小説 | ナノ


  夢の航路


【注意書き】
龍アリ前提のモルアリ。龍アリモルです。モルさん(♂)がレームの貴族(アレキウス家の養子)とかで留学中ににょたババに横恋慕。白龍は白龍で国の皇帝が他国との王女と白龍の婚約結んだとかで、それを聞いたアリババがショックを受けてモルさんが慰めて、あああああ泥沼っ!!って話を読みたいです★
と思いながらかいた話です。


よろしければどうぞ。











 シンドリアは夢のような国だ。一国の皇子と王女が恋に落ちるという夢も見せてくれる。想いを遂げる夢を叶えてくれる。
「俺、白龍に出会えて良かった」
「俺も、です」
 幾度となく指先を絡めて、口付けをかわしてー体を交わらせた。俺は幸せだった。世の中にこんな幸せがあるなんて信じられない。本当に夢のように消えてしまわないか不安になるほど。
「国に戻ったら、あなたに結婚を申し込みます。必ず迎えに来ます」
「うん、待ってる」
 その時を想像して頬が緩んだ。
 きっとバルバッドと煌帝国は仲の良い友好国になれる。その礎に自分達がなれるというなら、これほど喜ばしいことはない。俺が笑えば白龍も笑った。理想を語り合うことが楽しかった。白龍が傍にいることが嬉しかった。
 俺達はまだ若くて、明るい未来が来ると何の疑いもなく信じていた。



 市場でのことだった。シンドリアに煌帝国からの貿易船が今朝ついたと聞いたから俺はモルジアナを誘って、市場を見て回っていた。新しく港に入ってきた品物、海の向こうでは何が新しく作られたのか。名産品の数々を眺めていると、同時に貿易船が入ってきた時の定番だろう。海の向こうで何があったとか、そういった情報も飛び交っている。
 その時に聞こえてきた話し声に思わず手が止まった。
 聞き間違いかと思って、もう一度耳をすませる。
「――白龍皇子がムスタシムの王女と婚約なさるそうよ」
 今度ははっきりと聞こえた。一人じゃない、それも多くの人がまるで祝い事のように笑顔で話している。がさりと、買った果物が入った紙袋が地面に落ちた。手が、震えていた。
「……アリババさん?」
「あ、ああ……。ごめん」
 袋を拾おうとしゃがんで手を伸ばしたけれど、俺の手を遮ってモルジアナが袋を拾った。指先が震えているのがきっとモルジアナには見えているのだろう。
――ダメだ。こんな……。俺と白龍の関係は公のことじゃないんだから……。
 不自然に思われるのは避けたいのに、体が思うように動かない。
「大丈夫……ですか? 顔が真っ青ですよ」
「ははっ。そうかな」
 口角を上げつつ笑ったつもりだったけれど、俺を見ているモルジアナの目を見れば上手く笑えてないことはすぐにわかった。
「無理をなさらないで下さい。……今日はもう王宮に戻りましょう」
 空いた手でモルジアナは震えていた俺の手を握った。その温かさにどこか安堵していた。歩いている最中、周りの話し声に耳を塞ぎたくて仕方がなかった。市場の浮かれている雰囲気とは別に、俺の心は突然立ち込めてきた暗雲に覆われようとしていた。


 アリババはモルジアナに連れられて王宮に戻っていった。その顔は青白く、誰が見てもただ事じゃないことがあったと一目でわかってしまう。見る者をどうしようもなく不安にさせてしまうだろう。
 だからモルジアナは人通りの少ない道を選んで歩いていた。
「アリババさんもうすぐ部屋に着くから大丈夫ですよ」
「う、うん……」
 いつになく気弱なアリババの様子にモルジアナは胸を痛めていた。



 モルジアナがアリババに初めて会ったのは年が8才くらいのことだった。奴隷商人に連れられているのをレームのアレキウス家が見つけ、養子として迎え入れられたモルジアナはその数年後にシンドリアに留学する機会を与えられた。
 それがアリババと出会ったキッカケだった。
 初めてシンドリアを訪れて右も左もわからなかったモルジアナにアリババは同じ留学生として気軽に話しかけてきた。同い年くらいで話す相手がいなかったモルジアナがアリババに話しかけられることでどれだけ救われたのかは、モルジアナしか知らない。
 元奴隷という引け目もあり話す勇気がなかったモルジアナは明るく話してくるアリババに心をひかれていった。
 ある日だったか、こんな話をしたことがあった。
「アリババさんは他の王族の方とは違う感じがします」
 その言葉がこぼれたのは二人でお昼ご飯をとっている時だった。仲が良くなったアリババとモルジアナはよく、騒がしい大きな食堂の片隅で向かい合って食事をしていた。
 モルジアナの言葉に少し眉尻を下げてアリババは手を止めた。
「…そう、見えるか?」
 不安げな、小さく呟かれた言葉に慌ててモルジアナは手を振る。少なくともモルジアナにはアリババを貶める意図はなかった。それなのに、そのモルジアナの言葉にどこか寂しそうにアリババが肩を落とすものだから、とても慌てたのだ。
「あ、あの…悪い意味じゃないんです。話しやすくて明るくて優しくて…他の方はどこか威圧的で萎縮してしまうんです。アリババさんはそうじゃなくて本当に良かったって思っているんです」
 褒められると思ってなかったのか、アリババはしばらく目を丸くして――はにかんだ。あどけない笑顔に思わずモルジアナの頬が紅潮する。
「……なんかそう言われると照れるな」
「あなたがあの時話しかけてくれたから私もこうして笑えるんですよ」
 そう語り合って笑い合っていたモルジアナとアリババの初めての邂逅は、留学期間の終わりと共に温かい思い出としてモルジアナの中に残ることになった。



 今、モルジアナとアリババは二度目の邂逅を果たしていた。
――二度も留学期間が重なるなんて。
 モルジアナは嬉しかった。けれども皮肉なことにモルジアナがアリババにひかれたように、アリババもまた同時期に留学してきた煌の白龍にひかれていった。モルジアナはその様子を見ていることしかできなかった。どれだけモルジアナがアリババを慕っていても、その思いを告げる前にアリババは白龍と親密になっていった。ファナリスであるモルジアナにはアリババが何を言わずとも、どこに行っていたのか何をしてきたのかが嗅覚から予測がついてしまう。
――アリババさんと白龍さんなら身分だって釣り合っている。結局身分違いの恋だったんだ。
 そう諦めたはずだった。けれども今泣いているアリババを見て、自分がアリババへの恋心を諦めきれてない所か、港で聞いた話が本当なら白龍とアリババが結ばれないかもしれないと内心喜んでいることを、モルジアナは実感せずにはいられなかった。不安に震え、支えを求めるか弱い手を白龍ではなく自分が握っていることが嬉しかった。
「私ならアリババさんをこんな風に哀しませたりしないのに」
 アリババの部屋の扉の前に着いて、ポツリとこぼした。
 それは心からの本心だった。

 アリババさんの為なら身分を捨てることになっても構わない。
 アリババさんの為なら命だって惜しくない。

「優しいな、モルジアナは」
――それでも、私の気持ちはあなたに届かないんですね。
 アリババが自分に向けた笑顔が強がりだ。痛いほどモルジアナにはわかっている。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。少し一人になれば、大丈夫だから」
 支えていたモルジアナから離れて扉を開けながらアリババは笑った。強がりにしか見えないその笑顔に我知らずモルジアナは一度離れたアリババの手を取っていた。
 驚くアリババをそのまま自分の胸に引き寄せる。後ろで音をたてて扉が閉まった。


「ただの励ましじゃない。私は本気でそう言っているんです」
「モル、ジアナ…?」
「あなたにシンドリアで初めてお会いしたあの時から私はずっとあなたを慕ってました」
 最初はショックを受けているアリババさんがただ元気になってくれればいいと思っていた。その気持ちがどうして変わってしまったんだろう。彼女が弱っているのにつけこんで愛を囁いていることくらいわかっている。あまつさえこれを機にアリババさんの気持ちを私に向けれたらと考えている。
 驚いて私を見上げているアリババさんに口付けを落とした。身勝手だとわかりながら頬に手を添え深く口づける。頬に痛みが走ったのはそのすぐ後だった。アリババさんから離れ痛む頬を気にせず顔を上げれば、彼女は涙を湛えて顔を赤くして私を睨んでいた。
「出ていって……くれ」
「……わかり、ました」
 私が部屋から出ればすぐに扉が閉められた。ガチャリと聞こえたのはカギがかかる音だ。
 受け入れられた訳じゃない。むしろ私は傷ついている彼女の心に付け込もうとしたんだ。これは拒絶の音だ。
 痛む頬はじんじんと熱を含んで決してこの現実が絵空事ではないと突き付けてくる。
 守りたかった。傷つけるつもりなんてなかった。
 それなのに扉から聞こえてくる嗚咽は紛れもなく自分が彼女にしたことが原因で、ファナリスとしての私の耳はどれだけ離れてもその嗚咽がやまないことを知らせてきた。




 アリババは一人になった部屋で崩れ落ちて泣いた。
 白龍の婚約話を耳にしたショックとモルジアナに告白され唇を奪われた事実に胸がかき乱されて涙が溢れた。真摯にまっすぐ自分を見据えたモルジアナの赤い瞳が脳裏から離れない。偽りのないその瞳は皮肉にもアリババに白龍を思い出させていた。

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