《Love Songs》
#02_クリスマス・ラブ:5



「もっと早く、気付いてやればよかったんだ…。俺が一緒に病院に行ってやれば、あんなことには――」

「――お前のせいじゃねぇって言ってんだろ」


 二本目のタバコに火を点け、煙とともに、何度も聞いた台詞を吐き出される。

 俺のせいならまだよかった。

 不甲斐ない俺の宙ぶらりんな心は、いつまで経っても癒えることはなくて。


「お前が義弟になるの、結構楽しみだったんだけどな。俺も」


 行く宛てのない気持ちをいつまでも抱えたまま。


「酷なようだけど、そろそろ他の女に目を向けても、あいつは怒んねぇと思うぞ?」


 早く立ち直れ、と、諭してくれる声が辛くて。


「…とっとと籍だけでも入れとけばよかったよ」


 いつまでも現実から目を背けて未練がましい俺を、お前は空の上からどんな思いで見ているだろうか。








 定時が近付くと、社内の空気がソワソワしだす。

 暗黙の了解で、浮ついていられる日。

 俺も、そんなだったんだろうか。



 お疲れさま、と、明るい声が行き交い、みるみるうちに、フロアには俺ひとり。

 帰ったところで、家では不格好なクリスマスツリーが待っているだけだ。

 残業でもすれば気が紛れるかと、何となく残ってしまった。


 カタカタとキーボードを叩く音が、やけに響く。

 捗っているようないないような、中途半端なデータベースをぼんやりと眺めれば、ふわり、と、コーヒーが薫った。


「クリスマスの予定って残業のことだったんですか?」

「…あ、」




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