《蛍の群れ》 #03_いろんなこと:19 あたしは、幸福者だ。 ずっと、あーちゃんに守られて。 これからは、望月さんがあたしの隣にいてくれる。 「焦らないで、ゆっくり大人になればいい」 「ん、」 「毎年、蛍を見に行くたびに、きっと未来はいい女になってくよ」 「…なれるかな」 「なれるさ。俺がそうさせる」 優しく口角をあげた唇は、そのままあたしの唇を啄み、乾き切らない目尻を確かめるように這う。 淡く離れ、淡く点るそれは、まるであたしに向かって、蛍が飛んでくるみたいだ。 「…ね、望月さん」 「うん?」 ひとつだけ、判ったことがあるよ。 「さっき、すごく恥ずかしかったんだけどね、…でもね、」 それ以上に、幸福だな、って思ったの。 きゅうっ、と、望月さんの背中に腕を巻き付ける。 同じだけ、抱き締め返してくれる。 トクトクと刻まれる鼓動が、あたしの鼓動と重なって、だんだん規則的なリズムを刻む。 体温が。 肌の質感が。 匂いが。 声が。 唇が。 吐息が。 視線が。 愛しくて。 独り占めしたくて。 もっともっと欲しくて。 …――苦しい。 死ぬまで一緒に、なんて、大袈裟だ、って思ってたけど。 そういう感情が確かに存在するんだ、ってことを、あたしはこのとき、初めての恋で知ることができた。 [*]prev | next[#] book_top |