《蛍の群れ》 #03_いろんなこと:18 それでも、心と身体は、必ずしも同期しないことがある。 説明のつかない想いは、勝手に溢れ出してしまうと、もう止められない。 「なんで泣いちゃうの?」 唇を啄むキスは目尻に移る。 優しく、淡雪を拾うように。 「…やっぱ、怖かったんだろ」 バカだな無理して、って、困惑した笑顔を向けられる。 なんで、なんか、あたしにも判んない。 零れて流れた瞼の際に、そっと親指を添えられて、自分が涙を流していることに気付いた。 指先の温かさが、しっとりと染みてくる。 「ううん、違うの。そうじゃなくて、…あたし、ね、」 望月さんがくれる気持ちの、半分でも、あたしは返せているだろうか。 返したい。 伝えたい。 「望月さんを好きになって、よかった」 嬉し涙なんだよ。 そう思えば思う程、涙はどんどん溢れて止まらなくなる。 「嬉しいこと言ってくれるね」 ぎゅうぎゅうと、痛いくらいに抱き締められて、苦しいのに嬉しくて。 「俺もね。未来だから、大事に大事にしたいんだ」 肩口に顔を埋めたまま、耳元に囁かれたのは、箱に入れて蓋をしておきたいくらい、とっておきの口説き文句。 「未来が、…いろんなこと、初めてなのが嬉しいし、だからこそ大切にしてやりたい。俺が全部、教えるから。俺がずっと、守るから。未来は何も心配しなくていい」 [*]prev | next[#] book_top |