《Before, it's too late.》
#02_フェイク:03



 直人とは、小学三年からずっとクラスが一緒だった。

 義務教育が終わっても、高校も同じになり、また同じクラスが続いている。

 幼なじみというのも少し違う気がしている腐れ縁は、かれこれ八年になる。


「…佐織さ、うまくいってねぇの? 窪田先輩と」


 クラスが同じだけでなく、直人とは、苗字も同じで。

 だから最初から、名前で呼び合うのが自然だった。

 同じ苗字なのに、お互い“矢野くん”“矢野さん”なんて、紛らわしい。


「うまくいくとか、いかないとかじゃないもん」

「…そうだったな」


 季一先輩を、窪田先輩、と呼ぶことにこだわりのある直人の手が、ごめん、と、あたしの髪を撫でる。


 付き合いが長いせいなのか、直人にはあたしの考えてることなんて、手に取るように判るらしい。

 あたしと季一先輩のことだって、“フリ”なんだ、っていうのに気付いたのは、直人だけ。


「お前は何回俺の前で泣けば気が済むんだろうな」

「…ごめん」

「俺が女の涙に強いとでも思ってんのかね」

「ごめ、…――っ」

「あぁ、いいから。泣いとけ」


 なんだかんだ言って、直人はいつも、こうやってあたしを落ち着かせてくれる。

 同級生なのになぜかお兄ちゃんみたいで、あたしはその優しさに、甘え続けてきた。

 ままごとの延長みたいなお付き合いをした元カレよりも、もしかしたら家族よりも、あたし自身よりも。

 直人は、あたしを、よく知っている。







- 17 -



[*]prev | next[#]
bookmark



book_top
page total: 47


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.