目が覚めた。
窓を見ればまだ外は薄暗く朝日が昇りきっていないことがわかる。
布団から出れば少し肌寒く椅子に掛けてあった上着を羽織った。
テーブルには昨日デュースさんと買った本が入った紙袋が置いてある。
まだ中は出していない。昨日は疲れてすぐに眠ってしまった。
まだ誰も起きていないだろう。宿の朝食にしても早すぎる。かと言って眠気もどこかへ行ってしまった。
紙袋から本を出していく。
航海術の本だけでなく興味があった世界の風景の写真集も買ってしまった。
後は一応料理の本、前にエースくんに言われたことを思い出して苦笑する。
スペード海賊団にはコックがいない、手伝える時には手伝うと言ったのだから一冊くらい料理本を持っておこうと思ったのだ。
パラパラと中を開いてみる。
美味しそうな写真と共に材料から作り方までレシピが載っている。どんなのを作れば喜んでくれるかなとベッドの端に座りページを捲っていった。
コンコン
扉がノックされてそちらを見る。
こんな朝早くに誰だろう?
はい。と返事をしてみるも向こうからは返って来ない。
本をベッドに置いて扉を開けた。
「エースくん…」
「よぉ」
「お、はよう」
少し疲れたような眠そうな表情のエースくんが立っていた。彼はわたしの姿を確認すると、そのまま部屋に入ってきて鍵を閉めた。
束の間わたしの身体は彼に捉えられる。
「わっ…お酒くさい…」
ギューッと苦しいくらいに抱きしめられる。
お酒の匂いが鼻を突いて眉が寄った。
昨日、お店に入っていくのを見たしずっと飲んでたのかな。
この状況を掴みかねていると、わたしの肩に顔を埋めていたエースくんが身体を離したかと思うと、そのまま唇に噛みつかれた。
近づいてきた顔に驚いてわたしが目を閉じると、最初噛みついただけだったが、どんどん深くなっていき、舌同士が絡みつく。若干お酒の匂いが強くなった気がして苦味みたいなものも感じた。
エースくんはまるで食べるようにして角度を変え何度も唇を合わせる。
背中に回った腕のせいで身体を離すことは叶わなかった。
「ぅん…っ」
エースくんの舌がわたしの口内を舐め回す。
お酒のせいもあってかわたしも頭がふわふわしてきた。唇が離れた一瞬に目を開けると細目でわたしを見下ろすエースくんと目が合ってドキンと胸が締め付けられた。
「ふぅ……ン…!!」
抱きしめたままわたしに体重をかけてくるエースくんを支えようとするけれど、体格の違う彼をを支えきれるはずもなく、徐々に後ずさって行き最後にはベッドに倒れ込んだ。
ボフン!とベッドが揺れる。
エースくんはわたしの顔の横に手をついて上体を起こす。
さっきと変わらず目を細めたままわたしを見下ろしていた。
「…昨日デュースといたろ」
「えっ、うん」
「何してたんだよ」
「な、何って…、ランチして本屋さんに行っただけ」
威圧感があるのは気のせいではないはず。
そう昔からよく感じていたものだ。
エースくんは仲の良い人とわたしが仲良くするのを好まない。
「ご、ごめっ…」
「なんで謝るんだよ、なんかやましいことでもあんのか」
咄嗟に謝ってしまえばエースくんは訝し気に片眉を上げた。
「ちがっ…」
「くそっ…」
わたしの言葉はエースくんの唇に飲み込まれた。
話そうと口を開けば舌を捕えられ吸われる。
頭を両手で抑えられて逃げられないようにしてキスが続いた。
もうどちらの唾液かわからないくらいに濡れた頃、
ようやく解放されたが、もうわたしは何かを話そうはしなかった。
エースくんの唇が首元に降りていきキツく吸われた。ピリッとした痛みが走ったと思えばそこを軽く舐められる。彼は小さく笑って舌なめずりをしてわたしから離れた。
上がった息を整えながらわたしが上体を起こせば、彼はベッドに置いてあった本に気が付いて手に取った。
「なんだこれ、買ったのか?」
「あ、うん…」
ふーん。とエースくんは隣に座ってページを捲った。
その時グゥと彼のお腹の虫が鳴いた。
「腹減ったな…」
「何か食べてきたら?」
「……作ってくんねぇの?」
「今は作る場所がないから…」
そう言えば確かに。と彼は納得した様子。
ちょっと不服そうだけど、素直だな。なんてちょっと微笑む。
「なら、今度作ってくれよ」
「うん、もちろん」
「楽しみにしてる」
エースくんは立ち上がり、本をわたしに手渡すとそのまま流れるように唇を押し付けてきた。そのまま耳をカプッと軽く噛まれて「んっ」とわたしから甘い声が出る。
そして離されたと思えば、彼は軽く伸びをした。
ふあぁっと大きな欠伸をして「一度寝てくる」と部屋を出て行った。
パタンと扉が閉まり、一人の空間に戻る。
手に収まった料理本を見つめる。
あぁ言われてしまえば料理も手を抜く訳にはいかない。
「頑張らなきゃ」
ギュッと本を抱きしめた。
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