スペード海賊団の航海はまさに順調だった。

名を挙げるエースくんに政府も危険を感じたのか七武海へ勧誘してきたのだ。
それを当然のように断ったエースくんにはさらなる懸賞金が掛けられた。

そして、わたしたちは魚人島を経て、新世界の海へ到達した。

新世界に入って早々赤髪のシャンクスに挨拶に行くというエースくんの言葉に船員達はみんな混乱していたけど、なぜ彼がそう言うのかわたしはその訳を知ってる。

彼の大切な弟、ルフィの命の恩人だからだ。
わたしも赤髪海賊団がフーシャ村に停泊していた時に会ったことがあったから彼らがとても気のいい人達であることは知ってる。だけど、今や四皇と呼ばれるまでの大海賊だ。そう簡単に会えるものではない。

しかし、敵船から得た情報と、スカルさんのおかげで赤髪海賊団の停泊している島が判明しわたし達はその島へ向かった。


とある冬島の洞窟に彼らはいた。
先にエースくんが単身で挨拶に行き後からわたし達も招き入れられ二つの海賊団での宴が始まった。

エースくんとシャンクスさんはルフィの話で盛り上がっているようだ。ルフィの話ならぜひわたしも混ぜてほしいところだけど、さすがに図々しいかと思って隅の方でちびちび飲ませてもらっている。二人の話が落ち着いたらわたしも挨拶に行こう。覚えてもらってるかわからないけど。


「名前、来いよ」
「えっ…」
「名前?」


タイミングを伺っていたのに、エースくんがわたしを手招く。
シャンクスさんもなんだか聞き覚えがあるような。とわたしを見る。
まさか呼ばれるなんて思っていなかったけれど、呼ばれるがままエースくんとシャンクスさんの間に座らされる。
シャンクスさんはわたしの顔を覗き込んで名前を呟いた。そしれパッと顔を明るくさせた。


「あぁ!名前か!大きくなったな!」
「は、はい」


どうやらシャンクスさんは覚えていてくれたようで、ニコリと優し気な笑顔を浮かべてくれた。


「あの頃はルフィに引っ張られてたのにな!」
「わわっ」


からかうように笑ってわたしの頭を撫でつける。
ふとその行為に懐かしさを感じた。昔もよく頭を撫でてくれたなこの人は。
片腕を失う前は両手でわしゃわしゃとよくされたものだと思い出す。


「もう子供じゃないですよっ」
「わははっ、それもそうだな!」


さぁ飲め!と酒瓶を傾けられるけどそれをエースくんが片手で制した。


「こいつ飲めねぇんだ」


そう言うエースくんにシャンクスさんはへぇ。と片眉を上げた。
何か面白そうなものでも発見したとでも言いたげだ。
しかしシャンクスさんはすぐにわたしの向き直ると右手をわたしの頬に滑らせた。
そのままシャンクスさんの顔が近づく。


「しかしいい女になったな名前、よかったらこのままうちの船に乗っても…」
「えっ……」


その瞬間背後からもの凄い圧のようなものを感じ、その瞬間わたしの意識は飛んだ。





倒れかかる名前の身体をエースが腕で支えた。
それをみてシャンクスが呆れたように腕を上げる。


「おいおい…、ほんのからかいだろう」
「……」
「覇気を当てるか普通」
「これしか浮かばなかったんだよ」


エースの覇気によって気絶した名前は力なくだらんとエースに凭れかかる。
しかし、エースの判断は懸命と言えたのかもしれない。ここでシャンクスを攻撃していればすぐに赤髪海賊団は敵に回りこの楽しい宴の場は戦場と化していた。

先ほどからこの二人を見ていたシャンクスはエースの思いに気付いた。
そこでエースがどんな反応をするのかからかってやろうと思ったのだ。

しかし、思ったよりもこりゃ、ご執心だな。

エースに抱かれる名前の寝顔を見て思い出す。

昔ルフィに手を引かれて自分達の元に遊びに来ていた少女。
海賊である自分達に憧れどころが、海賊になる!という少年に対しどこか冷めた目を送っていた。その少女が成長しあのルフィよりも早く海賊として海に出ているのだ。
どう考えてもこの男が関わっているのだろう。

最初、名前に対して冷たいと思ったら、おれが名前に触れると面白くなさそうに睨んで来ていた。
だが、おれと名前を会わせないようにしようと思えばできたはず。
きっと名前の気持ちを汲んでやってここへ呼んだのだろう。

感情のコントロールはまだまだ未熟だが、仲間を思うところは船長の器か。


そのエースは彼女の寝顔を愛おしそうに見つめ、顔にかかった髪をよけてやっていた


「お前、新世界まで連れてきたからにはしっかり守れよ」
「当たり前だ」
「それで、どこまでやった?」
「あぁっ!?」





しばらくして名前が目を開けた。エースに抱かれて眠っていた自分の状況が掴めずにあたふたとしていたがエースが「酒飲んでつぶれた」としれっと嘘を吐いていた。
当然飲んだ記憶などない名前は首を傾げるわけで「すみませんでした!」とおれに謝ってきたが、気にするなと頭を上げさせた。

エースの今後の目的も聞けたところで酒も尽き、この宴はお開きとなった。



「シャンクスさんお会いできてよかったです」
「おれもだ。新世界の航海は航海士の腕にかかってるぞ、頑張れ」
「はい」
「あと…、さっきも言ったがおれはいつでも大歓迎だからな」


そう言えば一瞬不思議そうな表情を浮かべて固まるが、話の意図を理解できたのかすぐに柔らかいものに変わる。


「ありがとうございます。でもわたしはエースくんの航海士なので」
「へぇ…」


これはおもしろい発見だった。
海賊団の。ではなくエースの。か。
明らかな一方通行かと思ったが案外そうでもないらしい。

出航準備を進めるスペード海賊団の船を見上げながら、今後の二人がどうなるのかも楽しみだなと隣に立つベックマンに耳打ちすると奴もまた口元を緩めた。

準備が整いスペード海賊団が出航する。

止んでいた雪がまた吹雪いてきた。
そうか、雪が止んでいたのはエースの力か。

彼の話ではこれから白ひげの首を獲りにいくらしい。
海が荒れそうだと物騒な話のはずなのに口角が上がった。

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