《Before, it's too late.》
#02_フェイク:13



 季一先輩イチ押しのそのお店は、明治や大正の昭和以前の趣が色濃く残る、モダンな、という表現が恥ずかしくない店構えだった。

 甘味処、より、骨董屋、ううん、旅館でもいいくらいのそれは、誰かに連れて来てもらわないと、足を運びにくい体でもある。

 けれどそれは、あたしの好きな雰囲気でもあったから、密かに嬉しくて。


 季一先輩にこういう趣味があるだなんて、知らなかった。

 ――や、ちょっと違うな。

 たかだか“フリ”の彼女であるあたしは、よくよく考えてみたら、季一先輩のことを、ほとんど知らないに等しい。

 知らなかった、なんていう台詞は、知っている人のものだ。

 あたしは季一先輩と、お互いの趣味嗜好について、語り合った覚えはない。



「ステキなお店ですね」

「こうでもないと、男ひとりで入れないからね」


 照れ臭そうに、季一先輩はお茶に口をつけた。

 気に入っていたひとくちまんじゅうの店が潰れてしまった、とか、先日デパ地下で水羊羹を衝動買いした、とか。

 今日の季一先輩は、いつもと違う。

 よっぽど和菓子が好きなのかな、と思いながら、ああ違う、これは――。


「今度は、佐織の気に入ってる店を教えてよ」


 付き合い始めたばかりの恋人同士のような、会話。

 あるのかないのかも判らない“今度”を夢見ても、傷付くだけなのに。


 まるで、お互いを詮索し合わなかった年月を取り戻すかのように振る舞うあたしたちは、何を間違えたのだろう。



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