《桜、咲く》
#04_嵐の前の:01




「なぁ、和紀〜」

「やだ」


 昼休みからずっと、これの繰り返し。

 案外しつこい宏人に、ちょっとイライラしてきた。いや、かなり。結構。


「アキちゃんのご指名なんだって」

「誰だよアキちゃん」

「南高の新体操部」


 そういや、俺をボコったあれは、結局誰だったんだろう。

 あいつら南高の制服だったなあ、なんてことを思い出した。胸クソ悪い。


「知るか。俺をダシにすんな」

「頼むよ〜」

「いーやーだーね。合コンなんか絶っ対に行かない」


 何が楽しいんだ合コン。

 知らねえ女と飯食う意味が判んねえよ。

 合コンに行くくらいなら、おとなしくこうやって体育の授業受けてるほうが百倍マシだ。


「…なあ、和紀さぁ、」


 和紀が冷たい、とかなんとか言いながら、楽しそうにバスケに混ざっている宏人を横目で見て苦笑しながら、修司が隣に座る。


「四葉の三枝鈴、付き合ってんの?」

「…――はぁ?」


 思いがけずストレートな質問に、目をむいてしまった。


「俺の彼女が四葉女子なの。こないだ放課後、迎えに行ったとこ見たって」

「あー…、行った、な」

「相手が三枝ってことは、」


 男嫌いの難攻不落。

 鈴にはそんなレッテルが貼られている。

 もちろん、鈴本人は知らないと思うけど。


「本気、なんだ?」


 茶化すでもなく、意外に修司が真顔だったので、つい言葉を探してしまう。


「…」

「あの子、遊びで付き合えるタイプ、じゃないもんなあ」


 俺が何ひとつ返事をしていないのに、修司は勝手に納得している。


「どうりで。最近和紀の感じ変わったと思った」

「俺?」

「何つーか、あたりが柔らかくなった」

「別に…。俺は何も変わったつもりはないけど」


 うんうん、と、嬉しそうにされる。

 お前はオカンか。




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