小説2 | ナノ


  違和感のその先に


「……どうしたんですか、その髪」
 声をかけられて振り返れば困惑した表情の白龍が立っていた。
「ちょっとアラジンの魔法が失敗してな……」
 そう零しながら、白龍の驚きと困惑が混じった顔を眺めていると、最初はアリババとは気がつけず声をかけるのも随分迷っていたのだと白龍は告白した。
そりゃそうか。とアリババは自分の前髪をいじった。モルジアナの髪の毛と同じ夕日を想わせる鮮やかな赤。
 そのモルジアナは今頃アラジンの鮮やかな蒼い髪になっていて、アラジンはといえばアリババの金髪になっている。魔法が発動した直後は互いの顔を見合わせて目を丸くしたもんだ。一時的な魔法で今日の終わりにはすぐに戻るらしいけれど。
「よく俺だって気付いたな」
「服装は同じですし、つのはありますし……」
「つのって何だよ!!」
 白龍の言いたいことは大体分かるが、一部は素直には認めたくない。どうにも俺を前に白龍は考え込むように腕を組んで探るように俺を見ている。ちょっと待て。なんだその目。少し怖いぞ。
「それよか俺、どーよ? 髪の毛の色変わるとやっぱ雰囲気変わるだろ??」
 俺も赤い髪になった後、一人になって思わず鏡を覗き込んだんだ。そこにいるのは確かに俺なのに髪と瞳の色が違うだけで全くの別人に見えた。
「まるで別人になったみたいだろ?」
 そう言えば、腕を組んでいた手を解いて白龍は顔を上げた。
「何を言っているんですか。アリババ殿はアリババ殿じゃないですか」
 当たり前のようにそう返されて――目を丸くしたのは俺の方だった。何故か胸の内にすとんと落ちてきた言葉に目を瞬かせた。
 ついでにこの視線だ。白龍の真っ直ぐな視線に何故か気恥かしくなって顔を逸らした。
「……あ、そう?」
 くだらないことを言ってしまった気がして思わずへらへらとした笑い方を浮かべて言葉を濁した。
 同時に長年培ってきた自分と言う形が目に見える形で変容したのは初めてだった。新しい自分になって過去から逃れられた様な錯覚。
 髪と瞳の色が変わった自分を見て全く別人になった気がした。
 けれども――髪や瞳の色――外見が変わるだけで人が変わるなんてそんなことはありえないのだと、白龍に言われた様な気がしたんだ。変わってなんかいないと安心したんだ。
「よーしっ!それじゃ街にでも出かけようぜ!」
「何でですかっ!?」
「時間があるなら付き合えよ! 俺の髪も瞳も期間限定なんだからどっか行かないと損だろ!!!」
「やることあるんですけどっ!!」
 はっきりと聞こえた抗議の声を無視して、俺は手を引っ張って外へと歩いて行った。この時ばかりはモルジアナの力をちょっと借りた様な気分になった。まるで髪と瞳の色が変わって少しの間ファナリスになったみたいに。
 髪と瞳の色が変わっても俺は変わらない。でもいつもとちょっと違う自分にうきうきする気持ちも止まらない。
 横でため息をついている白龍はもう逃げることを諦めたようで、気付けばさっき会った時と同じような困惑した表情を浮かべていた。

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