小説2 | ナノ


  砂時計2


 熱い、身体が熱かった。
 身体を巡る血の熱さだけじゃない。それとは別の、腹部に感じる熱さ。それが、酷く熱かった。
 その全身を支配する熱とは別のもの――それの正体がまさか本当に白龍が言った通りのものだとは思いたくなんかなかった。
「……うぁっ! あぁっ!! やぁあああっ!!」
 奥を深く突かれる度に口からはみっともない嬌声が漏れた。前立腺を刺激されて背筋を走る電流のような快楽に背がしなる。びくりびくりと身体が跳ね、思考もまとまらず与えられる苦しいほどの快楽に足の指先がきゅっと丸まった。目の前も白く染まっていく。
 熱を吐き出したのだと思っている間もがつがつと奥を突かれて敏感なナカが痙攣して、身を抉る剛直を締めつけている。律動を止めない剛直にナカを擦られて抉られて、どこもかしこも快楽を拾ってくる。
 痛みは無い。ただ熱かった。快楽に息もままならず乱されて苦しかった。
 いつの間にこんなにも自分の身体は変えられてしまったんだろうか。男に犯されているというのに女のように善がって甘い悲鳴を上げている。
 いくら逃れようとしても両手は上にあげられて植物の蔦が絡みついて動けない。いつもそうだ、逃れられないように寝台に縫い付けられて、それから白龍がやってくる。この部屋で終わりが見えない凌辱が始まる。
「ひぁっ!! ……やぁっ!! やだぁあああっ!!!」
 逃れられない。それがわかっていても恐怖から拒絶の言葉は絶えなかった。
 快楽と、その先にある純然たる恐怖。男では決してありえない現象。
「この期に及んでまだ恐れるんですか……?」
 俺を見下ろしている白龍が困った子供を見るように眉尻を落とす。全身を黒い鱗で覆われた異形の――魔装をした姿で。
――あなたが俺の子を孕んでくれたらどんなにいいでしょうねぇ……。
 何時だったか白龍が耳元で囁いた言葉が脳裏で蘇る。
 白龍とジュダル。その二人に囚われて監禁されて犯されていた。その関係がさらにいびつになったのはその一言から始まった。
 白龍が魔装をした姿で戯れに俺を犯すようになって、俺の身体にも異変が起きるようになった。魔装した姿で犯される時に腹部に感じる激しい熱。それは新しい命だと白龍は哂って囁いた。
「もう…もう嫌だ、許してくれっやめてくれよぉおっ! ァァアアーーッ」
 どくりと、身の内を抉る剛直が膨れ上がり、体内へと熱を注いでいく。その熱がナカを焼くだけでなく、注がれる度に腹部の熱も脈動し大きく膨れ上がる。
 熱い。とにかく熱かった。もう自分の手足がどうなっているのかもわからないくらいの熱が体中を支配して快楽に染められて、もうもう止まらない。
「……あ、あ……」
 黒い鱗で覆われた手が僅かに大きくなった腹部を撫でていた。触れられて感じるその膨らみ。決して肥満が原因ではない内側に異物を感じる膨らみに、身体の熱も関係なく背筋が冷えていく。
「こんなにも大きくなって脈動を続けようとしている。その熱を誰よりも感じているのはアリババ殿でしょう……?」
 白龍の触れた所から鼓動が伝わるようだった。ドクリドクリと、自分の心臓が奏でる音とは異なる鼓動を。
 その熱は鼓動は今も膨れ上がろうとしている。最初はほんの僅かだった熱が少しずつ大きさを増し、今では身体を支配する熱よりも強く感じている。白龍と交わりその熱を受け止める度に、腹部の熱は脈動し大きくなっていく。
「ひぁっ……うそ、だ……嘘だ嘘だ嘘だぁっ!!」
「嘘なものですか。本当に俺達の子供が生まれるんですね。そう思うと、とても嬉しくはありませんか?」
 嬉しくなんかあるはずがない。合意のもとで行われたことなど一つもないのだから。
 きっと俺は怯えた表情をしているんだろう。かたかたと身体は震えて、首を左右に振って否定を示すことしかできない。
 身に埋まった熱がすぐに剛直を取り戻すのがわかると身体の震えは一層酷くなった。
「もっと注がないと。あなたに宿っている命は普通とは違うんですよ。マゴイを絶えず与えて育てなければならない。安定した生命の形を得るまでずっと……!」
「……ひぁっ! あっ! ……ああっ!!!」
 逃れようと僅かに身を揺らしても、強い力で抱え直されて引き寄せられる。
 一層深く繋がった剛直に、身体中で上がる熱に、心に刻み込まれた恐怖に、思考はまとまらず千千に千切れていく。


「恐れなどせず、貴方はただ俺に身を委ねればいい」







「――大丈夫か?」
 かけられた声に意識が浮上する。額に感じるのは汗だろうか。全身が汗をかいていた。ただ僅かに眠っていただけだというのに。
 顔を上げれば、なんとも言えない様な顔でジュダルが俺を見つめていた。心配そうな顔、とでもいいんだろうか? ジュダルにしては滅多に見せない珍しい顔だった。
「あ、ああ……。大丈夫だよ。そんなにうなされていたか?」
「まぁ……な。どんな夢を見ていたんだ?」
「夢……多分、何か怖い夢でも見てたんだろうけれど……思い出せないな。心配かけて悪いな。大事な時期だって言うのになんで悪い夢とか見るんだろうな」
 苦笑して見せたが、どうもジュダルの顔は晴れない。
「ジュダル?」
 不審に思って首をかしげると、どこか違うことを考えていたのか、はっとしたようにジュダルが顔を逸らした。
「……なんでもねーよ」
 すっとジュダルが差し出した手。それが額に軽く触れると、ふわっと身体が軽くなったような気がした。
「……ふぇ?」
「間抜けな声出してんじゃねーよ。……少しは体楽になったろ」
「あっ……」
 言われてみればぐったりとしていた体が少しは軽くなっている様な気がする。
「ありがとな、ジュダル」
「くだらないこと言ってんじゃねぇよ」
 それだけ言うとさっさとジュダルは部屋から出て行ってしまった。
――何しに来たんだ、あいつ?
 何か用事を告げる訳でもなく人を起こしたと思ったらさっさと出て行く。滅多にみない様子に首をかしげるくらいしか俺にはできなかった。

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