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  黒き王の導き手


 私には彼の憤りが手に取るようにわかった。
 この少年のルフに造られた憎しみを時間をかけて染み込ませてきたのが私なのだから、それは当たり前とも言えた。
 彼には他者に対する憎しみというものがほとんど存在しない。彼の中に潜り込んだ当初はそれは悩んだ。堕転に必要ともいえる感情が、彼の中には乏しかったからだ。

――けれども、今は。

 一カ月以上をかけた長い時間の中で、植えつけられた憎しみを彼は自分の感情としてとらえ始めている。実に喜ばしかった。そして、憎しみの感情を抱く自分自身に対する嫌悪感をアリババは抱き始めた。



 血が飛び散り、切り落とされた腕がアリババの目の前で宙に舞った。
 後でジュダルに何を言われるかわかったもんじゃないと、頭の片隅で考えがよぎる。しかし、その心配とは反対に私の口元は弧を描いていた。
 悲劇を抱えたドゥニヤを前に彼は手を下さなかった。しかし、行き場を失った怒りが心の内で暴れているのだ。
 あと少しだった。そう、ほんの後少しだ。

 どの道長い命ではないと、ドゥニヤに手を下せば憎しみに満ちたまなざしが私を貫いてくる。
 彼を蝕む呪い、黒いルフの鼓動。なんと心地よいのだろう。
 彼の心は取り返しのつかない領域へと足を踏み入れようとしている。一度転じれば戻ることのできない暗闇の深みに。

――ようやく手に入る。我らの下に、黒く染められた王の器が。偽物の金属器ではなく、迷宮を攻略し、人に認められ力を得た王が。

 彼がバルバッドで己の力を我々に見せた瞬間からかれを黒く染めていくのは決まったようなものだ。
 ソロモンの傲慢がいたとはいえ、バルバッドでアリババが黒いルフを白いルフへと転じさせた力は、アリババ自身の力だ。我々にとって目障りなのは、第四のマギではなく、そのマギが選んだ王自身だった。


 そうだ。ようやくだ。ようやく我々の王が手に入る。

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