《Before, it's too late.》
#02_フェイク:04



 初めて直人に泣いているところを見られたのは、忘れもしない、中学の入学式直後。

 放課後の掃除中、お腹の奥に鈍痛を感じ、間もなくスカートの中から、ぬるりとした感触とともに、赤い線が一筋伝い。

 こんなタイミングで初潮を迎えるなんて思ってもいないあたしは、咄嗟に赤く濡れた足を隠すために、その場にしゃがみ込むのが精一杯で――うずくまったあたしの様子にいち早く気付いたのが、直人だった。

 からかったり、恥ずかしがったりすることもなく、ただ淡々と、赤く濡れた足が周りに見えないようにあたしを抱き抱え、そのまま自転車に乗せて、家まで送ってくれた。

 よりによって男の子に見つかるなんて、という思いと、これが直人でよかった、という思いとが、複雑に交錯する。

 送ってもらったのにお礼も言えず、ただただ、恥ずかしいやらお腹が痛いやらで、泣きじゃくるばかりのあたしの頭を腕に抱くと、『おめでとう』って、笑ってくれた。


 小学生までは、一緒に遊ぶ気の合う仲間のひとり、でしかなかったのに。

 この日を境に、直人は、さりげなくあたしを守ってくれるようになった――と、思うのは、自意識過剰ではないと思う。

 父を早くに亡くしたあたしには、一番身近で頼れる異性が、直人だった。


 あたしが泣くときは、直人が傍にいて。

 いつも絶妙のタイミングで、涙腺を開放させてくれる。

 何も訊かず、何も言わず、ただ泣かせてくれる。



「…もう、しんどいだろ?」

 なのに、今日は違った。



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