赤髪海賊団と別れてすぐ、さまざまな天候に変わっていく新世界の海に翻弄されながらも次の島に到着した。しかし、この間の時化のせいで船の一部が破損したため、一度船の修理とメンテナンスに出すことにした。
今後もおれ達の航海を支えてもらわなきゃならねぇ大事な船だ。しっかり直してもらわねぇと。

そのため船を一度造船所へと渡し、修理が終わるまでおれ達は島の宿で数日を過ごすことになった。
と言っても停泊中なんかは基本島を遊びまわる奴が多いためいつもの停泊と何ら変わりない。いつも船番をしている先生と名前だけはいつもと過ごす場所が変わるくらいだ。


この島はなかなかに発展した島で、街は多くの人で賑わっていた。
造船所だけではなく島には最新の武器や、その部品、おれの好きな本屋も今までで見た中で一番デカいものだった。
これはきっと名前も喜ぶだろう。名前の奴も停泊中ずっと引きこもっているしそろそろ連れ出さないとと思っていたところだ。

そう思って名前の部屋の扉をノックした。


「はい…、デュースさん?」


少し物音がした後すぐに扉は開かれ名前が顔を出す。
おれの訪問に少なからず驚いているようだった。
ちらと部屋の奥を見れば宿の部屋に備え付けられている小さなテーブルに海図や定規などが広げられていた。その横にはたくさんの本や資料。

全く、停泊中くらい航海士から離れろっての…。


「近くにデカい本屋があるんだ、一緒にどうだ?」
「本屋さん?行きたいですっ」
「なら決まりだな、待っててやるから用意しろ」


おれがそう言うとはい!と笑う。
あ、今の可愛いな。なんかキュンてした。






「そういえばエースくんはいいんですか?」
「ん?あー、今日はスカルに任せてきた」


おれにも休暇はいるんだよ。と言えばクスクス笑う。名前と二人で並んで歩くなんて久々だ。昔は三人でよく歩いたもんだが、仲間が増えてそれぞれの役目が出来てしまった。あの頃も楽しかったなと懐かしい気分になる。


「そういや昼飯は食ったか?」
「いえ…ずっと海図描いてて…」
「ならまずは腹ごしらえから行くか」


付き合わせていいんですか?と不安そうな名前に当然だろ。と頭に手を乗せる。
わかってたけど、わかってたんだけど!こいつは昔からおれに気を遣ってる。
一番の古株だってのに、もう少し心開いてくれてもいいのによ。と本人には言わねぇけど、心の中で呟く。
けど、困ったときとかは相談してくれるし信頼はされてるんだろうし、そういうとこが可愛い。


改めて見ても名前はとても海賊には見えない。実際エースに無理やり連れ出されたらしいし、名前自身も海賊になる気なんてなかったんだろうな。
けど、今はスペード海賊団になくてはならない航海士だ。
独学で勉強してたらしいけど、その知識はすごいものだった。
エースもそういうところを見抜いたのかもしれねぇな。

……いや、別の理由か。


思い当たることに苦笑する。

出会ってすぐに気付いたけどエースは名前のやつに惚れてる。そりゃもうゾッコンだ。
だけどこの二人の距離は思うように縮まらない。
主に問題があるのはエースの方だ。



レストランで食事を済ませて目的の本屋へ行った。そりゃもう大きな建物で10階まで世界中の本が集められているらしい。この本屋にない本はもう世界のどこにも存在しないと店員が鼻高々話していた。


「うわぁっ…!!」


壁いっぱいに並べられた本に目をキラキラと輝かせる。
正直こんな笑顔の名前を初めて見た。


「海に関する本は6階らしいぞ」
「他にもいろいろありますね…!」


店の案内図を見れば各階にテーマが決められているらしい。
名前は「ここも気になる…!」と様々な階に興味を示していた。
連れて来て良かった。こんな笑顔が見れるなんてなんだか得した気分だ。


「とりあえず好きなとこ見に行こうぜ、終わったらこの案内板で待ってる」
「はい…!!」


ここで一度別行動することにし、興奮気味な名前と離れた。
駆けていく彼女の後ろ姿を見送り、おれは一度外へ出た。


プルプルプルプルプル…

掌に乗せた電伝虫を見つめていればガチャと目を開いた。
わーわーと後ろが騒がしいが目当ての人物には繋がったようだ。


「スカルか?」
「おーデューの旦那ァ!どうしました?」
「いや、エースが心配で、特に問題起こしてねぇか?」
「あい!船を出てからひたすら食べてるだけですよ!金は払ってるんで安心してください」


おれの頭を過った心配はスカルが言った言葉で杞憂に終わる。
スカルの話では今日は食べて飲む予定のようだ。
そのうちまたどこかの店で溜まってみんなで一晩中騒ぐんだろう。
それくらいであればいつも通りのことなのでスカルに任せることにした。
スカルの情報でもこの島付近に海軍は来ていないようでしばらくは羽が伸ばせそうだと肩の力を抜いた。


「なんかあったら連絡くれ」
「任せてくださせぇ!」


頼もしいスカルに若干苦笑いを送って電伝虫を切った。



数時間後おれも目当ての本を数冊買って案内板で待っていれば名前も買い物を終えたようで大きな紙袋を抱えて戻って来た。

大きいと言っても顔は見えている。
名前はお待たせしましたと申し訳なさそうに軽く頭を下げた。


「目当てのは見つかったか?」
「はい!もう気になるものが多すぎてこんなに…」
「そりゃよかった」


とりあえず名前の腕からその袋を奪うと持てるから大丈夫だ!と何度も取り返そうとされたがここで持たないのはおれの気が済まんと言えばしぶしぶ納得した。


「すみません、重いのに…」
「気にするなって、他に行きたいところはないか?」
「大丈夫です!荷物もあるし宿に戻ります」


慌てて顔の前で手を振る名前に苦笑する。気を遣わなくていいのに。
ま、それが彼女の性分だな。おれも納得し、とりあえず宿へ戻ろうということになった。

本屋を出れば日が落ちかけていて結構長く本屋に居座ったんだなと実感する。
ここから宿へは大通りを通らないといけないため結構距離があった。


「名前は航海士になりたかったのか?」


道中の沈黙が気まずかったとかではないが、なんとなくこういうことを話す機会というのはなかったなと思い、聞いてみた。すると名前は少し考えるような仕草をした後んー。と声に出した。


「なりたかった…んですかね?」
「なんで疑問形だよっ」


ぷはっと吹き出せば彼女も少し笑った。


「昔、エースくん達と遊んでいたころは海賊になるっていう彼らについて行きたいって思ってたし、自分で世界を見てみたいって思ってたんですけど。その夢も現実味がなくて、もうやめようと思ってたんですよ。実家のお店もあるし、村で過ごしていくのに航海術なんて必要ないし。子どもの頃の夢で終わらせようって、でもエースくんが連れ出してくれて…」
「へぇ…」
「エースくんがわたしを航海士にしてくれたんです」


なんか彼女の口からこんなにエースの話が出ることが意外だった。
前にエースから聞いた話じゃ強制的に連れ出されて海賊になったらしかった。

なのに今まで文句の一つも言わずいつもおれ達のために働いてくれてた。

そうか、そういうことか。
今までエースの一方通行だと思ってた二人の関係はおれが思っていたよりも近いものだったのかもしれない。名前が戦闘できるようになりたいと言いだしたのもこの海賊団のため、それは全てエースのためだ。


口元が緩んだ。今まで踏み込めなかったが、この二人が上手くいけばいいのにとずっと思ってた。


この間の島では二人で花火大会に行ったらしいと噂で聞いた。
あの日のエースの機嫌の良さは忘れられねぇ。ニヤニヤニヤニヤして、自分で花火を打ち上げるんじゃねぇかってほど舞い上がってた。なにやら二人がキスしていたという目撃情報もあるくらいだ。

きっと二人にとって距離を縮める良いイベントになっただろう…。

…あれ。

感慨深く名前を見れば、ある一点を見つめて表情が固まっていた。
それを不思議に思って視線の先を見てみてみれば…


「船長さんまた来てくれたのーっ」
「昨日は楽しかったわ〜」


おれは心の中でハァ。と溜息をついた。

たくましい身体に絡みつく女の腕、押し当てられる胸
紛れもなくエースだった。スカルのやつ見張りはどうした…!
って奴にも女が絡みついてた。

女達に誘導されるようにエースとスカルはその店に入って行く。
それにあの言い方じゃ今日初めて行ったというわけでもなさそうだ。

もう一度名前へ視線を戻す。

なんつーカオだよ…。

それはもう悲しそうな、寂しそうな。それでいてどこか諦めも混じっている。
その様子におれも胸が締め付けられそうだった。

思い出した。花火の日舞い上がってたエースが自分に女が寄って来てたのに名前が嫉妬してたってことを嬉しそうに話していた。きっと、今名前がここにいることもあいつは気づいてるんだろう。

名前はエースが店に入って行ったのを見送るとハッとしたように表情を戻しておれに笑いかけた。


「す、すみませんっ、ぼーっとしてて…」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ?行きましょう」


無理に笑顔を作って、さっきの方向を見ないようにして歩き出した。
きっと初めて見たわけじゃないんだろう。エースはまぁどこに行っても女によくモテた。
今までの島でだってよく女を連れて歩いてるのも見てきた。
それが悪いとは言わねぇが…。名前が知らねぇ男と歩いてたら絶対相手のこと殺すまで怒るだろうに…。

はぁ。うまくいかねぇもんだな。

おれは先に進む小さな背中を追いかけて溜息を吐いた。

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