《Love Songs》
#02_クリスマス・ラブ:4



「…んなクマ作って。ちゃんと寝てんのかよ」


 タバコに火を点けるのは、高校大学と一緒で、同期入社までした腐れ縁。

 で、あいつの兄貴。


「この季節、お前キツいよな。…あいつ、クリスマス好きだったし」


 切り付けるような風が吹きすさぶ屋上には、さすがに誰もいない。

 吐き出された煙は、あっという間に消えてなくなる。


「…俺、末期かも」

「何を今さら」

「風の音が、あいつの声に聞こえる」

「は?」

「夢に、出てくる」

「…」

「マジ、ヤベぇ。そのうち幻覚見そう」

「…」

「もう、幻覚でもいいから、逢いてぇ…」


 頭を抱え込んで、ズルズルと背中を金網に擦り付けながら膝を折る。


「悪ぃ。お前ら家族のほうが辛いのに、俺がいつまでもこんなんで」

「…いや、」


 隣にしゃがんで携帯灰皿にタバコを押し込んだ手が、俺の膝を叩く。


「俺はさ。あいつの彼氏がお前でよかったと思ってんだよ。どれだけ大事にしてくれて、愛してくれてたかは、多分あいつよりも、端から見てた俺が一番よく知ってると思うし」



 数日前から身体の不調を訴えていた。

 一向に良くなる気配が見られず、病院に行く、と言って、その日は家を出た。


《貧血気味なんだって》


 という電話をもらったのが、最後。

 彼女は病院の帰り道、歩道橋のてっぺんで目眩を起こし、そのままあっさり、頭から階段を滑り落ちた。

 あれから、もうすぐ一年。




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