本音は禁句なんです
「おい名字、て、ありゃ。」
「あれ、名字さん寝てんの?」
「みたいだな。静かだし。」
昼休み。化学準備室に入り浸っているオレは化学教師の増田に雑用を言い渡された。ノート集めなんて、オレのほかにちゃんと化学係いんのによ。
仕方がないのでノート提出をクラスの生徒たちに促した。突然すぎる命令の為、生徒の半数はブーイングをしていた。増田に言え、増田に。
まあ増田は教師にしては成績の付け方が適当=甘い(特に女子には)ということで名の知れた奴なので、みんなミミズの引かれたノートを気にもせずにオレの机に提出した。
ひい、ふう、みい、よ、
数えていくと、二冊足りない。一冊はオレの分だ。もう一冊は
「むにゃ・・・ぐう」
こいつだ。
「よくあんだけ騒いでたのに寝られるな、コイツ。殴りてえ」
「鞄勝手に漁っちゃってもいいかな、さすがにやばいかなってエド何の躊躇もなく!!」
「こいつにTPOとかまじ必要ない」
「ああそう・・・」
鞄の中にはポッキー、カロリーメイト、漫画、雑誌、ジュース、けん玉、UNO、etc...
化学のノートは見当たらなかった。
「くっそ、机の中かよ出し辛えな、蹴るぞコラ名字。」
「いや待て待て待て、スルー!?鞄の中身、特にラスト二個に関してはスルー!?」
「修学旅行かよ!・・・たく、この状況でどうやって取り出すか・・・」
「ごめんエド俺が悪かったからそんな扱いしないで・・・」
ていうか修学旅行にもけん玉持ってく人とかいなくね?
ぶつぶつ言ってる安部を横目に、全く起きる気配のない名字の背後に回って、机の中にノートがあるか確認する。多分、あれだな。
「もう面倒だし名字さん起しちゃえば?気持ち良さそうに寝てる所申し訳ないけど。めっちゃ健やかな表情して寝てるけど。めっちゃ起こしづらいけど。」
「いやそれは極力避けたい。」
「え?」
机に突っ伏して寝ているものの、若干だが隙間はある。はたから見れば大変怪しい光景だが、まあクラスの奴ならオレにそういう気がないことぐらいわかってくれるだろう。つーか分かれ。
ふと顔をあげると、凄く意外そうな顔をして立っている安部と目が合った。
「?なんだよ」
「いや、名字さんに対しても優しいとこあるんだなーって思って。」
「いや、起こすと面倒だろ?」
「あ、そうですか。」
名字は黙ってれば可愛い。喋ってるこいつを知ってる奴なら、名字の寝顔は天使のようだと誰もが思うだろう。
「本当こいつ一生寝ててくんねえかな。おっ、出てきた、化学ノート。」
「それ遠まわしに死ねって言ってるよね。」
「うお、名字意外とノートちゃんと取ってんのな。」
「ほんとだ。でもちょいちょい落書きある・・・て」
安部が急に表情を固くした。パラパラとめくっていた指を止め、ノートの端に書かれてある落書きを見る
『ちびエド』
『低身長もえ!エド可愛い!』
『後ろから、今日も小さい、彼見つめ』
ぶちっ
「どううううああああああああああれがミジンコマイクロどちびくわあああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
「いだあっ!!!!」
全力で、力の限りノートを名字の頭にぐりぐりと押し当てる。
なんだよこれ!!!!!うっぜえ!!!!!!一句詠んでんじゃねえよ馬鹿!!!!!!!!
その後、オレの説教をにこにこと聞く名字に、血管はまた破裂した。
増田=マスタングです。
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