《桜、咲く》
#04_嵐の前の:02




「健全な恋愛してる、ってことだろ。幸福滲み出しちゃって」


 おにーさんは嬉しい! と、ニヤニヤした顔で、頭をわしゃわしゃと撫で回される。


「お前さ、ヤり捨てばっかで、荒んだ青春送るとこだったもんなあ。密かに心配してたけど、よかったよかった」

「ちょ、やめ――」

「合コン断ったのだって、三枝がいるからだろ?」

「うーるーさーいっ! じゃれんな!」


 ウザいくらい撫でくる手を叩き落とし、掻き回された髪を直した。

 猫か、俺は。


「…ついでにひとつお節介」


 ニヤけた顔が陰を潜めて、小声になる。


「先月、お前がやられたの、あれ、南高の木下だ」

「木下…?」


 って言われてもな。

 知らない名前だ。ま、よくあるんだけど。


「三枝と同じ幼稚園だったんだよ」

「何それ」

「男嫌いの元凶」

「――は?」

「気ぃつけろよ。あいつ、まだ和紀に何か仕掛けるつもりでいる。…巻き込むなよ」


 宏人が近付いてきた気配を察して、厄介なのが来た、と、修司は立ち上がった。


「和紀ぃ〜合コン〜〜」

「宏人、いい加減諦めろよ」

「修ちゃんも何とか言ってやって!」

「やだ」


 同じ幼稚園。

 元凶。

 南高。

 …――木下。


「気にしとく」

「マジで!?」

「おめぇじゃねぇよ」


 修司に後頭部を小突かれて、宏人は不服そうに何やらわめいていた。



 先月の不意打ちには鈴が無関係だとしても、今後また何かあるとしたら、木下は俺と鈴の関係に気付くはずだ。

 巻き込むな、という修司の忠告を、ありがたく胸にしまい込んだ。








- 36 -



[*]prev | next[#]
bookmark



book_top
page total: 68


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.