《Love Songs》 #02_クリスマス・ラブ:6 気まずい。 顔を上げると、淡いピンクのコートが、寂しそうに笑っていた。 「どうせなら、もっとはっきり断られたかったな」 それでも、努めて明るい声色で、コートの裾を揺らした。 「ご、めん…」 思わせぶりに断っただけに、バツが悪いことこの上ない。 「いえ、あたしも、ごめんなさいですから」 「何が?」 お腹のあたりで組んだ指をモゾモゾ動かして、言いにくそうに眉を潜める。 「聞くつもりじゃ、なかったんですけど、こないだ、屋上で話してたの、…聞いちゃったんです」 「あ、――」 「本当に、ごめんなさい」 最敬礼まで腰を折って、そのまま微動だにしない。 「いや、あの、」 何故、だろう。 この話は極近しい友人と親兄弟しか知らないのに、この子に知られても、不快ではない。 顔と名前を何となく知っているだけで、仕事上の接点も特になく、敢えていうなら先日誘いを断った、程度なのに。 そんな程度だから、なのだろうか。 「…顔、上げて?」 もらったコーヒーを飲み干して、パソコンの電源を落とす。 「あの、帰…るんですか」 「うん」 「…怒りましたよね」 「いいや?」 「でも、」 「飯、行かないか」 「――…は?」 「コーヒーのお礼に」 ゴミ箱にコーヒーの紙コップを放り込むと、カコン、と、カウベルのような音がした。 呆然と立ち尽くしていたピンクのコートは、この間涙を零した瞳に、今日は雪が舞うような笑顔を浮かべた。 ――酷なようだけど、他の女に目を向けても、あいつは怒んねぇと思うぞ? 「俺の話、ちゃんと全部聞いてくれる?」 -------------------- A tribute to Southern All Stars “クリスマス・ラブ 〜涙のあとには 白い雪が降る” 初掲 2008.12.11. 改訂 2010.07.11. 悠 -------------------- [*]prev | next[#] bookmark |