホッ!!…名前これ塩入れ過ぎだ…」
「あれ?ちょっとだと味が変わらなくて…」
「お前そういや味覚音痴だったな…」
「それエースくんにも言われました…」


味覚音痴、前にも言われた言葉に落ち込むと、しょうがないとデュースさんは厨房の方へ入って来て、わたしから料理本とお玉を奪った。そこから水を足して味を調整してくれた。


「うん、これなら美味い」


ほら。と渡された小皿を受け取って口に入れるとふんわり海鮮で取った出汁が口に広がってさっきまでと桁違いに美味しくなっていた。


「美味しい…!!」


思わず顔が綻ぶ。そんなわたしを見てデュースさんも笑ってくれた。


「きっとあいつも喜ぶぞ」
「だと嬉しいです」


デュースさんは今日の夕飯は名前のスープだな。と微笑んで言ってくれた。
そしてキョロキョロと食堂を見回してまた目が合う。


「そういやエースは?」
「んー。昨日も帰ってないみたいでしたけど…すみませんわたしも知らないです」
「…そっか」


デュースさんが気まずそうに視線を下げる。

一昨日船の修理が終わって船に戻って来た。
島に遊びに出ていた人たちの中にも戻っている人はいたけれど、まだ戻ってない人もいる。きっとエースくんも船の修理が終わっていることは誰かから聞いているはずだから、そのまま島のどこかでいるんだろう。

この島のログはもう溜まっている。物資の準備などを終えればいつでも出航は出来る状態だ。みんなあと少しだからとこの島を楽しんでいるようだった。


「名前はもう島には行かなくていいのか?行くなら付き合うぜ?」
「いいんですか?」
「もちろんだ」


デュースさんがそう言ってくれるも、エースくんのことを思い出して思いとどまる。
エースくんは自分の仲の良い人とわたしが仲良くするのを好まない。
きっとまた嫌な思いをさせてしまう。


「あ、い、いえ、やっぱり大丈夫です!」
「どうした急に」


デュースさんが不思議そうにわたしを見る。
口を動かそうとしても上手い言い訳が浮かばなくてただパクパクとさせてしまうだけだった。


「名前さん、エースさんに遠慮することはないですよ」

「先生!珍しいな」
「美味しそうな匂いに釣られて出てきてしまいました」


カウンター席に座ったのは食堂に出てくること自体が珍しいミハールさん
わたしもあの特訓の一件以来話すのは久しぶりだった。


「つーかどういうことだ?」


デュースさんがミハールさんに問いかけるも、ミハールさんはわたしを見つめたまま。
その瞳には何もかもを見透かされているような気がしていたたまれなかった。


「名前さんから聞いたほうがいいかと」
「う…あぁ…。はい…」


二人の視線を受けて口を開くしかなくなってしまった。


「昔から…エースくんは自分の仲が良い人とわたしが仲良くするのをよく思わないというか…。わたしがサボくんとワニ獲りをしていた時も冷たくされて、ルフィとじゃれてた時なんかは怒って森の木を倒してたり…。この間のデュースさんと出かけた後もすごく怒ってて…」


「いや、なんというか…」
「重症ですね…」


二人の顔が引き攣る。
あのミハールさんまでこんな表情を浮かべていることに驚く。

ゴホンとデュースさんが咳払いをした。


「つまり、エースが怒るからおれと出かけるのは気が引けるってわけだな?」
「あ、はい…そういうことです…。わたしはやっぱりエースくんに好かれてないので…」
「…マーク付けて何言ってんだ」
「え?」
「いや、大丈夫だ、お前は嫌われてないから」


慰めてくれているのだろうか、デュースさんは優しくわたしの頭を撫でてくれた。


「どうせお前が行きたいところってあの本屋だろ?」
「え、はい」


なんでわかるんですか?と聞く前にデュースさんにわかるよ。と言われた。
この間あれだけ本を買い込んだのに、もう半分近く読んでしまった。
また長い間海の上になるだろうし、こんなに素敵な本屋さんもなかなか出会えないから最後に行っておきたかった。


「よし、じゃあその本屋行って、飯作ったってエースを呼びに行こう」
「え、えぇ!?」
「そうですね、きっとエースさんも喜ぶでしょう」


ポンポンと話が進められ、わたしとデュースさんは島へ出かけることになった。

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