13

 さっきまで俺の頭の中で自問自答していると思っていたが、どうやらアカヤの囁きだったようだ。
 俺の真ん前に立つと、パチンと指を鳴らす。金縛りが解けて、俺はその場に尻餅をついた。
「いや〜いいッスねぇ、その顔!驚愕、不審、疑問、恐怖…マジ面白くって、ゾクゾクするなあ!」
 嬉しそうに、鋭い牙が生える口を大きく開けて笑うアカヤに、俺は震える声を絞り出した。
「お、俺たちを、どうするつもりだ?」
「そうッスね〜どうしてやろうかな〜正直、地獄に堕とすだけじゃ物足りないんスよね。悪魔の俺にあんなコトしてくれちゃってさぁ。マジありえねーんだよアンタら。とりあえず、落し前はきっちり付けてもらおうか、アンタもあっちにいたヤツもなあっ!」
 笑いを消して猛獣のような鋭い目で俺を睨みつける悪魔に、目を逸らして逃げ出したいが、恐怖で竦み上がって足が動かない。
「俺のことは、どうしようと構わないが…海堂にだけはもう構わないでくれ!頼む!」
「海堂?あぁ、アンタの後ろに転がってるヤツ?」
 顎に手をあて、首を傾げたアカヤが、ニヤリと悪魔の微笑みを浮かべた。
「つうかソレ、本当に海堂だと思ってんの?」
「…どういう意味だ?」
「俺が地獄に堕としたヤツだよな、ソイツ。じゃあ、もう人間じゃないッスよ」

(今そこにいるのは、魂は海堂だけど、外形は海堂ではないんだ…)

 不二の不吉な言葉が蘇り、それを払拭するように俺は叫んだ。
「う、嘘だ!海堂は人間だ!」
「地獄は原始。あそこに行けばみんな、見た目も心も、原始に戻るんだよ。人間になる前の、俺みたいな中途半端な姿にな」
 アカヤは足の蹄(ひづめ)を踏み鳴らし、威嚇するように長い尻尾を大きく揺らした。
「アンタから見て、悪魔の俺の姿は化け物に見えるよな?じゃあソイツも、化け物確定。早くそこから離れないと、アンタソイツに食われて死んじゃうッスよ?」
「そんな、馬鹿な話が…!」
と、反論しようとした俺の手に、ヌルッとひんやりしたものが触れた。
尻餅をついた時、右手が海堂を包む布に少し入ってしまっていたのだが、その指から、手首、腕にかけて、一匹の蛇が這い上がって来ていた。
「うわああぁぁっ!!」
 俺はそれを振り払い、四つん這いになりそれから離れた。ザワザワと、蛇に絡み付かれた感触に、全身が粟立つ。
「いいッスね〜アンタが守りたかったソイツを、振り払って裏切るアンタ、最高ッスよ!」
 裏切ってなんかいない!と心の中で反論しても、俺の全神経がアカヤにではなく、白い布に包まれたナニカに集中していて、言葉も出せない。

「シュー…フシュー…」

 爬虫類の特有な息遣い。腕だと思っていたところから顔を出し、こちらを見据える蛇のものではない。それはもっと大きな、大蛇のものだ。
「なぁ、これでもアンタさ、こいつをまだ人間だって言えるんスか?」
 アカヤはそれに近付き、布を剥ぎ取る。
 頭部は人間の形をしているが、胸から下が大蛇の胴、二の腕から先が蛇の頭と、変わり果てた彼の姿が露わにされた。

「いヌい、センパい…」

 低くて聞き取りにくい声を出しながら、雲の上に倒れていた彼が頭を上げる。
 耳まで裂けた大きな口から、先が二股の赤くて細長い舌がチロチロと動く。
 しかしそれよりも、白目が真っ赤で、黒目が極端に小さく縦長になった大きな瞳に睨まれて、俺は完全に硬直した。

「見ナいでッて、言ッたノニ…」

 悲しみ、怒り、屈辱、失望…様々な感情で沸々と燃えるその目から、真っ赤な涙が溢れ出す。それが雫となって下に落ち、真っ白だった布に染み込んで、じわじわ広がった。彼の疑念、俺の後悔のように。

「ヤくソく、ヤブりまシたネ…もうシンジられまセン」

 海堂の腕から生えた2匹の蛇が怒り狂い、俺に向かって大きな口を開けて襲い掛かってくる。



2013/6/4 up



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -